佐藤大盛の青春ラブコメは──。
第一話 佐藤大盛はデートには程遠い存在だった。
今は学校の昼休みの時間帯。
普通ならこの時間帯は友達と集まって教室で弁当を食べたり、高校の売店で昼食を買い友達と集まり食べている頃だ。
そう、この高校にはうまいと評判の売店があるのだ。
高校に売店があるのはかなり珍しいことだ。オレはうまいと評判のこの売店のためにこの高校にやってきた。
なんともテキトーな志望校の選び方だとか言われてもオレは気にしないし気にするつもりもない。昼食が美味ければ学校に行く動機になる。ただそれだけだ。
いや今はそんなことどうでもいいんだ。話を戻そう。
結論から言うと、高校二年にもなってオレは友達と昼食を食べたりなどの当たり前のような生活は一度もしていない。端的に言って友達がいない。
だからオレは今こうして一人寂しく売店の料理を食している。
オレは別に人と関わるのが苦手なわけでも人と関わりたくない訳でもない。
だが失敗してしまったことはしょうがない。
そう思ってオレは一歩前進することを誓った。
……うん。これでよし。
オレは売店で買ったお茶を飲み干し、書き上げた一枚のプリントを持ち席を立った。
──放課後。
呼び出されていた生徒指導室に足を運んで、オレは先程書き上げた一枚のプリントを
そしてしばらくすると大森先生はキリリとした目でオレを睨んだ。
「……何だこの作文は! たしか私が個人的にだがお前に出した課題はこんな内容じゃなかったぞ? 生徒会役員としての活動報告だぞ!」
この小さな生徒指導室に大きく響くくらいの声で言いながら、大森先生は机をバンと叩きこちらをじろりと見てくる。
オレは一瞬ビクリとするが感づかれないよう直ぐに言葉を返す。
「いえ、だからオレの昼の活動報告を……」
「こんな訳の分からない活動報告を私が読んで何になるんだ! せめて生徒会の一員として学校によく貢献したという一文を書いてきてくれよ! ──あぁ、私がお前に生徒会を進めるのは間違いだったのかもしれない……」
言いながらはぁと深くため息をして頭を抱える。
オレは高校二年の五月の初め頃から生徒会の書記をやっている。でもそれは先生が進めたから。
成績はそこそこいいんだし、将来的にもっと経験を積んだ方がいい。もっと人と関わり学校にもよく貢献してくれとのことだ。
そんなにがっかりとされてもオレは知りませんよと言いたいところだ。
「だがこれで私はお前が今いる状況が心底不安になってしまったよ。もう少し人との関わり方を考えておくようにしてくれよ?」
「考えるって言ってもオレにはもうどうすることもできないですよ?」
「早々から諦めたことを言うな、まだ先は長いんだからこれから何があるのかもわからないだろ?」
「オレはそううまくはいかないんですよ。それに先生だってまだ先は長いからっていつまでも彼氏いないのは──っ痛でで! 先生なにするんですか!」
「私のことはいいんだ。私は君のことを心配してだなぁ……」
励ますように先生は言うが、オレは実際そんなことがあるとは思っていないのが現実だ。
夢も希望もありゃしない。
オレは小さなため息を着いた後この金箔とした空気の中、手提げ
「それではオレはもう行きますね」
「おい、まだ話は終わってないぞ?」
こんな嫌な話を誰が続けたがるんだよ。
オレは先生の言葉を無視してそのまま扉を閉めた。
大森先生に呼び出されたせいでオレは放課後の生徒会を遅刻して行くこととなった。
先生との話の途中に見た時計の針はもう五時を越していた。
生徒会の活動は四時から五時半までのたったの一時間。今から行っても三十分程度しかないが、休むわけにもいかないのでオレは駆け足で生徒会室へと向かった。
勿論廊下を走っている訳では無い。そういう気持ちを持って生徒会室に向かっているだけ。
生徒会役員が廊下は走っちゃだめだからね。
そして生徒会室の前に着くと、生徒会室の中からは話し声が聞こえてくる。
それも当然、既に生徒会は始まっているのだから。
オレはこれまで生徒会を遅刻したことはなかったし、それを言うなら生徒会長の次には生徒会室に来ていた。
そんなオレだから理由があったとはいえ、初めての遅刻は少し緊張気味になってしまう。
オレは生徒会室の前で一度深呼吸をしたあと、生徒会室の扉に手をかける。
「おっ! 遅かったね佐藤君。先生との話は済んだのかい?」
いきなり後ろから声を掛けられ思わず扉をすごい勢いで開けてしまいながらオレは後ろを振り向く。
するとそこには我が校の誇る生徒会長の
彼女はこの学校の誇るフルーツ美少女セブンの一人である。
はっきり言って美人のお姉さんみたいな感じ。鋭い目付きが完璧感を、モモ色の長い髪が可愛さを
初対面ではこの人は冷たくて頑固な人なのかと勝手に思っていたのだが、実際はとても優しくて冷静、校内でもとても人気がある人だった。
生徒会の皆は彼女のことをモモ会長と親しく呼んでいる。
ちなみにフルーツ美少女セブンというのは本校の男子生徒達が密かに集計を取り、勝手にランキングを決めたら、みんな名前にフルーツの名前が着いちゃっていたからそう呼ぶらしい。
これの集計は男子達の間で極秘に毎年実施されている。
なぜオレがそこまで詳しいのかと言うとオレも四月の初め頃にちゃっかりと回答必須アンケートと言われ紙を渡され、データを提供してしまっているから。
「あれ、驚かせちゃったかな? ごめんね!」
言いながらモモ会長は申し訳なさそうにしながら両手を合わせる。
「いえ、大丈夫ですよモモ会長、それより生徒会に遅刻してすみません」
オレはモモ会長に前もって事情をちゃんと話しておいた。こういうところ、オレは抜かりがないと自分でも思っている。
「いいんだよ一日くらい。佐藤くんはいつも私の次にはこの生徒会室に来ているのだし、やる気が人一倍あるからね」
モモ会長は言いながらオレよりも先に生徒会室に入った。
「ねぇ、柴田(しばた)くん? 君はいつもここに来るのが一番遅い、少しは佐藤くんを見習ってよね? 来るには来るからいいのだけれど、もうちょっと早く来てよね?」
言いながら一人の男子生徒会の耳をつまみ引っ張った。
柴田くんは痛いと叫ぶがそんな声も聞かずに容赦なく耳を引っ張り続ける。
紹介しよう。耳を引っ張られている彼は生徒会の柴田……なんだっけ。確か学年は一個上の……。
……まぁそんな重要な人物じゃないし、生徒会の活動も来るには来るがサボり気味。
彼は生徒会のモブ。以上!
「佐藤くんも早く入って。もう時間がないから今日は直ぐに取り掛かるよ!」
「はい」
オレは言われるまま生徒会室に入り、扉を閉めた。
生徒会では今年の文化祭のことや部活予算などを考えた。
「よし、今日の生徒会活動は終わり! よって解散! お疲れ様でした!」
「「「「お疲れ様でした!」」」」
この短時間でホワイトボードにマーカーでぎっしりと文字を詰め込み、サクラ会長の掛け声と共に生徒会活動が終わった。
時刻は丁度五時半と完璧だ。流石サクラ会長。
感心しながらオレは手提げ
「佐藤くん、ちょっとだけ待ってくれないかな?」
だがモモ会長に突然呼び止められ、オレは足を止める。
普段面倒事ならゴメンなのだが、ここはサクラ会長に恩を売っておくのも悪くはない。
他の生徒会メンバーはすぐに帰ってしまい、生徒会室でモモ会長と二人きりになった。だがこんなことではオレは何も意識しない。
「どうしたんですか?」
オレはくるりとモモ会長の方を向き、できるだけ面倒なことを押し付けられないようにと思いながら聞き返す。
すると会長は視線を泳がせ頬を朱色に染め、一度深呼吸をし始める。
いつも冷静なモモ会長にこんな表情をされるとオレは少し新鮮な気持ちになってしまう。
そして口をもじもじとさせた後、視線を少しオレから逸らしながらモモ会長の口から言葉が出される。
「次の土曜日に私とお出掛けをしないかい?」
……え?
「もう一度お願いします」
別に聞こえていなかった訳じゃないし、モモ会長のお誘いをもう一度再生したい訳でもない。確認だ。
「えっ!? もう一度? わっ、わかったよ。ならもう一度言うよ? 次の土曜日に私とお出掛けをしないかい?」
今度はオレの目をしっかりと見ながら再び同じ言葉がオレの耳に届く。
これってもしかしなくてもデート。デートだよね?
なんでオレと出掛けようと決めたのかは知らないが、デートでいいんだよね?
こんな美人とデートだなんて断る理由がないじゃないか。
「わかりました、オレでいいのなら」
「そうか! ありがとう!」
オレの返答を聞いて安心したのかサクラ会長は微笑むと、そのまま鞄からスマートフォンを取り出した。
これはいわゆる連絡先の交換というやつだろう。
オレはスマートフォンを持ってはいるが、悲しいことに連絡先の交換の経験がほとんどない。
ほとんどと言ってもオレの連絡先にあるのは親二人の連絡先だけ。オレには一応妹がいるのだが、妹はオレの連絡先なんて要らないなどと言うからだ。
だから学生同士の初めての連絡先交換はサクラ会長になるわけだ。
初めてがモモ会長ってなんだか運命を感じないか?
その後オレとモモ会長は連絡先を交換し合いその場から解散した。
うん。人生捨てたものじゃないな。
まさかあのフルーツ美少女セブンの一人とデートする事となるとは。
そんな事を思いながらオレは待ち遠しい土曜日のことを考えながら上機嫌に下校した。
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