009 『お父さん、娘のおっぱい見過ぎ』
僕がウキウキ気分で奈月の水着を選んでいる間に、
「なあ、水着って結構高いんだろ?」
「まぁねー」
湊はそう言いながら、レシートをお財布の中にしまう。水着って布の面積すごい小さいのに、やたらと高いんだよなぁ。
ちなみに翔奈は現在お手洗い中だ。
「お前が結構稼いでるのは知ってるけど、お金大丈夫なのか?」
「平気、平気っ」
ルンルン気分で返答する湊。
……でも実際、どのくらい稼いでるんだろうか?
湊って実は、毎月家に二万も入れてくれてるんだよなぁ。もう、家計的にも大助かりだし、なんて出来た娘なのだろうと思う。でもそんな額を家に渡して、携帯代も自分で払って、こうやって毎月のように服が買えるなんて、相当稼いでるはずだ。
ちょっと、
「なあ、湊」
「なあに?」
「月どのくらい稼いでるんだ?」
「んっとね––––」
湊はニンマリと笑ってから、ヒソヒソ声で僕に耳打ちしてきた。
「––––くらいだよ」
「……すごっ!」
想像を遥かに超えた額だった。都内で一人暮らし出来るくらい貰ってやがる。
「でもそれ、税金とか大丈夫なのか?」
「編集部がそういうのやってくれてるから、大丈夫だよー」
「ああ、そういえばそんな事言ってたな」
編集長さんが家に来た時に、そんな感じの話をされたのを思い出した。
小学生にして税金を払うギャル。恐るべし。
「なあ、こう言うのはあんまり言う必要は無いと思うんだけどさ、いっぱい貰ってるからって使い過ぎるなよ」
「ママと話して、月に使う額決めてるから大丈夫だよっ」
あ、でも美容系は別ね、と湊は付け足した。
「流石に美容室とかは仕事の事もあるし、それなりに行く必要あるからねー、必要経費ってやつだねー」
「なるほどなぁ」
小学五年生にしては、もう本当にしっかりした奴でビックリする。でもそれは当たり前なのかもな……もう社会に出て働いてるわけだし。
「お待たせ」
ここで、翔奈が戻ってきた。
手には購入した水着の袋がしっかりと握られている。服とか興味ないと言っていた割にちゃんと買っているあたり翔奈も女の子だ。
いや、サイズ的に成長したから昔のは小さくなって着れない––––とかだろうか?
翔奈の身長は163センチもあり、同年代の女子と比べてもかなり大きい方だし、胸とかも奈月に似て大きくなり始めている。
着れなくなってもおかしくはないか。
「お父さん、娘のおっぱい見過ぎ」
「…………見てないけど?」
なんと翔奈に胸を見ていたのをバレてしまった!
いや、もちろんいやらしい意味で見ていたわけじゃない、そこは違う。僕も父親なので、そんなことはない。ちょっと最近大きくなってきたなって思っただけだ。
でも大丈夫、こういう時は大体湊が、助け船を出してくれる(湊だけに!)。
「パパは大きなおっぱいが大好きだもんねっ」
「いらんことを言うな、湊」
助け船どころか、逆に船から突き落とされた。裏切りだぞ、湊!
「パパは、ママのおっぱい大好きだもんねっ」
「僕はママが大好きなんだ」
なんか、『ママが好き』って言っちゃったけど、奈月のことだからな?
しかし湊は、僕の言ったことを曲解して、
「なるほど、なるほど、パパは中々乳離れが出来ないんでちゅねー、父だけにっ!」
「お前よくそれで、友達減らないな!」
本当に謎だ! このご
激寒ダジャレギャルってあだ名付けらないか、父さん心配だよ! お前自身が、クールジャパンにならないか心配だよ!
まあ、僕の湊への心配はさておき。
僕は、首からぶら下げている結婚指輪を見せる。
「僕は奈月が好きなの」
「知ってるよっ」
湊はそう言ってニコッと笑い、
「娘にとってはねぇ、両親の仲がいいのって、幸せなことなんだよー」
「……そ、そうか」
こいつは照れるようなことを、ズバズバと言ってきやがる。
そんなこと、考えたこともなかった。
僕はなんとなく、首からぶら下げている結婚指輪を見る。
前はちゃんと指にはめてた結婚指輪だけれど、今は手が小さくなってしまったので、こうしてチェーンに通し、首からぶら下げている。
やっぱり結婚指輪は特別なもので、肌身離さず持っていたい。
「でもお父さん、娘のおっぱい見てたよね」
翔奈は先程の話を引っ張り出してきた。湊は、「あ、覚えてた」と呟く。なるほど、湊の作戦は話をそらして忘れさせるというものだったのか。作戦失敗してるけど。
翔奈はいまだジト目でこちらを見ている。とりあえず言い訳しとこ。
「……な、なんか、そこも含めて奈月に似てきたなって思って––––ほら、娘の成長ってのは嬉しいことだし、ちょっとした変化でもさ、気付くもんなんだよ」
「……ふぅん、まあいいけど」
いいんだ。何がいいのか分からないけど、娘のおっぱいを凝視していたという大罪を見逃してもらえた。
そりゃあ、一緒にお風呂に入らなくなるわな。こればっかりは仕方ない。
男と女は例え親子であっても、違う生き物だ。
「ねえねえ、みぃなも将来はおっきくなるかな?」
「なるんじゃないのか? 遺伝するって言うし」
「ママが高校生の頃は、どうだったの?」
「奈月は、その頃からデカかった」
胸が大き過ぎて、ジャージの前を閉めれなくなった生徒は、後にも先にも奈月だけだ。
「でも、あんまり大き過ぎちゃうと今の服とか着れなくなっちゃうんだよねー」
「どっちにしろ、身長が大きくなったらそうだろ」
だから僕は、今はあんまり服を買うなと口を酸っぱくして言ってるんだ。
親としても子としても悩みどころだ。
「私に妙案があるのだけれど」
ここで翔奈が悪い顔を浮かべながら僕を見る。悪い予感しかしない。
そしてその予感は、当たった。
「お父さんが着ればいいんじゃない?」
「それだぁ!」
「それじゃないし、それはない!」
娘の服をお下がりで着るお父さんなど、絶対にごめんだ。
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