002『年頃の娘と揉めるのはお父さんの宿命』
一年くらい前の夕食ことだ。
「私、やっぱり男の子が欲しいです」
と
奈月は昔から男の子が欲しいと言い続けていたので、その気持ちは分からなくもないが、今は三姉妹を育てるので手一杯であり、とても四人目なんて考えられない。
金銭的にも奮発して購入した一戸建てのローンがかなりあるし、ちょっとキツい。うん、無理だ。
だけど、僕と奈月の話を聞いていたのか、末っ子の
「あたしも弟が欲しいー!」
「……って蓮花も言っていますよっ」
奈月は蓮花をチラッと見てから、こちらに視線を向ける。対して僕は、無言で味噌汁を飲む。無理なものは無理だ。
「ねえ、ママ! 弟いつ産まれるの? 明日⁉︎」
「明日はちょっと無理かなぁ」
それは金銭的にではなく、物理的に無理だ。だけど、弟というワードにテンションを上げた蓮花は、もう誰にも止められない興奮状態となり、「あたしは明日からお姉ちゃんです!」と、早過ぎるお姉ちゃん宣言を始めてしまった。
だから、予定はないと言っているのに。そもそも明日は絶対無理だ。
そして、蓮花のお姉ちゃん発言に釣られたのか、次女の
「ママとパパの子なら、男の子でもきっと可愛いかもねー」
と僕と奈月の顔を交互に見ながら、失礼なことを考えていそうな顔でニマニマとした笑みを浮かべた。
さらに、この日は珍しくこういう話題に無関心な
「昔の写真で見た子供の頃のお父さんみたいな子なら……私も欲しいかも。お父さん、小さくなってよ」
僕は「何言ってんだ」と相手にせず、次の日も早いからと早めに就寝に付いた。
そして、起きたら––––身体が縮んでいた。
小さくなった僕を見た奈月は、「あなたが男の子になっちゃいましたねっ」と冗談を言い、蓮花は「わーい! パパが弟になっちゃったー!」と喜び、湊は、「うわっ、パパ、すっごい可愛い!」と冷やかし、翔奈まで「抱っこしてもいい?」と普段は絶対に見せないような反応を見せた。
一体何が起こったのか分からないが、まずは我が家の順応性の高さにツッコミを入れたい。
まず、驚けよ! と。
病院に行ったりしたものの、原因は不明とのことだった。
世界中でも百万人に一人の割合くらいで同じ現象が起こっており、新たな病気と認定され、『身体伸縮病』と名付けられた。まあ––––日本では、コ○ン化とか言われてたりする(もしくはGTの孫○空とか)。
今まで前例がないことだった為か、国も例外の対応をしてくれ、僕は外見が五歳でありながら、普通に暮らすことが出来ている。
最初は研究施設送りにされたり、解剖されるんじゃないかと肝を冷やしたけれど、「いや、現代でそういうのないし、漫画の読み過ぎ」とまで言われてしまった。
なんか、拍子抜けだ。
ご近所や、職場での扱いもそんな感じで、なんか変に受け入れられてしまった。
唯一不満があるとすれば、生徒から「
大人としての威厳は、身長や体重と共に失われたようである。
まあ、僕の外見が大人ではないことは明白なので、半ば諦めてはいる。
それに、生徒から慕われるのはどんな形であれいい事なのでプラスに考えることにした。
とまあ、そんな感じで時は過ぎ––––僕もこの身体と周りから扱いに大分慣れてきた頃、翔奈と喧嘩をしてしまった。
喧嘩の理由は、翔奈が留学したいと言い出したことにある。
翔奈はCAになるのが将来の夢であり、英語はほぼ必須だ。
なので、今も英会話スクールに通っているし、英語の成績もそこそこいい。
そのため翔奈が、「留学がしたい」と言い出すのは半ば当然と言えるだろう。
もちろん、父親として娘の希望を聞くのは当たり前だ。
金銭面でも––––まあ、頑張れば何とかなる……はずだ。
翔奈が留学を望むと言うのなら、僕だって全力で応援する。
だが、問題は時期なのである。
「高校で留学は早過ぎる! せめて、大学からにしろ!」
「それじゃあ遅いの! 今から行っても遅いくらいなのに!」
って感じで、揉めてしまった。
翔奈は高校から向こうに行きたいと主張しており、逆に僕はそれは早過ぎると反対している。
現在翔奈は中二になった直後なので、時期的には丁度二年半後になる(例外はあるが海外の多くは九月から新学期なので)。
となると、受験の準備は今年の夏からになるが、翔奈の英語力ではまだ難しいとも思う(海外の授業は当然全て英語なので)。
仮にここから英語が向上したとしても、年頃の娘を一人海外に送るのは心配だ。しかも三年間もだ。
娘の言い分も分からないわけではないが、子を持つ親ならこの気持ちは分かることだろう。
そして、それは娘にも分かっていたことだった。
「お父さんは私のこと信用出来ないだけでしょ! 見た目が小さければ、中身も小っさいんだね!」
この発言にカチンと来て、僕は怒鳴り声をあげてしまった(後に聞いた話では、子供がただをこねてるみたいだったとも言われた)。
少し大人気なかったと思う。
その後、翔奈はこれ以上話すことは無いとも言わんばかりに、ドアを勢いよく閉め部屋に戻ってしまった。
これが三日前の話である。
以降、僕と翔奈の間に会話はない。
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