第二小節

「鍵盤ハーモニカ好きなの?」

普段は挨拶しかしない仲なのに急に声をかけたから驚いたのか彼女はまた目を大きく開いている。

小学生でも弾けるこのたった32鍵の楽器。

僕も昔弾いたけれど大した思い入れも無いし音だって安っぽい。でも彼女の音はどこか違った。

「どうだろ、分かんないや」

また薄い笑みを浮かべて彼女は話す。

「小学生の頃弾いたからもしかしたら愛着あるのかも」

そう話す彼女の笑みはどこか少し苦しそうできっと本当は違う理由なのだろう。別に深く聞く必要も無いけれど。話しかけたのにだって大した意味は無い。

「そっか ごめん 僕も昔弾いたんだ 小学生の時。 だから声かけちゃったのかも」

多分聞かれたくない事を聞いてしまったのだろう。

「そうなんだ 志木くんってピアノ弾いてるイメージしか無かったけど鍵盤ハーモニカも弾いたことあるんだね」

「僕だってピアノしか触れてこなかった訳じゃないよ」

「そっか だって志木くんピアノとっても上手だから」

「ありがとう 水無瀬さんのバイオリンもすごく上手いよ」

「志木くんに言われると調子乗っちゃうな ありがとう」

ありがとうと言いながら中途半端な顔をする水無瀬さん。

また言わない方がいい事を言ってしまったかもしれない。

もう他のクラスメイトが登校する時間だ。

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紫音 夜船 寧々 @nina_27_

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