紫音
夜船 寧々
第一小節
どこにだって必要のないものはある。
筆箱の中の二本目のシャーペン、ノートの一番最初のページ、黒板の前の段差、短すぎるチョーク。
閉まらないカーテンを靡かせて開かない窓から風が吹いてくる。
「いけない、花に水をやらないと」
僕は毎朝早く登校して中庭の花に水やりをしている。
別に花が好きなわけではないけど前中庭をふと見た時花が枯れそうになっていたのが可哀想になって水をやることにしたのだ。
きっと誰も水をやらなかったのだろう。
もしかすると存在することすら気づかれていなかったかもしれない。
「お前も誰からも必要とされて無いんだな、僕と同じだ。」
ひと通り水をやり終わるとだいたい他の生徒が登校しだす時間になる。
「早く教室に戻らないと」
中庭を出て連絡通路から校舎へ戻る。
連絡通路はだいぶ前に作られた物で緑色のペンキが所々剥がれていて中の黄緑色が覗いている。
革靴と上履きを履き替えて通るはずなのに砂で塗れた通路を通って僕は校舎へ入る。
白い天井、白い壁、少し緑がかった白の床。
古いが校舎内は連絡通路とは打って代わって手が行き届いていて綺麗だ。
僕が所属する二年生の教室は二階にあるので校舎へ入ってすぐ正面の階段の手摺に手をかける。
一段、二段、十段、そして踊り場。
「やっぱり今日もいるのか」
僕が水やりを終えて一階と二階の間にある踊り場を抜けるといつもこの音が聞こえてくる。
「おはよう、水無瀬さん」
最近は毎日のことなのに急に来た僕に驚いたのか少女は目を大きく開いてこっちを見た。
それから薄く微笑んで口を開く。
「おはよう、志木くん」
教室を開けると一番後ろの窓際の席で鍵盤ハーモニカを弾く黒髪の少女が居た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます