0.復讐者の唄

 我が愛しき娘ベルよ。


 お前をいだくための腕はすでに用をなさない。

 お前にささやきかけるための言葉はすでに失われた。


 国は滅んだ。

 帝国は引き裂かれた。

 民は流されていった。


 すべては神のたわむれのために。


 獣の咆哮ほうこうが聞こえる。

 復讐ふくしゅうせよとわれかす。


 だが、その咆哮すらも神には届かない。

 獣の爪も牙も何の役にも立たない。


 ならば、この地上に神を引きずり降ろそう。

 神が愛でるこの地を破壊しよう。


 さすれば、我が眼前に神が現れよう、あの日のように。

 我は獣をけしかけ、神の喉笛のどぶえに食らいつかせよう。


 戯言ざれごとと人は笑うだろうか。

 れ者と人はあざけるだろうか。


 知ったことではない。


 そこに一縷いちるの望みがあるなら、我はそれに手を伸ばす。


 みっともなく足掻あがこうと、地べたをいずり回ろうと。

 この焦燥しょうそうを止めるすべはそれしかない。


 そのように我を変えたのも、また神なのだから。


 我は復讐者。神にあだなす者なり。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る