第五十九話 歴然の差
「サンダーシュート!」
駆け出すのと同時に、掌くらいの大きさの雷の球がリリーの杖から発生し、俺に向かってくる。
速度はかなり速い。それなりに離れているはずの距離をあっという間に詰めてきた。
脇に飛んで避ける。
だが、雷球に気を取られている間にアーレンの姿がすぐ近くまできていた。
「悪いけど、さっさと終わらせてもらうよ」
大上段に構えた剣を力に任せて勢い良く振り下ろしてくる。
手に持っていた剣を顔の前に持ってくると両手で持って受け止めた。
ガキっと鉄と鉄とが擦れ合う耳障りな音が響き、振動が剣から腕に伝わってきて痺れを起こす。
アーレンはどちらかと云えば華奢な部類だと思っていたのだが、その一撃はかなり重かった。
それだけでも、相当な訓練を積んできたであろうことがわかる。さすがに騎士を名乗るだけはあるということだろう。
だがこちとら農作業で常に筋肉を酷使している身だ。単純な力の勝負なら簡単に押し負けることはない。
俺が受け止めたのが意外だったのか、アーレンが意外そうな顔をする。
「まさか受け止めるとは思わなかったな」
「鍛え方が足りないんじゃないか」
すると、アーレンが突然力を抜いた。
行き場を失った俺の力は当然前方に押し出される。
その一瞬の隙をついて、アーレンの膝が俺の腹部を直撃した。
「かはっ……!」
反射的に息を吐き出すと、無防備になった顔目掛けてアーレンの拳が飛んでくる。
なす術もないまま、俺はアーレンに殴りつけられて地面に転がった。
「殺せないというのはある意味ハンデでもあるね。もし殺してよかったのなら、今の拳が剣に変わっていたよ」
背筋に冷や汗が伝う。
アーレンの言う通り、もし今の拳が剣だったのなら俺はもうやられていただろう。
力はあっても技がない。それが今の俺だ。
だが、アーレンには力だけじゃなく技もある。駆け引きもできる。相手を倒すための訓練を積んできたからこそできることだ。
ここまで部が悪いとは思っていなかった。浅はかだったと言ってもいい。それくらい俺とアーレンには差があった。
「ファイアボール!」
体を起こすとすぐに火球が飛んでくる。横に飛んでやり過ごすが、またすぐにアーレンの剣が襲いかかってくる。
完全に防戦一方だ。
どうやらアーレンとリリーは俺一人に標的を絞っているらしい。だが、それもそうだろう。
口ではああ言っていたが、リュンはやはり動けていなかった。杖を構えてはいるが、おろおろと視線は定まらず、呪文を口にしようとするが口が開いていない。完全にパニックを起こしている。どうしていいかわからないのだ。
あの様子を見れば、誰だって脅威になるとは思わない。
「無様だね、勇者様」
避けるだけしかできない俺に向かって、アーレンが小声で言う。
「君がもっとまともに戦うことさえできれば、今頃は僕たちと一緒に魔王を倒す旅の途中だったかもしれないのに」
「どの口が言ってんだ。勝手に追い出したのはお前らだろうが」
言い返すと、アーレンが笑う。
「そりゃそうでしょ。女神ディアナ様に選ばれた勇者とあろうものが、野菜武器化なんて使えない能力授かって。剣が振れるわけでもなく、魔法が使えるわけでもない。そんなお荷物にしかならない人を、大切な旅から外すのは当然だろ?」
アーレンの回し蹴りが脇腹に刺さる。ガードできずまとも喰らい、息が詰まっている隙に掌底が鳩尾を捉えた。
立っていることができず膝をついてしまう。
「悪いけどこれでも僕はまだ本気を出してない。そんな僕に君は剣を振れてさえいないじゃないか。反論したいならせめてそれくらいはしてからにしてほしいな」
トロールには手も足も出ずに逃げ出したくせに。
だが今のこの状況ではただの負け犬の遠吠えにしかならない。そんな無様だけはこいつの前で晒したくない。
「そろそろいいかな。もう僕達の勝ちは間違いないみたいだからね。リリー!」
アーレンが合図を出すと、リリーが呪文を唱え始める。
その杖の向いている先は俺ではなかった。
「逃げろ!リュン!」
叫んだところでもう遅い。
俺の呼ぶ声に気付いたリュンは対抗しようとして杖を構えるが、その時にはもうすでにリリーは魔法を放っていた。
リリーはアリーシャのときのように手加減はしてくれない。
当たれば間違いなく大怪我は免れないだろう。そう考えた矢先、俺の体は自然と駆け出していた。
勇者なのにパーティを追い出された俺の逆襲無双~野菜武器で世界最強~ @sazamiso
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