第五十二話 家族だからこそ

「何にしても、もはや戦うことは避けられません」


 この分だとアリーシャに協力をお願いしたところでユーリカに止められるのは目に見えている。アリーシャはユーリカに逆らうことができないから。

 その他の魔法使いにしても、ユーリカがいる限り協力はしてくれない。そもそも知り合いがいないしな。


 だとすれば俺一人で戦うしかないが……。


「たとえ勇者の力があろうとも、経験の浅いマサヨシ様が二体一で戦えるほど甘い相手ではないでしょうね」


 ユーリカが俺の考えを見透かしたようなことを口にする。


 二体一は圧倒的に不利だ。ユーリカのいうように野菜武器があってもそれは変わらない。戦闘の経験が浅い俺ならばなおさらに。


「リュンには私から伝えておきますのでご安心ください」


 リュンから出たくないという話をさせるという可能性すら潰して、ユーリカは優雅に微笑むと、頭を軽く下げてその場を去ろうとする。


 その背中に声をかけた。


「ひとつだけ教えてくれ」


「なんでしょうか?」


「お前はリュンをどうするつもりなんだ?」


 疑問は勝手に口から出て行ったように感じた。自分で言葉にしておきながら、どうしてそんなことを聞いてしまったのか不思議だった。

 でも、聞いておかなければならないと思った。


 ユーリカにとってリュンは孫であり、リュンにとってユーリカは唯一の肉親だ。

 ユーリカはリュンに期待しているからこそ厳しくしているのだろうし、リュンもその期待に応えようという気持ちがあるのは言葉からも伝わってくる。


 でも、その二つの思いには何か決定的な違いがあるように思える。


 ユーリカがリュンに向ける視線の中には、愛情とはまた別のものが混じっているように感じられる。


 それがなんなのかはわからない。

 ただ、今回のこの一件で、それがあまりよくないものなんじゃないかという疑念が、俺の心に広がっていた。


 ユーリカは俺の質問を噛みしめるように一度俯いてから、迷いなく答えを口にする。


「どうするも何も、立派な魔法使いになってほしいと、ただそう思っているだけですよ」


 その言葉が本心から出ているものなのか、俺にはわからなかった。


ーーー


 あれだけ言い合いをした後に一緒に帰るのはなんだか気が進まなかったので、俺はユーリカと別れてからぶらぶらと当て所なく村を彷徨っていた。


 あの騒動があったせいか、村人が俺に向ける視線の中に、どこか敵意のようなものを感じる。


 普通に考えれば、明らかに田舎者にしか見えない俺と、教会認定のアイテムを持ったアーレンとでは比べるべくもなく俺が怪しい。


 だからこういう反応になるのも仕方ないといえば仕方ないが、さすがにいい気分ではない。

 アーレンが嘘をついていると知っているからなおさらだ。


 目的もなくぶらつくのは、意味もなく気分を下げるだけかもしれない。


 とりあえず明日に備えて武器(野菜)を調達しようと思い野菜を売っている店に向かう。


「……いらっしゃい」


 どこか余所余所しい気がする店主に迎えられて品物を見てみるが、どういうわけか野菜は一つも売られていなかった。


「なんで野菜が一つもないんだ?」


 一応夕刻ではあるが、品切れになる程仕入れが悪いわけもない。ここ数日間何度か寄ることはあったが、何一つないということはなかった。


「今日はなぜか飛ぶように売れてねぇ。悪いけど、今日のところはもう店じまいだよ」


「明日の昼に使いたいんだが、それまでに仕入れてもらえるか?」


「あぁ、それは大丈夫だろう。何がほしいんだい?」


 今のところ俺が使える野菜はダイコーンにゴンボーウ、ニンジーンの三つ。

 ニンジーンの仕入れは難しいということだったので、とりあえずダイコーン二本とゴンボーウを三本ほどお願いした。


 値段は安上がりなのでそこは野菜武器のいいところかもしれない。食べ物を武器にしている時点ですでにいいわけはないが。


 店主に礼を言ってから、俺は店を後にした。

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