第五十話 ユーリカの思惑

 しかし、この話しの流れになってしまえばもはやアーレンと戦う以外に選択肢は残されていない。


 もしここで戦わないなんて言えばそれこそ自分が偽物ですと言っているようなものだ。


「まさか、今更怖くなったなんて言わないだろうね」


 追い討ちをかけるようにアーレンが笑いながらそう問いかけてくる。

 周りの人々もアーレンに感化されたのか仕切りに頷き、逃げられない空気が出来上がる。


 そこでずっと成り行きを見守っていたユーリカが声を上げた。


「それでは、明日の昼、再びこの場所においてマサヨシ様とアーレン様との決闘を行うということでよろしいでしょうか?」


「もちろん。長旅だったからちょっと休みたいと思っていたところだしね。一日もあれば、万全の態勢で戦いに臨むことができる。まぁ、そんなもの必要ないような気もするけど」


 アーレンの言葉を聞いて、ユーリカは俺を見た。


「マサヨシ様も、それでよろしいですか?」


「……ああ」


 俺が頷いたのを確認し、ユーリカはその場にいるみんなに聞こえるように高々と声を上げた。


「それではこの戦い、このユーリカ・リフラ・リィンが証人となり、見届けさせていただきます」


 いつのまにか増えていたギャラリーから歓声がちらほらと上がる。

 その歓声は勝負を楽しみにすると言うものではなく、どちらかといえば偽物を炙り出してやろうという気持ちが含まれているような気がした。


「差し出がましいようですが、この勝負を行う上でひとつだけ取り決めをしてもよろしいでしょうか」


 ユーリカの言葉に視線が集まる。


「取り決め?まさか、ハンデだとか言わないよね?」


 アーレンの言葉にユーリカが首を振る。


「魔法使いを一人加えた二人一組で行うというのはどうでしょうか」


「二人一組だって?」


 アーレンが首を傾げる。

 かく言う俺もユーリカの言わんとしていることの意味はわからなかった。


「どうしてそんなことをしなくちゃいけないんだい?一対一で戦った方がわかりやすいじゃないか」


「勇者は魔法使いの協力なしに魔王を倒すことはできない。たとえ勇者一人の力がどれだけ強かろうと、仲間と確かな信頼関係を築けていなければ真の勇者とは言えません」


「つまり、勇者と魔法使いで一組になって戦って勝たなきゃユーリカさんは認めてくれないってことかな?」


 アーレンの言葉にユーリカが頷く。


「まぁ、僕としてはどちらでもいいけどね。何より証人になってくれるっていうユーリカさんが認めてくれないんだったらやるしかない」


 アーレンも、向こう側の魔法使いであるリリーも拒む様子はない。負けるとは微塵も思っていないからだろう。


 だが、俺は簡単に認めるわけにはいかなかった。

 半ば決まりそうになっている話の流れに割り込む。


「ちょっと待ってくれ」


「なんでしょうか」


「俺には魔法使いの仲間がいない。信頼関係を確認するも何もないんだが」


「それなら私が……」


 アリーシャが声をあげようとするが、ユーリカは首を振って応えた。


「マサヨシ様と共に戦う魔法使いならもう決まっています」


 その言葉に嫌な予感が背筋を伝っていく。そしてその嫌な予感はすぐに現実のものになった。


「マサヨシ様は、リュンと共に戦っていただきますから」


ーーー


「勇者様!」


 とりあえず屋敷に戻ろうとした矢先、アリーシャに声をかけられる。

 顔を合わせた矢先、アリーシャは深々と頭を下げてきた。


「先ほどは申し訳ありませんでした。あの人の横柄な言葉についかっとなってしまって……」


 どうやら自分が余計な口を挟んだことを悔いているらしい。

 気持ちはよくわかる。あれだけ偉そうにされたら誰だって頭にくると思うし。


「別に気にしてない。それに、もしかしたら俺が偽物であいつが本物かもしれないんだしな」


 当然アリーシャに対して怒りなんて湧いてくるわけがない。

 なんなら、庇ってくれてちょっと嬉しかったくらいだ。


 だが、俺の言葉にアリーシャはぶんぶんと首を振った。


「そんなことは絶対にありません!勇者様の力は本物です!私が保証します!絶対にあなた様が勇者様です!」


 食い気味に言われてちょっと面食らってしまう。


 最初の印象こそ悪かったが、このアリーシャという少女は根が変な方向に真っすぐすぎるだけで、めちゃくちゃいい子なんじゃなかろうか。

 どこかの誰かさんにも見習って欲しいものである。

 まぁこれで俺が偽物だと断定されてしまったらどうなってしまうのか怖くもあるが。


 だが、そこまで庇ってくれるのは嬉しいので素直に礼を言っておく。


「ありがとうアリーシャ。その期待に応えられるくらいにはなんとかやってみるつもりだ」


 正直なところ自信はないが、誰かに泣きついたところで事態が好転するわけでもない。ならせめて強がりくらいは言うくらいでないとやってられない。


 それに勝算がないわけでもない。俺には野菜武器があるのだから。


「お礼なんて、私なんかにはもったいないお言葉です。私はいつでも勇者様の味方ですから、困ったことがあればなんでも仰ってください」


 そう言って笑顔を見せてくるアリーシャに手を挙げて答えると、俺はとある人物の背を追って歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る