第四十八話 勇者アーレン御一行様

 森の入り口……といっていいのかはわからないが、俺がユーリカに連れられて入ってきた場所に奴らはいた。


 願わくば俺の知らない勇者を名乗る不届きもの達だったらいいと思っていたのだが、その儚い望みは先頭に立って初老の男性と話している騎士によって儚く打ち砕かれる。

 ある意味不届き者であることに間違いはないが。


 騎士アーレンは、近づいてくる俺を見て驚いたように一瞬だけ目を細めたがすぐに逸らした。

 どうやら見て見ぬふりを決め込む方針らしい。

 それからユーリカへ視線を投げる。


「あなたがかの有名な大魔法使い、ユーリカ・リフラ・リィンさんですか?」


「そうですが、あなた方は?」


 アーレンの後ろに控えている戦士ゴブリーに弓使いユゥリィ、魔法使いリリー、そして僧侶フランシスカを横目で見ながらユーリカが答える。


「僕の名前はアーレン。そして彼らは僕の仲間達です。僕たちは魔王を倒すために旅をしているのですが、この村に伝説の杖があるという話を聞きまして。譲り受けにきたんですよ」


「伝説の……」


 ユーリカが考え込む。どうやら思い当たる節があるらしい。

 だがすぐに首を振る。


「たとえこの村にあったとしても、あなた方にお渡しすることはできません。そもそも、どのようにしてこの村に入って来られたのですか?」

 

 このリーフブリーズの村は秘匿されており、おいそれと他の人間が入ってくることは

できないはずだ。


「それが、実は……」


 ユーリカの問いに初老の男が答えようとするのを、アーレンが手で制した。


「それは、これを見せた方が早いでしょう」


 そう言ってアーレンは懐に手を入れると、銀色に光るペンダントを取り出した。

 そのペンダントを見て、ユーリカが珍しく狼狽る。


「それは、教会が認めた者にしか与えない十字飾……」


 ユーリカの反応に満足そうに頷くと、アーレンは堂々と言い放った。


「僕たちは今代の勇者パーティ……そして僕が勇者です」


 その名乗りは妙に手慣れているように見えた。

 カブの村でトロールからの情けない敗走を見たのが最後だったが、どうやらそれから順調に勇者パーティとしての旅を続けてきたらしい。


 後ろに控えているゴブリー達も妙に落ち着いていて、いかにも出来る風なオーラを放っている。メンバーも揃っているので確かにそれっぽく見えなくもない。


 でも勇者いないからただのパーティなんだよなぁ……。


 なんてことを思っていると、ユーリカがじっと俺のことを見ているのに気づいた。

 

 おそらくだが、アーレンがユーリカに見せたあの十字飾りは勇者の証として教会から渡されたものなのだろう。俺は全くその存在を知らなかったわけだが。


 ただ、以前勇者パーティにいたこともあるユーリカは見たことがあるのだろう。さっきの反応からしてそうとしか思えない。


 となればこの視線の意味は一つしかない。お前誰やねんと言うことである。

 今の俺は何も持っていない。完全にフリースタイルの農民服。一応勇者にしか使えない能力はあるものの、教会公認のアイテムを持っている方がここでの信用度は上だろう。


 ただ、追い出した奴らに偽物扱いされるのはさすがに腹に据えかねる。

 別に勇者だと言いたいのなら勝手にすればいい。別に俺は勇者になりたかったわけでもないし、なんならアーレン達が魔王を倒してくれるのならそれに越したことはないくらいの気持ちしかない。


 だが、こいつらはゴブリン達に襲われていたカブの村を見捨てた。


 自分たちが勇者パーティだと言い張るのなら、それは決して許されることじゃない。

 偽物ならなおさら本物らしい働きをするのが筋ってもんだ。


 口を開こうとするが、その前にユーリカはアーレンに向けて口を開いた。


「勇者様には協力することというのがこの国の慣し。わかりました。それではこちらに……」


「お待ち下さいユーリカ様!」


 突然上がった声に、その場にいた全員の視線が向く。


 そこにいたのは、アリーシャだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る