第四十四話 もともと特別な
屋敷に帰るなり、俺は真先にリュンの部屋へと向かい、ノックもせずに扉を開け放った。
案の定というか、当然のように真っ暗な部屋の中でこんもりと盛り上がっているベッドに近づき、朝と同じように勢い良く剥ぎとる。
そこには枕を涙で濡らしながらすすり泣いているリュンの姿があった。妙に様になっているその姿には哀愁すら漂っている。
できれば触れたくはないオーラ全開だが、俺の今後のために本腰をいれなければならないので手は抜かない。
「何寝てやがる。特訓するぞ」
声をかけると、蚊の鳴くような声が聞こえて来る。枕に顔をうずめているからなおさら聞きとりにくい。
「あたしがアリーシャに勝てるわけないじゃないですかぁ……」
「確かにアリーシャは強い。容姿もお前の数倍格上だ。魔法に関していえばもはや勝つ負けるの次元の話じゃない。はっきりいって、お前が勝っている部分は皆無と言ってもあながち間違いじゃないだろう」
「ちょっとボロクソに言いすぎてやしませんかねぇ……」
「だが、それでもお前には誰にも負けていない部分がある」
「誰にも、負けてない……?」
俺の言葉にリュンが顔を上げる。
涙でぐしゃぐしゃに濡れた顔は見るに耐えないが今は見なかったことにしておこう。
「それはなんですか?教えてください、マサヨシさん!」
藁にもすがるような面持ちでリュンが体を乗り出して来る。
人は、何か一つでも誰かより優れている部分があれば自信を持つことができる。
絵がうまいでも、歌がうまいでも、料理がうまいでもなんでもいい。
俺は、リュンの中にひとつだけそれをみいだしていた。
リュンの肩を掴み、その瞳を真っ直ぐに見つめる。
息を呑むリュン。じっくりと間を開け集中させたあと、俺はゆっくりと言葉を紡いだ。
「お前が誰にも負けていないもの。それは、勝っているところが何一つないことだ」
枕で思い切り頭を殴られた。
「何すんだてめぇ」
「ここは慰めるところでしょ!?傷心のあたしを慰めて、元気付けて、信頼高め合うところでしょ!?なんですか言うに事欠いてつらつらつらつらと!!鬼か!?」
「まぁ聞けリュン。別に馬鹿にして言ってるわけじゃない」
確かに常日頃からアホな奴だとは思っているが、さすがに落ち込んでいるところに追い討ちをかけるほど俺も鬼ではない。
「じゃあなんだってんですか。精神論とかはやめてくださいよ?気休めにもならないのはわかってるんですから」
「そんなんじゃない。勝ってるところが一つもない。それはある意味ナンバーワンなんだ」
「ナンバー……ワン……」
「そうだ。お前がナンバーワンだ。ナンバーワンでオンリーワンだ。お前はこの世界に一人しかいない、リュン・リフラ・リィンなんだ」
「いや思いっきり気休めじゃねぇか!何それっぽい言葉並べて納得させようとしてんですか!?さすがにあたしはそんなんで元気出るほど馬鹿じゃないんですけど!?」
「うるさいやつだな。声のでかさだけは世界一なんじゃないか?」
「嬉しくねぇ!」
ついでに口の悪さもどうにかしたほうがいいと思う。俺も人のこと言えないけど。
だが、ひとまず言い返してくるくらいには元気になったらしい。
「とまぁ中身の何ひとつない話は置いておいて、特訓するというのは本当だ」
「中身がないわりに滅茶苦茶傷付いたんですけど……。でも、たった一週間でアリーシャに勝つのなんて本当に無理ですよ……」
二人の魔法を受けた俺から見ても、魔法の力に圧倒的な開きがあるのはわかる。
リュンがまともに放つことのできるファイアボールも、アリーシャの雷魔法と比べたら弱いと言わざるを得ない。
「ともかく動かないことには何も変わらない」
「ちょ、ちょっとまってくださいマサヨシさん!そんないきなり言われても……」
四の五のいうリュンの首根っこを掴むと、俺は夕暮れの空が綺麗な外へ連れ出した。
こうしてリュンとの特訓の日々は幕を開けた。
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