第三十九話 新たな仲間?
終始むくれたままのリュンと共に魔法学校へと向かい教室に到着すると、授業前の教室内がやけに騒がしいことに気づいた。
それを見てすぐさま帰ろうとしたリュンの首根っこを掴み中に入る。
すると、生徒たちの視線が俺達に一斉に注がれた。
困惑やら興味やら好奇やら、なんだか色々な感情が混ざり合ったような視線だ。
また何かやったのかと思ってリュンを見てみるが、複数の視線に晒されるのが耐えられないのかカタカタと震えていた。こいつ……。
だがそんな状況になっている理由は、一人の女子生徒の登場によって知ることとなった。
「おはようございます、勇者様」
生徒達の中から歩み出てきたのは、金髪ブロンドが眩しい高飛車お嬢様、アリーシャである。
昨日の雷魔法ブッパ事件以降すぐに行方を晦ませてしまった彼女であるが、今の様子を見る限りどうやら凹んだり落ち込んだりはしていないらしい。
むしろどこか清々とした落ち着きすら感じられる。
だが、そんな様子に違和感しか感じない。
俺の知る限りこのアリーシャという高飛車お嬢様は、一般農民である俺をゴミカスみたいな扱いしかしていなかったはずである。それがこの変わりよう。丁寧語まで使ってくる始末。これを不気味と言わずなんというのか。
こいつの腹黒さが透けて見えるようだぜ……。
「昨日とは扱いがえらい違うじゃないか。俺はお前にしてみれば何の力もないただの一般人なんだろ?」
皮肉を込めた言葉を投げかけてみるが、アリーシャに堪えた様子はない。穏やかな笑みを浮かべたまま、ゆっくりと丁寧に頭を下げてくる。
「大変申し訳ありませんでした。勇者様に対して無礼な発言をしたこと、心からお詫び申し上げます」
言葉遣いは丁寧だし投げやりにいっているようにも感じないが、どうも胡散臭さしかない。
何よりアリーシャのこの心変わりは俺が勇者だと知ったからに他ならないだろう。それがどうにも気に食わない。心の奥底では普通の人間を見下していると知ってしまっている以上、この謝罪が薄ら寒いものにしか感じられないのは当然だろう。
普通に教養を持ってる人間ならそう思われることくらいわかるだろうが、それを理解していながらこうして頭を下げているというのならこのアリーシャという少女の肝の座り具合は驚嘆に値する。
周りの生徒も、そんなアリーシャの姿に驚いているようだった。
「あれだけ見下してきたお前に今更謝られたところで素直に受け取れないんだが。大体、本気で俺が勇者だと思ってるのか?」
自分で言うのもなんだが、姿格好からしてとても勇者には見えないだろう。それに、たとえ戦闘になったところで手にするのはダイコーンである。
およそ戦いに赴くものの姿とは思えないね。ましてこれで勇者なんてちゃんちゃらおかしくて涙が出てくらぁ。
素直な感想を口にすると、頭を下げたままのアリーシャがぴくりと肩を震わせた。
「ユーリカ様が仰ることに間違いはありません。なにより、私の魔法を傷一つ負わずにいなすことのできるあの力など、勇者様のもの以外に考えられません」
どうやらアリーシャは自分の魔法に絶対の自信をもっているらしいことが口調から伝わってくる。そういえば昨日リュンもこの学校でアリーシャが一番強いみたいなことを言っていたか。
なんていうか、その魔法をいなしたのがただのゴンボーウだとは言い出せる空気じゃない。その辺は気にしないでおこう。一応勇者の力であることに変わりはない。
「で、どうして今更そんなことを?」
そこがわからない。
プライドの高そうなアリーシャが恥を忍んで頭を下げてくるくらいだからそれなりの理由があるのだろうが。
そこでようやくアリーシャが顔を上げた。
真面目な顔で、まっすぐに俺を見つめてくる。そこに恥や外聞やその他の余計は感情含まれていなかった。だからこそどれだけ真剣なのかが伝わってくる。
一息ついて、淀みのない声でアリーシャは言った。
「私を、勇者様の旅のお供にさせていただきたいのです」
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