第三十話 アリーシャの雷

「ここまでコケにされて黙っていられるほど我がシュトライト家の格は低くない……!それが、ただの人間にコケにされたとあらば尚更許すことはできない……!」


 その時、ぐいっと腕を引かれる。

 みれば、リュンが俺の腕を掴んでいた。


「逃げてくださいマサヨシさん!アリーシャの魔法をまともに受けたらただじゃ済みません!」


「ただじゃ済まないって……そんなに強いのか?」


「強いなんてもんじゃありませんよ!この学校でアリーシャに魔法で勝てる相手はいないんです……!先生さえも……」


 滅茶苦茶やべぇ奴じゃねぇか。

 そんな奴が沸点低くてその上タカビーとかもう手に負えないんじゃないの?


 止めようとしていた教頭も他の生徒達もそれがわかっているからかいつの間にかいなくなっていた。


 アリーシャの杖の光が殊更強くなる。もはや猶予は残されていない。

 物理的に止めようにも雷のようなものがアリーシャの周囲を守るように覆っていてとても近づけそうにない。

 リュンの自爆魔法の際には暴風が発生していたが、それと同じような仕様らしい。


 すると、リュンが杖を取り出し俺の前に立ちはだかった。


「おい、何をするつもりだ」


「微力ですが、あたしの魔法で対抗します。だから、その隙にマサヨシさんは逃げ「そうかわかった後は頼んだぞ!」っておおおおおおおおおおおおおい!!」


 走り出そうとした俺の足元をリュンがひっかけ、俺は盛大にその場にすっ転んだ。


「何すんだてめぇ」


「何すんだじゃないでしょ!?そこは違うでしょ!?自らの身を犠牲にしてマサヨシさんを守ろうとするあたしを見直して、『お前を残してはいけない……!』とか言って二人で立ち向かうパティーンでしょ!?何マジで逃げようとしてんですか!?」


「逃げろって言ったのお前じゃねぇか!大体二人一緒にやられるよりも将来のある俺が生き残った方が生産性が高いだろうが!」


「あたしは将来ないみたいな言い方しないでくれます!?あたしはただ遅咲きなだけで、きっとこれから大輪の花を……!!」


「喰らいなさい……サンダーボルトッ!!」


「ああああああああああああああああああああ!!」


 リュンの叫び声が響く。

 その時俺は、リュンが手に持っている杖の先に光明を見出していた。

 ここにひとつだけあるじゃないか。俺の武器が!


「杖を寄越せリュン!!」


「杖を寄越せって、ま、まさか求婚を……!?」


「こんなときまで何言ってんだお前馬鹿じゃないの!?」


 アホなリュンの手から強引に杖を引ったくり、アリーシャへ向けて構える。


 その瞬間、アリーシャの杖から雷撃の槍が放たれた。教室中を雷撃が照らし、視界が真っ白に染まって何も見えなくなる。


 確かな熱量を持って近づいてくる雷撃を肌で感じながら、俺は杖に……もっと具体的に言えば、杖の先にある玉に突き刺さっているゴンボーウに意識を集中させた。


 一気に衝撃が押し寄せてくる。

 木槌で硬い岩を殴ったあとのように手に痺れが走る。


 アリーシャの杖から放たれた電撃をゴンボーウが受けた瞬間、一本の雷は何十本にも枝分かれし、周囲に弾け飛んでいく。


 雷撃は壁やら天井へと飛散するが、当たった瞬間に消滅し、黒い煙だけを残した。


 後に残るのは杖を構えた俺とその後ろで俺を盾にするように縮こまっているリュン、そして呆然と立ち尽くすアリーシャだけだった。

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