第二十七話 魔法学校

「あの、本当に行くんですかマサヨシさん」


 屋敷を出て魔法学校へと向かう道すがら、俺の半歩後ろを歩いているリュンが自信なさげにそんなことを呟いてくる。


「ユーリカの依頼なんだから仕方ないだろ」


 断れば俺の知らぬところでリュンとの縁談が着々と進んでしまうことだろう。それは嫌だ。

 いやほんとなんでこんな面倒な弱みを握られちゃったんだろう。俺何にも悪いことなんてしてないのに。全部このポンコツ魔女のせいだってのに。ふえぇ。


「でも……」


 渋るリュン。

 まるで俺に学校へ来て欲しくないと言っている様に感じる。


「なんだ、学校に見られちゃ悪いもんでもあるのか?」


「……別に、そういうわけじゃないですけど」


 うわぁめっちゃありそう。もう表情といい雰囲気といい仕草といい全部が全部ありよりのありって言ってる。感情が顔に出やすいリュンであるからこそなおさらわかりやすい。


 でも面倒くさそうだから突っ込まないでおこう。


「農作業ができるわけでもないし、学校にも多少興味はあるから授業がわからなくても暇つぶしくらいにはなるだろ」


「学校行ったことないんですか?」


「煽りかそれは」


「ち、違いますよ!単純に疑問だっただけです!」


 なんだろう、こいつの発言全てが俺を煽っている様に聞こえてしまう。日ごろの行いってやつか。


「俺はずっとカブの村で育ってきたからな。十数人程度しか住んでいない村なんかに学校なんてもんはなかった」


「そう、だったんですね」


 どこかしゅんとしてしまうリュンになんだかぞわぞわとしたものが背筋を這い回る。


「お前なんかこっちきてからおかしくない?頭大丈夫?」


「頭大丈夫ってなんですか!?」


「だってお前……」


 こっちにきてからというもの、というかユーリカと再会してからであるが、あまりにも態度が塩らしすぎる。今の格好も相まって本当のお嬢様みたいに見える。一言で言えば不気味。頭悪そうにぐへぐへ言ってるくらいがこいつにはちょうどいいような気がする。それはそれでキモいんだけど。


「あ、あたしにだって色々事情があるんですよ!土いじりばっかりしてたマサヨシさんには年頃の女の子の悩みなんてわからないでしょうけどね!」


「年頃の少女?お前みたいなちんちくりんがか?」


 口調も子供っぽいので頑張って背伸びしているようにしか見えない。


「ちんちくりんって、あたしこれでも今年で十八歳なんですけど!」


「え……?う、嘘だろ……?」


 耳を疑った。


 改めてリュンを見る。

 身長は俺の半分より少し大きいかくらいしかなく、胸は当然のように崖地が広がっており、顔も人形のように童顔。

 十八歳といえばもう大人といってもいいはずなのだが、リュンにはその要素が一つも、一欠片もない。


「そんなにじろじろ見ないでくれますか……」


 ふと、俺の瞳に何かじんわりとしたものが広がっていく。


「そうか。なるほどな……」


 それが真実ならこいつは……いや彼女は、もうこれ以上成長することはできない。体も、心も、そしてきっと、頭も……。

 そう考えるとあまりに可哀想で、つい涙がほろりと溢れてしまう。


「いや、一体何に納得してるんですか。そしてなんであたしをこれまで見たこともないような温かな眼差しで見てるんですか」


「気にするな。手、繋ぐか?」


「繋ぎませんよ!なんでいきなり優しくなるんですか!ちょっと待ってくださいなんなんですか本当に!ねぇ!マサヨシさん!?おい聞いてんのかマサヨシ!!」


 いつもなら腹の立つリュンの暴言も、今は気にならなかった。


 あぁ、なんて可哀想なリュン。せめて今日くらいは優しくしてあげよう。


 なんてやりとりをしているうちに、とある建物が見えてくる。


「あれがリーフブリーズ魔法学校です」


 リュンの屋敷よりも二回りくらい大きい校舎は建設されてからかなり時間が経っているのかどこか古めかしさを感じさせる。

 ただその外観は、俺が城下で見たような普通の人間の通う学校と大差はない。魔法学校と入ってもその辺りは変わらないのかもしれない。

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