第二十五話 取引
「マサヨシさ……!ギブ、ギブですぅ……!」
「お待ち下さい勇者様」
ユーリカがゆるい口調で止めてくる。
端から見るとなんだか楽しんでいるように感じるのは気のせいだろうか。
「邪魔するなユーリカ。俺は、俺に不幸しかもたらしてくれないこいつをこの手で始末しなきゃ気が済まないんだ」
「それほどまでにリュンとの結婚は嫌だと?」
「嫌に決まってるだろうが」
自爆して森とカブの村を焼き払おうとし、長年培ってきたカブの村の人々との絆を打ち砕き、散々馬鹿にしてきたにもかかわらず戦闘では全く役に立たず命の危険に晒す。
たった一日しか経っていないのにこれだけのことをしてきたのだ。結婚なんかしたらきっとその日に俺は持つもの全てを壊し尽くされてしまうだろう。
「そこまでおっしゃるのならひとつだけ方法があります」
ユーリカのその言葉にリュンの首を掴んでいた手を離す。
「……まさか、結婚しないのと引き換えに魔王と戦えっていうんじゃないだろうな?」
そのとおりとでも言いたげに、ユーリカは深く頷く。
「リュンの宝玉を勇者様が貫いたことを知っているのは私と、そしてカブの村の人々のみ。そして、カブの村の人々は魔女の掟を深くは知りません。つまり、私さえ黙っていれば、勇者様がリュンにプロポーズしたことは誰にもばれません」
「してないからね?そのやってもいないことをあたかもやったかのように、しかも俺の意思でやったかのように言うのだけはやめていただけませんか」
プロポーズとか人聞きが悪すぎる。
「つまるところ、取引というわけですよ。魔王と戦うか、リュンと結婚するかの二者択一。もちろんどちらを選んでも私は……」
「わかった、魔王と戦おう」
「マサヨシさん早い、早いよ決めるの。即決じゃん。え、あたしとの結婚は魔王と戦うことよりも嫌ってこと?死ぬかもしれないのに?こんな美少女を無条件でお嫁さんにできるチャンスなんて滅多にこないっすよ?それでもなお命の危険を顧みず魔王と戦うことを選ぼうとするその心は一体どういう構造をしていらっしゃるんです?」
「え、お前、何言ってんの?」
「せめて真顔で言うはやめてくれませんか」
「誰のせいでこうなったと思ってんの?ねぇ。お前があのとき自爆しようとさえしなければ俺は魔王と戦うこともお前のようなポンコツ魔女を嫁に貰わないといけない危機を迎えることもなかったんだよ?自分がやった罪の重さ理解してる?」
「危機ってなんですか危機って!あたしの人生一度きりの結婚なんだと思ってるんですか!?」
「どう考えたって墓場だろうが」
「墓場!?あたしの輝かしい結婚生活をそんな暗い言葉で例えるのやめてくれませんかねぇ!?これでも一応幸せな結婚夢見てるんだからさぁ!マサヨシさんだって結婚したらさっきみたいに平気で首閉めてくるようなDV男のくせに!」
「自爆してあたり一体吹き飛ばそうとするようなやつよりはずっとマシだろうが」
「二人は仲がいいんですねぇ。本当に結婚しちゃいますか?」
「「しないっ!!」」
「あらあら、息もぴったりですね」
うふふと笑うユーリカ。
なんだかユーリカの手の上で踊らされていただけのような気がしてならない。なんならリュンと出会ったことすらユーリカの差し金だった可能性すらある。
リュンと結婚するのが嫌だから魔王と戦うなんて自分でも馬鹿馬鹿しいとは思うが、それくらいこいつと結婚するのが心の底から嫌なので仕方ない。自分の気持ちには正直でいないとね。
「それでは参りましょう。森奥……我らが魔女の故郷、リーフブリーズへ」
あぁ、どうしてこんなことに。
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