第十七話 リュンちゃんといっしょ
「森はあたしたち魔女にとっては庭も同然。任せておきなって!このあたしにかかれば悪い魔法使いを見つけるのなんて息をするよりも……いえ、ここに存在していることよりも簡単なことですから!」
と、誰が見てもわかるような鬱陶しいドヤ顔をしながらそんな大層なことをリュンが言っていたのがほんの五分前の話。
それから歩いて数分後、俺たちの前に姿を現したのは、魔法使いではなく赤褐色の鱗を纏った巨大なドラゴンであった。
いや、まじで意味わかんねぇんだけど。
逃げようにも、もうすでにばっちりくっきり目が合っちゃっているので逃げられない。ていうか逃げたところで追いつかれるのがオチだ。
例えようのない無力感を抑えてリュンを見ると、奴はすっと目を逸らす。が、構わず続けた。
「なぁ、リュンさんよぉ」
「な、なんでしょうか」
「俺が見つけて欲しかったのはこんなヤバそうなドラゴンじゃなくて、魔法使いなんだけど。魔法使いなんだけど、ねぇ。怪物じゃないんだけど。人なんだけど」
「何回も言わなくったってもちろんわかってますよ……わかっていた、つもりなんですがねぇ……」
「いやわかってねぇだろうがどう考えてもよぉ!馬鹿なのか!?アホなのか!?」
「ば、馬鹿ってなんですか馬鹿って!あたしだって一生懸命頑張って探してたんですよ!それが、ほんのちょっとだけ外れちゃっただけで……」
「お前これをほんのちょっと外れたで済ますつもりか!?天気の話をしてるんじゃねぇんだぞこの野……」
「ゴギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
ドラゴンが地響きのような唸り声を上げた。
「いやああああああああああああああああああああああああああ!?」
叫んだのは俺かリュンか、もしくは両方だったかもしれない。
気づいた時には一目散に走り出していた。
当然のようにドラゴンが追いかけてきて、命をかけた鬼ごっこが幕を開ける。
だが、図体も違ければ当然歩幅だって違う。俺たちの二十歩がドラゴンにとっては一歩でしかない。いつ追いつかれてもおかしくないというかいつ踏み潰されてもおかしくはない。完全にジリ貧だ。
前を走るリュンに声をかける。
「おいリュン!!お前の魔法で足止めできないのか!?」
「ファイアーボール当てたら止まりますかねぇ!?」
止まらないだろうなぁ……。
なんせ図体は俺たちの三十倍くらいはあるドラゴンである。外皮も鱗がびっしりでとても歯が立ちそうにない。よくてちょっとやけどするくらいだろう。
「じゃなくて、なんかこう足を凍らせるとか!」
「氷系の魔法はあたしの専門外です!」
「時間とめるとか!」
「時間操作系の魔法はあたしの専門外です!」
「目潰しするとか!」
「光属性の魔法はあたしの専門外です!」
「じゃあお前なんの魔法だったら使えんの!?」
振り向いたリュンは、こんな時だというのにどこか恥ずかしそうに頬を朱に染めて、ぽそりと呟くように言った。
「えっと、その……ファイアボールを少々……」
「使ぇ……くそ、どうすればいいんだ……!!」
「マサヨシさん?今使えないって言おうとしませんでした?使えないって言おうとして途中で止めませんでした?ねぇマサヨシさん?」
「リュン!作戦だ!このまま走って行ったんじゃどの道追いつかれる!」
「で、でもどうするんですか!?」
「お前が囮になって奴の気を引く!だからその隙に俺は走って遠くに逃げるんだ!」
「そ、そんな!?それじゃあマサヨシさんが……って、あれ?なんか今の言葉おかしくないですか?『俺が囮になって気を引くからその隙にお前は逃げろ』の間違いですよね?」
「一、二の三で合図を出す!準備はいいな!?」
「よくねぇよ!!さっきの言葉をちゃんと訂正してもらってからじゃないとあたしが……!!」
「馬鹿野郎っ!このままじゃ二人とも死んじまうんだぞ!四の五の言ってる場合かよ!?」
「いや勢いで押し通そうとしても駄目だからね!?あんたあたしを囮にするつもりですよね!?足の遅いあたしを囮にして一人だけ助かるつもりですよね!?なんとか言ったらどうなんですか!?」
「…………」
「何か言えっ!!くそ、そうはさせねぇ……そうはさせねぇぞぉ……!!」
前を走っていたリュンがいきなり速度を落としたかと思うと、俺の背中に飛びついてくる。
「なんだお前離せこらっ!!」
一心不乱に振り払おうとするが、生にしがみつこうとする愚かな魔女の最後の力なのかなかなか引き剥がすことができない。
「あたしとマサヨシさんはもはや運命共同体。生きる時も死ぬ時も一緒なんですよ……?」
「お前みたいなポンコツ魔法使いと一緒に死んでたまるか!」
「ポンコツって言った!!マサヨシさんがあたしのことポンコツって!!」
そんなアホな会話をリュンと繰り広げている間にもドラゴンとの距離は縮まっていくばかり。
「ギャオオオオオオオオオオオオオッ!!」
もう一声鳴き声を上げたドラゴンの顔が迫ってきたかと思うと、
「え、ちょ、待っ……!」
俺の背中に張り付いていたポンコツ魔法使いを器用に口に加えて空高く持ち上げてしまった。
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