第十五話 目下の目的
「それで、マサヨシ。リュンちゃんに何か言わなきゃいけないことがあるんじゃないのか?」
親父がいつになく真面目な顔で言ってくる。
「それは……」
わかってはいるが、どこか釈然としない気持ちになるのを止めることはできなかった。
まぁ確かに?ちゃんと確認しなかった俺も悪いけど?俺だって殺されそうになったわけだし?そもそも一番悪いのは誤情報をもたらしたトロールだし?
ちなみにトロール達は今日のところは森に帰らせてある。
「マサヨシ」
お袋まで真剣な瞳で見つめてきた。
さすがに言い逃れを口にしようとするほど俺も子供ではない。
相手は子供といえど、通すべき筋があるのは確かだ。
「あぁもうわかったよ。俺が悪……」
俺が謝罪の言葉を口にしようとすると、キョドろまくっていたはずのひきこもりニートアホ野郎がこれでもかってほど大きな声で勝鬨を上げた。
「ふへへへへへへへ!それ見たことか!だぁから言ったんだよあたしはぁ!何も悪いことしてないってねぇ!正義は必ず勝ぁつ!これに懲りたらその馬鹿な口で二度とあたしに指図するんじゃ……」
気づいたときには、リュンが頑に食べようとしていなかったニンジーンを無理やり口に押し込もうとするのを両親が必死に止めようとしているところだった。
「待って!いや、待ってください!あたしが!あたしが悪かったですから!生意気言ってすみませんした!だからニンジーンを食べさせるのだけは勘弁してつかぁさい!食べると胃の中が爆発しちゃうんですぅ!」
「ニンジーン食って爆発するなら今頃ここの村人は全員死んでんだよ!好き嫌いなく食べなさいってママに教わらなかったか!?なんでも食べないと大きくなれないってその偉い偉い大魔法使い様とやらは教えてくれなかったのか、あぁ!?」
「ごめんなひゃい!ごめんなひゃいぃぃぃぃぃぃぃ!」
「落ち着けマサヨシ!落ち着くんだ!」
俺の抵抗はリュンがちゃんとニンジーンを食べ終わるまで続いた。
ーーー
「ったく、人が下手に出ればいい気になりやがって……」
「ニンジーンが……ニンジーンがあたしのお腹の中で胃液にドロドロに溶かされ細かく分解されて血肉へと変わっていくのがわかるぅ……」
「生半しい言い方するんじゃねぇよ。ただ消化されてるだけだろうが」
「ふぅ、ふぅぅぅぅ……」
ニンジーンを食べてしまったことがよほどショックだったのか、お腹を押さえながら蹲っている。ニンジーンにトラウマでも抱えてるんだろうか。
ともかくちゃんと謝罪しようとしたのをアホな発言で不意にしたのはリュンなので、一応義理は果たしたということでいいだろう。
「それで、マサヨシ。俺たちに何か言っておかなきゃいけないことがあるんじゃないのか?」
親父が唐突にそんなことを聞いてきた。
「普通の人間がトロールの腕をいとも簡単に切り落とせるはずがない。それに、あの剣もそうだ。一体何があった?」
そりゃダイコーンが剣になったりその剣で魔物の腕を切り落としたりしたらさすがにおかしいと思うだろう。
別に隠すようなことでもないので、俺は城下町で起きたことを掻い摘んで話した。
「なるほど、そういうことだったのか。女神ディアナ様の御加護ともなれば、その野菜を武器にする力にも納得がいく」
「野菜、武器化……」
横になっていたリュンが意味ありげに呟く。
俺の能力を解析した僧侶フランシスカ含む裏切り者共はまったくぴんときていなかったようだが、さすがに大魔法使いの孫ともなれば心当たりがあってもおかしくはない。
「何か知ってるのか?」
「いえ、何も」
「知らないなら意味ありげに呟くんじゃねぇよ。ニンジーン食わせんぞ」
さっきのことが蘇ったのか、リュンは奥歯をガタガタいわせながら震え上がっていた。言葉遣いも丁寧になっているあたり相当効いているらしい。
「そうなると、お前はこれからどうするんだ?」
「どうするって?」
「勇者に選ばれたんだ、魔王を倒しに行かなければならないんじゃないか?」
「あー……」
確かに今の俺にはダイコーンソードやゴンボーウスピアがある。その他にもまだ見ぬ野菜武器があるのかもしれない。
その強力さは、トロールやリュンと戦ったときにすでに証明されている。そこはさすがに女神が寄越した能力ということなのだろう。
この力があれば、もしかしたら魔王軍と戦うこともできるかもしれない。
だが、一人で戦いに挑むのは流石に無謀だろうし、今更アーレン達を追いかけて一緒に戦おうという気にもなれなかった。
使えないからといって簡単に切り捨てられたことは未だに記憶に新しい。
俺は首を横に振って答えた。
「女神様には悪いけど、俺には魔王を倒すよりも村を脅かす魔法使いをどうにかする方が大切だ。それに、アーレンは俺抜きで魔王を倒すって言ってたんだ。どうにかするだろ」
トロールに苦戦していたところを見るに道は険しそうだが、追い出された俺が奴らの心配をしてやる義理も必要もない。
「そうか。お前がそう決めたのなら俺たちがとやかくいうことじゃない。だが無理だけはするなよ」
そう言って、親父もお袋も頷いてくれた。
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