第十四話 リュン・リフラ・リィン
その後。
強制的に滝にぶち込まれることでしなくてもいい反省をさせられた俺が命辛々滝からあがった頃にはすでに日が暮れ始めていた。
びしゃびしゃの服のまま家に帰ると、1日の仕事を全て終えたらしい親父がまったりしながら出迎える。
「おぉマサヨシ、帰ったか」
「帰ったかじゃねぇよ。何普通に出迎えてんだ。俺もう少しで溺れ死ぬところだったんだからね?親として助けようとか思わないわけ?」
「まぁそうかっかするなマサヨシ。いい経験をしたじゃないか」
「ずっと信頼してきた村人に滝壺にぶち込まれる経験なんてする必要ある?」
おまけに誰も助けてくれず、むしろ投げ入れた後早々に帰って行った。
こんな辛い経験はできれば一生したくなかった。
「とにかく、風呂がわいてるから入ってきなさい。水浸しのままじゃ風邪をひくぞ」
「ああそうさせてもらうよ」
親父の言うことももっともなので、風呂場に向かう。
濡れた衣服を洗濯かごに入れ、生まれたままの姿となった俺は浴室の扉を勢いよく開いた。
「え?」
風呂場には先客がいた。
俺と同じように生まれたままの姿で体を洗っている銀髪金目のどこかで見たことのある少女は、俺と目が合うなり言葉をなくしたようにぱくぱくと口を開いている。
うん。マサヨシ知ってる。
これあれでしょ?叫ばれるやつでしょ?そんでまた滝の中に放り込まれることになるんでしょ?さすがに真っ暗な中冷たい水の中に放り込まれれば今度こそ死にかねない。
だから先に叫ぶことにした。
「変態だああああああああああああ!!見知らぬ変態がここにいますうううううううう!!誰か助けてえええええええええええええええ!!」
「それあたしのセリフなん」
何か聞こえたような気もしたが躊躇いなく扉を閉める。
ふぅ。これでとりあえず池ぽちゃはなくなったな。危ねぇところだったぜ。
だが、数秒もしないうちに向こう側から扉が開け放たれる。
「ちょっと待ちなさいよあんた!」
「なんだ。色々な空気を読んでこっちから閉めてやったのにわざわざ自分から開けるんじゃねぇよ」
「いやおかしいでしょ!?なんであたしが裸見られたのに変態扱いされなきゃいけないの!?叫びたいのはこっちよ!!」
「俺だって裸見られてんだ条件は同じだろうが。それに、俺は気づいた瞬間目を逸らしてやったのに、お前は俺のとある一部分を熱心に凝視してたのは知ってるんだからな」
「なっ!?違っ!?」
「違うってんならいい加減俺の息子に話しかけるのをやめろこの変態が。見せ物じゃねぇんだぞ」
「っ!!」
顔を真っ赤にして目を逸らす少女。その目には図星を突かれた悔しさか、はたまた羞恥からか、涙が溜まっている。
あー、俺こいつに口喧嘩で負ける気しねぇわ。へへ。
「どうしたんだマサヨ……」
そこに現れる親父とお袋。
その四つの目に、両手を腰に当てて踏ん反り返っている裸の息子とその息子と、顔を真っ赤にして泣きそうになっている裸の少女の姿が映る。
ま、どっちが悪く見えるかなんて、言わなくてもわかっちゃいますよねぇ。
「マサヨシぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
どこからか湧いてきた村の男共に連れ去られ、俺は真っ暗になって何も見えない忘却の滝に裸のまま投げ入れられた。
誰も助けてくれなかったのはもはや言うまでもない。
なんか今日こんなんばっかだな。
ーーー
「で、そいつは一体何なんだ」
死に物狂いでなんとか家に戻ってきて風呂に入りリビングに戻ってくると、俺は食卓に座っていそいそと飯を口に運んでいる銀髪の少女を指しながら両親に問いかける。
少女は俺を見るなり怒りを露わにした顔で睨みつけてきたが見なかったことにした。
「何って、お前が連れてきた魔女ちゃんじゃないか」
「まぁそうだろうなとは思ってたけど、そうじゃなくてどうして俺の家にいるんだよ」
「お前が魔女ちゃんにしてしまったことを考えれば、うちで面倒を見るのは当然だろう。なぁ、母さん」
親父の言葉に頷くお袋。
「だからそれは色々な不幸が重なった結果であってだな。それに俺は森でこいつの魔法に焼き殺されそうになったんだぞ。村だって危なかったんだ」
「そういえば、名前もまだ聞いてなかったわねぇ」
聞いちゃいねぇ。
借りてきた猫のように静かにしていた魔女だったが、お袋のその言葉で何かのスイッチが入ったのか、勢い良く立ち上がると椅子に片足を乗せてポーズを決めた。
「ふはははは!聞いて驚け!あたしは魔王も恐れる大魔法使いユーリカ・リフラ・リィンの孫、リュン・リフラ・リィン!この名を聞いたが最後、生きて帰れると思わないことね!」
もう帰ってるというツッコミはしなきゃいけないんだろうか。
「あらあら、リュンちゃんって言うの。見た目とおんなじで可愛らしい名前ねぇ」
「魔王も恐れるとなると、その大魔法使いのユーリカさんとはさぞかし立派な方なんだろうなぁ」
「………………ふぐっ」
触れてあげて!突っ込んでくれないと色々やりきれなくなるやつだから!恥ずかしすぎて顔真っ赤になってるから!違う意味で泣きそうになってるから!
ぐすっと鼻を啜った後、リュンは再びいそいそと食事に戻った。
不憫だ。
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