第七話 流暢がすぎる

 まじで意味はわからないが、でもこの剣があればいける……!俺にもやれるぞ……!


 急に変な自信が湧いてきた俺はダイコーンソード(仮)を手に、片腕を失った痛みで蹲っているトロールに近づいていく。


「さぁトロールよ。さんざんっぱら俺の生まれ育った村を荒らし周りやがって。ここが年貢の納め時だ」


 俯くトロールに向かってダイコーンソード(仮)を振り下ろそうとした、その時だった。


「マッテ!オジチャンヲコロサナイデ!」


 トロールと共に村に来ていたゴブリン達が俺の前に立ちはだかる。

 どうやら子どもらしく、これまで見てきたゴブリン達と比べると幾分か小さい。

 蹴っただけでも致命傷を与えられそうだった。


「なんだお前達は。殺されたいのか」


「オジチャンヲタスケラレルナラ!」


「出てくるなって言っただろうが……!」


「イヤダ!オジチャン、タスケル!」


「お前ら……」


 いや、なんなのこの展開。なんか剣を向けてる俺の方が悪者っぽいんだけど。ここでゴブリン達を切って伏せたら人でなしみたいになるじゃん。


 ていうかトロールお前滅茶苦茶流暢に喋るやん。出てきたときにカタコトだったのなんだったの?


 胡散臭い目で見ていると、何かを決心したようにトロールが地面に頭を擦り付け、叫ぶように声を上げる。


「勇者……いや、勇者さん!」


「な、なんだ」


「こんなことをあんたに頼むってのは筋違いだってことはわかってる!それが許しちゃいけねぇことだってのも重々承知だ!だが、少しでも哀れに思ってくれているのなら、この子達だけでも助けてやってはくれねぇか……!」


「いや哀れになんてこれっぽっちも思ってないけど。そもそもここで逃したところでどうせまた畑から野菜盗みまくんだろ。助けてやるメリット何もないから」


「こいつらにはもう二度とこの村に近づかないように言って聞かせる!こいつらだけじゃねぇ、ほかのゴブリン達も森から出ないようにさせる!だから……だから頼む……!俺はどうなってもいい、だから、こいつらだけは……!」


 トロールの叫びが辺りに響き渡る。

 腕を失った痛みに体をひくつかせながらも、埋まってしまうんじゃないかと思うほど強く地面に頭を擦り付け続ける。


「マサヨシ……」


 遠くから親父の声がした。

 村のみんなが息を飲んで見守っているのがわかる。


 わかっている。村のみんなが何を望んでいるのか。

 ゴブリン達は村の食料を食い荒らす。これまでも、そしてこれからも。たとえここでこいつらを逃したところで、ゴブリン達は数えるのも馬鹿らしくなるほど大量にいる。今も森のどこかで息を潜めている。


 どうすべきなのかなんて、考えるまでもない。


「無理だな。お前を殺した後に、全員殺す。それが俺の、勇者の使命だ」


「そう、か。そうだよなぁ……」


 俺の言葉を聞いて、トロールは自分を取り囲むゴブリン達に手を差し伸べた。わぁわぁと子どもゴブリン達が泣きつく。


「悪かったなぁ、お前達……。俺がやり方を間違えなければ、こんなことにはならなかったのに……」


 一頻り泣いてから、トロールは再び俺を見た。


「勇者さんよ。最後にひとつだけ、勝手なわがままを言ってもいいか」


「なんだ」


「この村で獲れたダイコーンを、食わせてはくれねぇだろうか」


「どうして」


「この村のダイコーンは俺の大好物なんだ。栄養豊富で鮮度抜群、何より滅茶苦茶に旨い。最後に一口だけでもいいから、食べてから死にてぇんだ……」


「……」


 ふと、隣に誰かが立つのがわかった。

 見れば、親父がダイコーンを差し出している。

 頷く親父の意図を察して、俺はダイコーンをトロールの前に置いた。


「いい、のか……?」


 頷いて答えると、トロールはダイコーンを小さく折って、大きい方を子どもゴブリン達に分け与えた後、小さい方を口に運んだ。


 シャリシャリと噛み締めるように味わう。そうしているうちに、その瞳に何かが光るのが見えた。


「これまで食った中で最高のダイコーンだ……うめぇ……本当に、うめぇ……」


 それだけ零すと、頭を垂れる。


「すまねぇ、願いを聞いてくれて。それじゃあ人想いにやってくれ」


 お前人じゃないけどな。


「オジチャン!」


 子どもゴブリン達が叫ぶ中、俺は天高く突き上げたダイコーンソード(爆)を勢い良く振り下ろした。

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