第五話 勇者様御一行vsトロールwithゴブリン達

「と、トロールだッ!トロールがでたぞぉ!」


 村一番の走り屋ジョンソンの叫び声が聞こえたかと思うと、遠くの方で木々から鳥が一斉に羽ばたくのが見えた。


 少しするとズシンズシンと地響きが聞こえてくる。


「と、トロールだと!?間違いないのか!?」


 親父がぜぇぜぇと息を整えているジョンソンに問う。


「へ、へぇ!間違いありやせん!ゴブリンの集団を従えておりやした!」


「まさか、個々最近ゴブリンの活動が活発だったのは、トロールがいたせいだったか……!」


 トロールはゴブリンよりも図体がでかく力も強いまさに上位互換のような存在だが、ゴブリンのように群れることはほとんどない。


 そんなトロールがゴブリン達を率いているというのは妙な話だが、ジョンソンの必死な顔を見る限り嘘をいっているようには思えなかった。


 頷いた親父はアーレンに向き直り、頭を下げた。


「お願いです勇者様!どうか、どうかこの村をお救いください!」


 親父と一緒に村の皆も一緒になって頭を下げる。俺は当然下げなかった。


 どうしてこのタイミングで村を遅いに来たのかはわからないが、いずれにせよ放っておけば村の作物は全て奪われ、畑は荒らされる。


 そうなれば撒いた種も芽吹き始めた作物の芽も、全てが駄目になってしまうだろう。


 それは村にとって死活問題だった。


「き、来たぞ!」


 トロールが数十匹のゴブリンを連れてこちらへ向かってくるのが見えた。


「くそ、やるしかない!いくぞみんな!」


 くそとかいうな。やりたくないっていう気持ちがだだ漏れだぞ。


 ともあれアーレンの号令で、勇者様御一行のトロール退治が始まった。


―――


 数分後。


「ぐおおおおおおおおおおおお!これでもくらええええええい!」


 ゴブリーが持ち前の怪力で大槌をトロールに叩きつける。


 だがトロールは体を少し捻るだけでそれを避けると、無防備なゴブリーの腹を下から思い切り蹴り上げた。


 さらに宙に浮いたところで回し蹴りを放つと、ゴブリーは地面を転がり動かなくなった。


 ちなみに騎士アーレンはゴブリーと同じ形で既にやられており、僧侶フランシスカの治癒を受けている最中だった。


 魔法使いリリーの魔力も弓使いユゥリィの矢も尽き、勇者様御一行絶体絶命のピンチである。


 村のみんなはそんな勇者様達をはらはらとした様子で伺っていたが、俺はといえばそんな勇者達の必死に戦う姿を見て少しだけ気分がすっとするのを感じていた。


 使えないというたかだかそれだけの理由で俺を追い出したのである。それくらいは許してほしいね。


 「みんな!」


 アーレンが叫び、他の四人にアイコンタクトを送る。


 なんだ、まさか合体技でも繰り出すつもりか?


 そう思ったのか俺だけではないらしく、村のみんなの期待の視線がアーレン達に集まる。


 だが次の瞬間、アーレン達は村の入り口へと一目散に走り出した。

 おや?なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ?


「ゆ、勇者様!?どちらへ!?」


「僕達には魔王を倒す使命がある!こんな小さな村の為に命を落とすわけにはいかないんだ!みんなも逃げてくれ!」


「な、何を仰っているんですか勇者様!?この村をお見捨てになるということですか!?」


「見捨てるわけじゃない!逃げてくれって言ってるんだ!死にたいのか!」


 あいつ自分が何を言ってるのかわかってんの?馬鹿なの?お前が村を見捨てるのと俺達が逃げるのとは全然別の話なのよ?


 俺達が呆然としている間に、アーレン達の姿は豆粒みたいに小さくなっていた。


 まじで逃げやがった。なんて奴らだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る