第四話 酷ぇ奴ら
予想通り、勇者様御一行は俺をパーティから追い出した騎士アーレンを筆頭とする五人組のことだった。
半日も歩けば辿り着くカブの村は城下からそれなりに近い村だ。日が暮れてきたから寄ったとかその辺の理由だろう。
ちなみに俺の方が早い理由は近道を知っているからだ。田舎者なめんなよ。
村の中心では即席で作った櫓が建てられ、轟々と燃え盛る炎を囲い勇者をもてなすための宴が行われている。
俺に宣言したとおりアーレンは俺の代わりに勇者を名乗り、村の皆から歓待を受けていた。
他の四人も特に訂正などをすることはしなかった。すでにアーレンを勇者として受け入れているらしい。
釈然としない気持ちが湧いてくるが追い出された身でずけずけと入っていく気にもならなかった。
―――
翌朝。
出立する勇者御一行を見送るため村の全員が入り口集まっていた。
もちろん行きたくなんてなかったがお袋に叩き出されたので仕方なく一番後ろに並ぶ。
なんで勇者であるはずの俺が勇者のいない勇者パーティを見送らねばならんのじゃ。自分で言っててわけわからんくなるわ。
アーレンが声をあげる。
「昨夜はありがとう。みなさんから貰った力、必ず魔王討伐に役立たせます」
ぱちぱちと拍手が起きる。といっても元々村人が少ないのでまばらだった。
そんな中村長である親父が勇者の前に一歩進み出る。
「勇者様。お急ぎのところ申し訳ありませんが、一つお願い事を聞いていただけませんか」
「お願い?」
「ええ。ここ最近、近くの森からゴブリン共が来て村の畑を荒らすのです。そのお力でどうか退治してはいただけませんか」
ゴブリン発生は村の慢性的な問題だった。普段は追い払えばすぐいなくなるのだが、どうやら主のような奴が住み着いて指示を出しているらしい。
残りの四人を振り返り頷き合うと、アーレンは言った。
「悪いが急いでいるんだ。一刻も早く魔王を倒さなければならないからね。それに僕達が魔王を倒しさえすればゴブリン達もおとなしくなる。それまで待っていてくれないだろうか」
その言葉に耳を疑ったのは多分俺だけじゃないだろう。
アーレン達ほどの力があればゴブリン退治なんて容易であることは昨日一緒に戦ったのでわかっている。それこそ本気でやればものの数時間で達成できるはずだ。
「ですが、畑の作物はこの村の収入源。これ以上荒らされればみなの命にかかわります。すぐにでもどうにかしなければ……」
なおも食い下がる親父だったが、アーレンは聞く耳を持たない。
それどころか、次の瞬間にはとんでもないことを口にした。
「僕達からもお願いがあるんだ。この村にある作物を全て譲ってくれないか」
今作物が収入源だって言ったばっかだろうが。耳になんか詰まってんじゃねぇの?
「さ、作物を、全てですか!?それはさすがに……!」
「この先僕達の旅はきっと過酷なものになる。少しでも食費を抑えておきたいんだ。魔王を倒すため協力してほしい」
魔王を倒すためと言われれば村人は協力せざるを得ない。
勇者が村に来たら歓待するように、勇者に協力を請われれば応じなくてはならないのもまた慣わしだった。
でもこれはあまりにも行き過ぎだ。職権乱用だ。勇者ハラスメントだ。
ていうか全部持ってったところで五人しか居ないんだから全部食えるわけねぇだろうが。
さすがに腹に据えかねた俺がアーレンの元へ詰め寄ろうとした、その時だった。
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