第5話 秘密の真相
翌朝――厳密には「明け方」である――僕たちは予定通りに起きた。先に身支度を整えると、友の指示通り、僕は離れの外に出る。
東の空が徐々に白み始め、夜から朝へと変わる刹那を目の当たりにした。鳥も目を覚まし始めたのだろうか。遠くの方で、微かに囀りが聞こえてくる。
さて、と僕はじりじりと太陽が空へ昇ってゆくのを待った。ひたすら何かを待ち続ける、というのは、この職業に就いてからは非常によくある話だ。僕は辛抱強い方であると自負しているので、そのあたりに関しては全く問題がない。
しばらく手持無沙汰でもみの木を見上げていると、突然スマートフォンが着信を訴えた。無論、相手は友である。
「はい」
間髪いれず出ると、どうも友の様子がおかしい。なんだか、嬉しそうにしているのである。
もみの木を見ろ! という指示を受けたので、僕は再び大木を仰ぐ。先程から何度となく見上げているのに、なにを今更、と思いながら。だが、僕はそれを目の当たりにしたとき、思わず電話を取り落としそうになった。
もみの木の後ろに、昇りたての太陽がちょうど覆いかぶさる。刹那、もみの木に変化が訪れた。
温かな日差しに包まれながら、金色の光はもみの葉一本一本を濃い緑から金色へと染め上げていく。そしてのちに、全てが金色に生まれ変わった。ほんの数分のうちに、夢のような場所へと迷い込んでしまったのかと錯覚してしまうほどに。この光景は、僕が知る中でも指折りの美しさである。
「これが実篤氏の『黄金に輝くユグドラシルの樹』だ!」
興奮した様子の友が電話越しに告げる。「ナツさん、なにか変わったことはないか? よく探してみてくれ」
「了解しました」
たしか、あの遺言はこのように書かれていた。『私の財は、黄金に輝くユグドラシルの樹の下にある』と。つまり、この条件が揃ったときでなければ分からない何かがあるということだ。
僕は周囲を見渡し、その「何か」を探そうと躍起になった。黄金に光り輝くように見える範囲で、変わったこと。すると、僕の目にちかちかと光るものが飛び込んできた。
はっとして、僕は離れへと身を翻す。
昨日調べたときは気が付かなかったが、離れの屋根に用いられている瓦が一枚、まるで鏡のようにきらきらと瞬いているのが見えた。ちょうどその瓦に細い光線が当たるよう、綿密に計算されてもみの木は手入れされているのだ。
そしてその光は屈折し、とある一点――根元に向かって伸びている。
なんという仕掛けだ。こんなもの、見たことがない。
僕はすかさずその場所に駆け寄り、あらかじめ用意していたシャベルを差し込んだ。なかなか堅い土だが、全く掘れない訳ではない。気合いで先端をねじ込み、無理やり地表をひっぺがす。
ある程度掘り進めたところで、シャベルになにかがぶち当たった。
「友、何か見つけた」
電話に向かってそう言った頃には、太陽はベストポジションから外れてしまい、普通のもみの木へと戻ってしまっていた。もう少し見ていたかった気もするが、こればかりはしょうがない。いずれにせよ仕事優先なのである。
しばらくして、友が小走りでやってきた。今日は青を基調としたシンプルなワンピース姿である。僕は「汚れるから」と窘めたが、彼女は全く気にしていない素振りで発掘作業に手を貸した。
さて、ふたりでなんとか掘り出したのは、手のひらサイズの小箱だった。材質はなんだろう。僕はスコップの端で箱をつつき、
「多分、石膏か何かでしょう」
と結論を出した。「開けてみましょうか」
友はひとつ頷き、僕が箱を壊す瞬間をじっと見つめていた。
この箱の中から、いったいなにが出てくるのか。僕は地面に箱を置き、その上からスコップを振りかざす。数回叩くと、意外と脆い素材だったようで、箱はまっぷたつに割れてしまった。
友がその石膏の欠片を上手に避け、中身を確認する。その中身の正体は、意外とすぐに発見することができた。
そう、中に入っていたのは、古びた一本の鍵だったのである。
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