第3話 ジェイドとオーブ 後編

『タイプ』:

16個の中から2つまで選択できる。お互いに弱点であったり半減されたりの関係がある。

無(ノーマル)、心(マインド)、技(アーツ)、体(ボディ)、

術(マジック)、武(アーム)、機(アーティファクト)、竜(ドラゴン)、

火(ファイヤ)、風(ウィンド)、氷(フリーズ)、地(アース)、

毒(ポイズン)、虚(ヴォイド)、雷(サンダー)、光(シャイン)。


◆◆◆



「イヤーッ!」

古城さんはオーブへ袈裟斬り!それをオーブはバックステップで回避!

 だが、振り下ろしたソードが股下を狙い跳ね上がる!

「おおお!」オーブはその場でジャンプし回避する!

 すごい動きだ、さすがはグランドマスター!


「ヤァーッ!」

 しかし古城さんの動きはさらにその上!

 切り上げた勢いそのままに、その場でバク転、ノータイムで突きを放つ!

 プロのサーカス団員も驚くような体捌きだ!

「もらった!『発動!』」

 古城さんは『疾風』のスキルを発動、ソードがオーラを纏う!


「アーッハッハッハ! 単純バカめ!」

 だが、それを見ていたジェイドは全く心配していない。

 ZONK!古城さんのソードはオーブに見事命中するが、ダメージは三分の一ほどしか減らない。

 オーブは『技タイプ』のスキルを半減するタイプを選択してあるのだ。タイプ相性で本来のダメージより半減される。

「クッソ、スキル発動なしでこの減り……少なくともあと2回、下手したらあと3回当てないと!」


 VRゴーグルから聞こえてくる古城さんの声は完全にイライラしている。

BRBRBRBRBR!

 ジェイドが左手に装備した球体から威嚇射撃を放つ!

 俺は古城さんの裏に回り、サポート『フラッシュガード』でそれを防ぐ!


「ハーッハッハッハッハ! 銀等級の素人に庇ってもらうとは、噂の美少女高校生プロゲーマーも腕が錆び付いたな! 貧乏すぎて練習不足かぁ?!」

 本当に声がデカいやつだ。チャットを許可してないのにゴーグル越しでハッキリと聞こえる。


 古城さんの目が、どろりと濁る。

 ヤバイ、頭に血が上ってる。こういうときが一番危険だ。

「お、おい古城さ───」

 古城さんは凄い勢いでオーブの方へ走る!

 速い!


「引っかかったなゴミ虫め! 発動!!」

 ジェイドの持つ球体が、茶色のオーラを発する!

 竜タイプの弱点、機タイプのスキル「マシーナリーバレット」だ!


「発動!」古城さんも、唯一セットしてる防御系のスキル『刹那・穿月』を発動する!

「あっ?!」

 だがそれは完全に迂闊だ。古城さんはいい意味でも悪い意味でも有名人だ。

 当然、その戦法は広く知れ渡ってしまっている。


「発動!」横にいたオーブが古城さんに向けてスキルを発動!

 盾役だからといって、攻撃技を持っていないとは限らない!

『刹那・穿月』は高性能な分、タイミングが短いのが弱点だ。

「あああ!」

 横からの突然の攻撃を受け体勢を崩した古城さんは、ジェイドの本命をモロに喰らう!

『ロスト!』古城さんはがっくりと膝をつく。


 以前のツインデビルズのときと同じく、古城さん専用のスキルセットを組んでいるなら俺にもチャンスがあるはず!

「このっ!」レバーを素早く入手、三段パンチ!

「不用意に突っ込んでくるとは、痴れ者め!」

 ジェイドは軽く距離を離しながら、球体からの射撃で牽制。

 スキルを発動してないので大した威力ではないが、このまま無策で受け続ければいずれは体力がゼロになってしまう。


「このっ、この!」フラッシュガードを使い少しずつ距離を詰める。

「ほぅ……」ジェイドはそれを見て、少しだけ感心したような声を出す。

 だが、距離を詰められた程度で慌てるジェイドではない。冷静に右手の棒状のもので牽制。


「くそっ!」

 俺は仕方なくガードするしかないが、その隙にジェイドはまた距離を離す。

 なんて手堅い動きだ。一部の隙もない。

 ジリジリ前後してフェイントをしたり、垂直にジャンプして好きを誘ったり、無駄にスキルを空振りしてみるが、何をしても返される。


「クソッ、発動!」

 俺はファイアチョップを無理やりねじ込む!ガードされても、そのまま一気にラッシュをかけるしかない!

「オーブ」「ウッス」

 だが、ジェイドもオーブもそんなことは予測済みと言わんばかりに、オーブが俺の前に割り込む。


 弱点属性ではないが、等倍のダメージだ。オーブは落とせるはず。

 しかし、オーブのライフは───残り一桁で減らなくなる。

 サポート『ガッツ』だ。確率で発動し、発動すれば即死攻撃でもライフが少しだけ残る。


「グワッ!」オーブの情け容赦ないローキック!

 俺のアバターはよろめき、コンボを受ける!

「あー……」

 VRゴーグルを外す。これは負けだ。

 相手からしたらつまらないと思うほどに徹底された動き。それを可能にするやり込み。

 これが、グランドマスターか。

『ロスト!……勝負あり!』


「………帰る」

 さっきから寝たままだった古城さんは、起き上がると早足でフィールドから出る。

 相当怒ってるみたいだ。

「フゥーハハハハ! これで俺様が新宿最強! それから池袋最強ということでいいな?! フゥーハハハハ!!」

 フィールドでは、ジェイドが腰が抜けるほど踏ん反り返ってる。

「……俺も帰るか」

 対戦相手がいなきゃ練習も出来ない。仕方なく、今日の練習はここまでにすることとした。

 ゲーセンを出るときも、まだジェイドの演説は聞こえてきていた。

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