第3話 ジェイドとオーブ 前編

『アタッカー』:

プレイヤーのプレイスタイルのこと。

プレイヤー自身がセンサーを装備して自分でフィールドで動く『アクションタイプ』と

コントローラーでドローンを操作する『アバタータイプ』、

さらにアバタータイプは格闘ゲームをベースにした操作系統の『スタンディング』と

シューティングゲームをベースにした『フライング』に分類される。



◆◆◆



 それから俺は、仕事が終わったらゲーセンに向かう日々がしばらく続いた。

 ガシャガシャ!レバーを素早く入力し、ひたすらコンボ練習。

 今日は人が少なく、シングルマッチが起きない。仕方なくトレーニングモードで時間を潰す。


「オッス」「おう」

 古城さんと軽く挨拶。ここの常連とも少し親しくなった。

 基本的には大学生が多いけど、高校生やスーツ姿の社会人の常連もそこそこいる。

「雇ってくれるプロチーム、見つかった?」

「いや、全然。私にチームワークがないって悪評が広まっちまってるからな……」


 古城さんは俺には基本的に優しいし、そんな業界で嫌われるほどなんだろうか?


「ヌァーッハッハッハッ! これで10連勝!!」

「グワーッ!」 

 何やらメインフィールドの方が騒がしい。そっちに目を向けると、『ツインデビルズ』の二人がボコボコにされていた。


「クッソー!最近白銀等級にまで上がったこの俺たちを、こんなに簡単に倒すなんて!」

「チャンネル登録よろしくぅ!」


 抜け目なく宣伝してからフィールドから退去する。あいつら、転んでもタダじゃ起きないな……。


「池袋はレベルが低いな、ロクなプレイヤーがいない!」

 勝った方のプレイヤーが大声で演説を始めた。大会でもないのにそんなことする奴初めて見た。

 というか、プレイヤーがいないのはそもそも今日は平日だからだと思う。

「やはりアルティメイトファイターズのメッカは新宿! 俺様こそ『新宿一位』、ジェイド! スポンサー様へクリックよろしく!」

 ジェイドは背中にプリントされた広告をアピールする。お前もか。大変だな最近のゲームプレイヤーは。

 ジェイド。聞いたことある。確か東大卒のプロゲーマー。


「今日は学会だったから帰りに池袋で遊んでみたが……フゥーハハハ! やはり俺様が最強か! なぁヤス、そう思うだろう?」

「ウス、やっぱりジェイドさんが最強っす」


 ジェイドの後ろにいるもう一人のプレイヤーが相槌を打つ。

 アレは確か、グランドマスターでジェイドと同じチームのオーブとかいうやつだ。


「おや、おやおや? そこにいるのは古城亜姫さんじゃないか?」

 ジェイドは古城さんを見つけると、ねちねちとした口調で絡んでくる。

「ゲッ」古城さんは心底まずいという顔をして逃げようとした。

「数少ないグランドマスターで、唯一スポンサーがついていない、貧乏人の古城さんじゃないですかぁ!」

 いちいち声がでかいなお前!


「『パラベラム』をクビになってあっちのホームに行けなくなったからこっちに来てるのかぁ、みじめだねぇ勝てないプレイヤーは! ワァーハッハッハッハ!!」

 古城さんの目つきがスーッと鋭くなる。

「……完全にムカついた。やるよ、オッサン。『ダブル』だ」

「いや、あんな挑発に乗ることないって。よくある口プレイってやつだろ」

 古城さんはもはや返事すらせず、テキパキと防具を付け始める。


「いやいや、無理だって。俺が虹等級が相手なんて相手にならないよ、ようやく銅等級卒業したとこだぞ」

「だって今日いる中ではオッサンが一番強いし。いいから準備して」

 古城さんの口調は断固としたもので、話を聞いてくれる感じではない。

 俺は深くため息をすると、仕方なくメインフィールドにプレイヤーカードを挿入する。

 ……まぁ俺も、古城さん以外のトッププレイヤーと戦える機会なんて中々ないから悪い話じゃない。


 相手のスキルセットを確認。

 ジェイドの方は物理アタッカー、物理耐久、特殊アタッカー。

 オーブの方は物理耐久、特殊耐久、両受け。お手本のような王道ど真ん中だ。

 俺は最近ようやく実戦レベルに育成が進んだ気(スピリット)/火(ファイヤ)属性のアタッカーをセット。これしか無いし仕方がない。


 古城さんはいつものように物理アタッカーの竜(ドラゴン)/技(アーツ)をセットしたみたいだ。

 ……大丈夫だろうか、古城さんはたくさんアタッカー持ってるんだからちゃんと選択すればいいのに……。


『レディ……ファイト!』開幕の電子音。

 相手は両方アクションタイプだ。ジェイドのやつは東大卒のくせに運動神経がいい。うらやましい限りだ。

「ヤァーッ!」

 とりあえず様子見……と思う間もなく、古城さんが相手に向けて突進する!

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