第2話 鮮血†堕天使 前編
プレイヤーネーム:古城亜姫(本名)
メインで使用してるセット
タイプ:龍(ドラゴン)/技(アーツ)
アタッカー:三日月ブレード
スキルセット:ドラゴンオーラ、刹那・穿月、竜巻、疾風
サポート:プロテクター
オートスキル:韋駄天
備考:ランク グランドマスター(虹等級)
「ふぁ……眠い……」
お客さんに見えないように欠伸をする。昨日は結局家に帰れたのは深夜二時だ、そっから風呂に入って寝れたのは四時。眠くないはずがない。
昨日のことをぼんやりと思い出す。
大歓声。高揚感。達成感。社会人になってから、あれほど興奮したことが一度でもあっただろうか?
「七屋敷さん、ずいぶん疲れてますねぇ」
同僚が話しかけてくる。この人は年齢的には俺より歳下だが、この職場では先輩の人だ。悪い人じゃないんだが、残念ながら苦手なタイプ。
「いえ、そんなことないですよ」
立ったまま書類を適当に片付けていく。
今の職業に不満というほどの感情はない。
ただ、学生の頃から目指して入ってきた職種だが、俺には向いてないんじゃないか?という意識は常にある。
「『古城亜姫』っと……あった」
昼休み。俺はスマホで昨日出会った彼女の名前を検索してみた。
「なになに……『チーム・パラベラム』所属。プロゲーマー……」
プロゲーマー。ゲームでお金を稼ぐ職業。正直、俺とは縁遠いものだと思っていた。
「『アルティメイトファイターズ』のプレイを中心に活動……」
アルティメイトファイターズ。昨日出会ったあのゲームは、池袋や新宿、蒲田や町田といった場所にある専用施設でプレイできる、VR(仮想現実)とAR(拡張現実)を用いて、ゲームとスポーツを融合させた全く新しい競技。
半年ほど前に大手ゲーム会社から発表され、今若者の間で空前の大ブームとなっている。
配信実況者の動画や大会のレポなどがズラっと表示される。
確かに、こうして見ればSNSや広告などで見たことはあった。
「ゲーマーも、スポーツマンも、一丸となって競い合える、ゲームもスポーツも超えた新たなジャンル……なるはどね」
とりあえず俺は昼食もそこそこに、アルティメイトファイターズの専用アプリを早速公式からDLした。
◆◆◆
アルティメイトファイターズは育成ゲームの面も兼ねるみたいで、スマホでポチポチして自分の専用の装備やスキルを整えられるみたいだ。
今日は仕事は17時30分で終了。俺は早速電車に乗り、また池袋までやって来る。
いつものように凄い人混み。割引券を配るメイド喫茶のお姉さん。音楽が過剰にうるさいパチンコ屋の隣。
俺は自動ドアをくぐり、受付で装備のレンタル代を払う。百円。
また来てしまった。もうおっさんのアラサーにもなって、若者のゲームにどハマりするのは恥ずかしいんじゃないか?と俺の中で自問自答する。
「クビって……なんでですか!」
と、すぐ近くから怒鳴り声が聞こえる。女性の声……古城さんだ。
「だって、シングルでもダブルでもちゃんとグランドマスター維持してるんですよ!問題ないはずです!」
「昨日の動画、拡散されてるぞ。知ってるのか」
古城さんは何かを言おうとしたが、目の前の男の言葉にたじろぐ。
「プラチナどころかゴールドクラスの相手にボロ負け。理由はダブルのチームプレイ放棄。いい笑いものだぞ。分かっているのか?」
「け、けど私は数字で示して……」
目の前の男は、少しため息をつき、続ける。
「我々としても、君ほどの能力を持つプレイヤーを失うのは惜しい。けど、これ以上チームで不和を起こすなら、外さざるを得ない」
男は、なにかの書類を手渡す。
「分かってくれるね?」
古城さんは、口をパクパクとし、必死に言葉を続けようとしたが……そのうち、下を向いてしまう。
男は、それを見ると古城さんの横を通り、店から出て行った。
き、気まずい……。
俺は何か声をかけた方がいいのか、それも踏ん切りがつかずみっともなくウロウロしてしまう。
「………なに」
「い、いや……昨日は、どうも」
しどろもどろになって言う。我ながらキモい。
古城さんはふーっと息を吐くと、俺の方をまじまじと見る。
「やる気になったんだ、このゲーム」
「まぁ、ちょっとだけ」
「貸しなよ、そのカード。シングルマッチでもする?」
古城さんは俺の手からプレイヤーカードを受け取る。
「少しぐらい教えてやってもいいけど」
「マジで?ありがたいけど大丈夫なのか?」
「ああ、どうせクビになったから、暇になっちゃったし」
「……あっそう」
こういう時に気の利いたことを言えないのが俺の悪いところだ。
移動して、昨日やったメインの大フィールドから奥の方にある箱みたいなところに行く。どうやら一対一のプレイはここでやるようだ。
ワンプレイ、百円。
ジャラジャラジャラジャラ。隅っこにある両替機で千円札を崩す。
この感じ、懐かしい。格ゲーをやり込んでた頃は、毎日の日課だった。
「ネットの記事、見たよ」
「ん」後ろで装備を付けながら待つ古城さんは素っ気無い返事だ。
「大学生ぐらいかと思ったけど、古城さんってまだ高校生なんだな」
彼女の名前を検索してトップに出てきたネットのニュースには『美少女高校生プロゲーマー!』の見出しが踊っていた。
「高校生の癖に、深夜0時までゲームしてて、補導されるぞ」
古城さんはプッと吹き出す。「なんだよオッサン、親かよ私の」
まぁ深夜に出歩いていることはともかく、驚いたのは本当だ。彼女は背が高く、大人びて見える。
「その『古城さん』っての、やめろよ。年上なんだし呼び捨てでいいよ」
そう言いながら壁にもたれ、缶コーヒーを飲む姿はキマって見える。切れ長の目に、鼻筋の通った顔。短髪なので中性的で、男の子のようにも見える。
「昨日はありがとな。おかげでランク落とさずに済んだよ。終電ヤバかったから、あんまし話もできなかったけど」
俺も装備を付け始める。昨日も思ったけど、まぁまぁ重くて長時間着るのは結構しんどい。
「オッサン、格ゲー勢? 結構有名なプレイヤーだったりする? 強いじゃん……昨日の動画、結構話題になってるよ」
有名プレイヤーなんてことはない。大会には出たことはないし、場末のゲーセンで対戦してただけだ。
ブィィン。カードが筐体に吸い込まれる。VRを被ると、ドローンが起動。画面がONになり、俺のプレイヤー情報が表示される。
画面には、トレーニングモードと表示。対戦相手が正面の筐体に入ってくるまでは、これでトレーニングして待つのか。
『バァァァァン!』というびっくりするような大きな音。乱入のエフェクトだ。
相手プレイヤーの情報が表示される。プレイヤーネームは『古城亜姫』。
対戦相手とのチャット機能をONにする。
「オーケイ、オーケイ。感度良好。んじゃ、今日は19時ぐらいまでやろっか。平日だし空いてるし、ずっと占領してても怒られないだろ」
VRの視界が開ける。「とりあえず、かかってきなよ」
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