第1話 出会い 後編

「上の3ボタンがパンチ、下の3ボタンがキック。236Pで突進打撃、623Pでその場で回転ジャンプ攻撃」

「成程、98からの京ね」

「え?」

「分からないなら無視して大丈夫」


 俺はとにかくムカついていた。

 あの、古城さんを公衆の面前で恥をかかせた二人組みの男に、胃が燃えるほどイライラしていた。

 古城さんが俺に優しくしてくれたから?

 古城さんが若い女性だから?

 理由は分からない。とにかく俺は、笑われている人を見ると、許せなかった。

 どうにかして、あの男共に一泡吹かせてやる。


「オイ」

 相手の生身の方に近づく。

「あ? 何だよ、お前まだいたの? リタイヤしろよ。レートゼロポイントはお呼びじゃないんだよ、殺すぞ」

 攻撃的な口調。本当にイライラする。俺は、こういうタイプの奴が嫌いだ。

 素早くスティックを前、下、斜め前下に入力!


「ギャッ!?」

 俺のアバターはその場で回転しながらアッパーカット!

 普通に考えたらこんな攻撃、有効であるはずもない。これはゲームだから有効な攻撃だ。

 生身のほうは胴体につけたセンサーに衝撃が走り、吹き飛ばされる。

 俺のVRのモニタの上のほうには相手のライフが表示されているが、減ったのは1/3ほどだ。


「この野郎……!」

 背後のロボが両腕からレーザーを乱射!だがそれは俺に当たるが効果は無い。的確な動作でレバーを前に入れ、弾いていく。

 そのままジリジリと前進。

「な、何だこの野郎……めちゃくちゃ上手いぞ!」


「無属性タイプに有効なスキルは積んでない……二人がかりで囲んでボコすしかないぞ!」

 大声で喚きあう二人。聞こえてるっつーの。

 もうロボの方は俺の目の前だ。囲まれて滅多撃ちにされる前にコイツは片付ける!

 俺はレバーを下、斜め下、前に素早く入力!「ギャッ!」ロボのほうに突進パンチ!

 さらにもう一回レバーを同じ動きに入れる!踏み込みながらのショートアッパー!「ウギャッ!」

 そこからさらにキックボタン!水平蹴り!「ギャーッ!」フルコース!


 これでも減ったライフは三分の一ほどだが、ロボの方は思ったとおりダウン!

「テメェ!」生身のほうは対古城さんのために盾にだけ注力していたからか、ロクな攻撃法を持ってないみたいだ。

 すばやくレバーを前、斜め、下、斜め、後ろ、また前に入力!『発動!』電子音!生身の方を掴むと白い色のオーラが俺に纏わり、猛烈な爆発!

「グワーッ!」生身の方のアーマーがバシュバシュと引き剥がされる。『ロスト!』よし!


「や、やめろ!」ロボの方は慌てて大声を出すが、もう遅い!

 俺は相手の起き上がりに合わせてジャンプ!

 相手は咄嗟に立ち上がりガードするが俺はそのまま着地、水面蹴りで相手の足元を打つ!

「いましゃがんだ!下段ガードしたって!」ロボの奴が喚き散らす!

 下段からさっきのコンボをフルコースでもう一回!

 最後を蹴りではなくレバー下、斜め前、前、斜め前、下、斜め後ろ、後ろと入力!『発動!』猛烈な連打!

「痛ぇ!!」『ロスト!……勝負あり!!』


「チックショー!」相手はコントローラーを殴りつけ悔しがってる。

 ブツン。VRの画面が消える。「ふぅ……」アドレナリンで興奮しきった脳が急速に冷めていく感覚。

 と、その瞬間。「ワアアアアアアアア!!」すごい歓声だ。おいおい、今深夜0時だぞ。


 ドクン。ドクン。俺の心臓は跳ねるように早鐘を打つ。これは何の感情だろう。

「ここでなら、戦える」

 俺は、そんな勘違いをしてしまった。

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