第1話 出会い 中編
「そう、これを着る。んで腕と身体、足にもこれ付けて」
言われるがまま腕や脛に防具のようなものを付ける。身体には野球のキャッチャーみたいな謎の外套。
俺に装備を付けてくれるジャージ女……名前は、古城亜姫(ふるき・あき)というらしい……は、最後にVRマスクを手渡してきた。
こちとら年齢イコール彼女いない歴なんだぞ、過剰なボディタッチはやめてくれ。
「それを被って、完成。『アタッカー』や『サポート』は初期設定にしといたから。属性もノーマルでいいかな」
「お、おい、何が始まるんだ?」
「え? なんだよ、もしかしてコレが何かも知らないのか?」
古城さんは俺とは違い、動きやすそうな比較的軽装の装備だ。ジャージの上から防具と、頭にはゴーグルをつけてる。
「まぁ、棒立ちでいいから。とりあえずこれ持って」
手渡されたのは、格ゲーではお馴染みのアケコン。スティックに、6ボタンのオーソドックスなやつだ。
流されるままVRゴーグルをつける。
電源が入ってないから真っ暗で何も見えない。
ヴィイイイイン。視界の外で、何か小型のものの駆動音。
俺からは見えないが、どうやら小型のドローンが人間の背丈ぐらいまで浮き上がったらしい。
「うお、おお!」
VRの電源がONになると、そこに広がっていたのはバーチャルな世界ではなく、現実の風景をリアルタイムで処理した反現実の風景。
柵に囲まれたフィールドは原色に彩られたスタジアムになり、雑に置いてあるだけの障害物はリアルな岩や木に変換されてる。
自分の手を見ると、こっちはなにやらロボのようなものになってる。
どうやら、俺の前を飛んでいる小型ドローンに搭載された全周囲カメラの映像をリアルタイムで表示しているようだ。
アケコンのスティックを倒すと、ドローンが動く。なんだかロボットに搭乗しているような気分だ。
隣には、古城さんが立つ。古城さんの格好も、バーチャルで合成され近未来の兵士みたいな格好になってる。
「さぁ、試合開始だ」
試合? 試合っていったい……。
俺がそう尋ねようとした瞬間、ファンファーレのような音楽が鳴り響き、『レディ……ファイト!』の電子音声。
ワァァァァァ! 歓声。柵の外から見ているのは20人はいるだろうか。
お前ら、今は深夜0時だぞ。いくら池袋が眠らない街だからって、暇人かよ。
格ゲーをやってたときは有名店でも背後でベガ立ちで見てるやつなんて精々2人か3人だったのってのに、すごい人気だ。
VRを介してみる古城さんは、両腕に長い光る剣のような物を持っている。後から聞いた話だと、肉眼でも周囲の柵から投射されるARによって同じように見えているらしい。
「適当にしててくれ。あの二人は私一人でたぶん勝てるから。出来ればロストしないでくれると助かる」
古城さんは、両手の剣をくるくると器用に回しながら言う。
ヴォン。灯のついた電灯を振り回したみたいな音。リアルだ、これが仮想現実なのか。
「うおおおおおおおおーーッ!」
ちょうど柵の反対側にいた、対戦相手と思われる二人が走って突進してくる。
片方は、俺と同じくロボットみたいな外見で動きが直線的だ。もう片方は古城さんと同じく生身の外見。こちらは銃みたいなものと盾みたいなものを両腕に持っている。
「今日で『ダブル』のランクマッチポイントがリセットの日でさ。あと一戦分足りないところだったんだ。虹等級から落ちたら給料減っちゃうし」
そう言うと、古城さんは相手を中心に円を描くように走り出す。
BARRRRR!対戦相手の生身のほうが銃を発射!それはVRやARによって地面に本物の銃弾が着弾したかのように土煙をあげる。すごいリアルだ。
「ヤァーッ!」古城さんは両腕の剣で切りかかる。
「オリャッ!」それを盾で受ける。ロボのほうが側転すると、こちらも両腕から銃弾を乱射!
「ガンナーとガンナーって、素人かよ」
古城さんの小声。どうやらVRゴーグルにはスピーカーが付いており、味方とは音声でやり取りできるようだ。
すごい。正直、あっけに取られていた。
VR。ドローン。AR。今は娯楽もこんなに進化しているのか。確かにこれなら、若いやつらは夢中になってしまうだろう。
「ヤァーッ!」古城さんは銃撃を巧みに避けつつ、二刀流を振り上げる!
「発動!」何かを宣言すると、古城さんの剣は水色の光を纏う。
あの二人とは古城さんは、全く動きが違う!すごい運動神経だ!
だが、盾を構える相手は……それを読んでいたかのように、ニヤリと笑った。
「発動!」
KRAAAAASH!古城さんの剣は、相手の盾に受け止められてしまう!
「しまった……ああっ!?」
古城さんは受け止められたことに驚き、反応が遅れる。その隙にロボと生身は銃弾を連射!
「ああああああ!!」
古城さんは滅多打ちにされる!『ロスト!』という電子音声!
バシュバシュバシュ。バーチャルでは古城さんのアーマーが溶けるようにはがされ、剣も光を失う。
古城さんはどっかりと尻餅をつく。
「ちっくしょー……やられた……」
古城さんは悔しそうに、本当に悔しそうにつぶやく。
「あいつら、私の得意属性にだけメタ張って準備してたんだ。気づかなかった。確認もしないなんて……ランク落ちそうで、焦ってたな」
「ハーッハッハッハ! どうだ見たかよ、虹等級を瞬殺!」
生身のほうが両手を挙げて大声で周囲の観客にアピールする。
「お前が『ダブル』に今日来ることは分かってたんだよ! ランク落ちそうだもんな! 一人で好き勝手動いて連携する気がないこともなもちろんわかってたんだぜ!」
ロボの方も古城さんを指してゲラゲラ笑ってる。
「俺たちは今絶賛活動中の動画実況者『ツインデビルズ』だ! 良ければチャンネル登録よろしくぅ!」
よく見ると彼らの装備には動画サイトのチャンネルURLが書かれている。
「ごめん、私が突っ走りすぎた。二対一、しかも初心者が勝てる相手じゃない」
古城さんはまだ悔しそうだ。
「リタイアしてくれていいから。本当にごめん」
「……古城さん、聞きたいんだが」
俺は、意を決して切り出す。
「これ、勝つためにはどうやって動かすんだ?」
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