アルティメイトファイターズ〜仮想現実でゲームとスポーツが融合した競技でプロゲーマーを目指す〜

くねくね

第1話 出会い 前編 

 その日は雨だった。俺は雨が大嫌いだ。


 電車通勤の経験があれば分かってもらえると思うが、雨の日の電車は本当に最悪だ。

 仕事を終えて、今は23時45分。立ち仕事なこともあり、全身がべっとりと粘膜に包まれたかのように重い。


 クソッタレな一日だった。

 学生時代はこんなに些細なことでイライラすることはなかった。年齢を重ね、丸みが出るなんてのはきっとウソだ。


 俺は正しいことを主張してるはず。地域に貢献し、真面目に働いている。

 けど、どうして俺は上手くやれないんだろう。やる気も向上心もなく適当に働いているやつが優遇され、俺は孤立している。

 つらい仕事の責任だけ押し付けられ、後輩や同僚に正しいことを主張しても煙たがれるだけだ。


 どうにもイライラが収まらず、俺の足は適当に繁華街へ向かっていた。

 西武新宿線を乗り継ぎ、池袋へ。

 けど、俺はもともと根暗な性格だ。風俗に行く気はないし、クラブでダンスなんて、したことも近付いたこともない。パーッと飲むぐらいなら自宅でやる。


 ジトジトと降る雨の中、フリフリの服で着飾った女性が、メイド喫茶の割引券を配っている。遅くまで大したものだ。

 俺がたどり着いたのは、ゲームセンター。学生時代、毎日のように通い詰めた場所だ。

 もう何年も来ていないが、何となくまたやりたくなった。


 だが、そこは俺が知っている場所ではなかった。


「なんだぁ……? 『アルティメイトファイターズ』?」


 パチンコ屋の隣にあったそのゲーセンは、外に客引きの巨大なモニタがあるところまでは昔のままだったが、地下のアーケード筐体のコーナーへ降りるエスカレーターは無くなっている。


 その代わり、一階や二階は元々はプリクラやUFOキャッチャーのコーナーだったはずだが、柵に囲まれた大きな運動場のようなものになっている。

 入った先には大きなモニタが壁一面にあり、二階の様子を映し出している。二階も同じような施設に代わってしまったようだ。


「なんだよ……格ゲーやシューティングは無くなっちまったのか……」

 栄枯盛衰、仕方のないことだ。だいたい、今時格ゲーなんて儲からないのは俺も知ってる。

 普段だったら、別のゲーセンに向かうか諦めて帰るだけだっただろう。

 だが、今日の俺は本当に心が疲れ切っていた。色々なことが考えられない。


「オッサン、格ゲー得意なのか?」

 急に横から声をかけられ、びっくりして大げさに横っ飛びしてしまった。少し恥ずかしい。

 声をかけてきたのは、短髪に帽子を目深に被った、中世的な女性。大学生ぐらいだろうか?

 動きやすいよう、ジャージ姿だ。


「どうなんだ?」

 女性は片眉を上げ、訝しむように重ねて聞いてくる。

「あ、ああ、まぁ少し」

 俺は根暗なんだ。若い女性とは高校以来話したことがないので、どうにもいつも落ち着かない。

「ふーん……」

 ジャージの女性は、じろじろと俺のことを試すように全身を見る。

 な、何か今の受け答え、変だったか……?


「まぁいいや、オッサン」

 ジャージの女性は、俺によくわからないカードを手渡す。

「私とチーム組んでくんないかな」

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