第6話 偶然って、それはないでしょう! 3

さすがにずっと座っていては桜川にそのうちに見つかり、首を絞められかねないので、二つ目の真偽確認を行うことにした。


 内容はこうだ。

 人気ある占い屋に行って、今後の部の情勢を見てもらえだそうだ。おいおい、これはもうオカルトではないし、なんなら真偽確認でもない。てか、その人気の占い屋とやらはいったいどこにあるのかも知らない。後、仮に占い屋に行ったとしても、俺は金を払わせるわけだし。


 よって、占ってもらうことなどは一切するつもりはないが、さすがに占い屋の前ぐらいには行っておこうと思う。後々で詰問されたら具体的に答えられるし、なにより嘘のリアリティを上げられるからな。まぁ、人気あって二時間並んだけど、列が進まなかったよと、どうせこれに近い嘘文句が出るに決まっているんだけどな。

 そんな感じで桜川に対する言い訳を考えながらも、人気占い店でも探していると、アーケード街で見知った少女がいた。甘利だ。


 ただ、こちらには気づいていないようなので、俺はスル―しようと、道を一本ずらすことにする。無論、俺は甘利が嫌いだとかそういうわけではない。ただ、あのハイテンションに乗ってやれないことに残念だと思って、避けているだけだ。つまり、俺の貴重な配慮なのだ。


 だが、そんな配慮も当然、他人に汲み取られることなく、甘利は俺をほんの横目に入った瞬間にこちらに元気よく走ってきた。おいおい、お前視野広すぎだろ。日本代表MFかよ、もしくは草食動物。


「どうもっす、平均先輩!」


 俺の前に来ると、甘利は息を乱すことなく、元気よく手を上げた。


「はいはい、どうも」


 俺もそのノリの半分ぐらいの気力で腕を上げる。


「もう、元気ないっすね、日本男児たるがそんな気力では生きていけないっすよ」

「お前の抱く日本男児のイメージおかしすぎるだろ…」

「まぁまぁ、とやかく平均先輩は今何してるんっすか?」

「真偽確認だよ、人気ある占い屋探してるんだ。店の場所知らないか?」

「あっ、人気占い店すか、知ってるっすよ! うちも途中までは同じなんで、ついでに案内するっすよ!」

「なら頼むよ」

「っす!」


 お転婆少女のように笑顔を見せながら、甘利は元気よく返答した。

 うーん、この子普通に健気でかわいい子なんだけどなぁ、いまいちこのテンションにはついていけない。クラブにいる連中もこんな感じのウェイ系しかいないんでしょ? 一生、こんな風になれる気しないわ。


 俺は甘利のやや後ろについていき、彼女の進む方向に倣って進んでいく。


「そういえば、平均先輩?」

「どした」

「平均先輩って、なんで部に入ってなかったんっすか? うちの学校ってかなり部に入ってる人間いるはずなのに」

「そうだなぁ。なんかどの部に入っても満たされないと感じたからかなぁ」

「なるほど。で、アプデ研なら俺を満たしてくれるはずだと思って、入ったわけっすね?」

「いや全然違う。この部に入部したのはほぼ無理やりに桜川に入れられただけだ。自分の意思はない」

「え、えぇ。桜川先輩の言ってることってやっぱり嘘なんっすか?」

「どんなこと言ってたんだ?」

「えっとすね。『私が一声かけたら、その声音に魅了され、次には私の容姿に虜になり、入部させてくれと向こうが言って聞かなかったわ』って言ってたっすね」

「明らかな嘘だって、気づかなかったの?」


 おいおい、さすがに桜川が魅力的な人間だとしても、そんな風になるわけねぇだろ…。それ、もはや洗脳されてるレベルだよ。

「あー、やっぱり嘘だったんすね」


「もろわかりの嘘だったと思うんだけど…」


 なんなら、今のコンピュータにですら嘘判別できるぐらいだぞ…。


「じゃあ、先輩は今この部にいても満たされてないんっすね」


 どうしてか、甘利は悲しそうな顔をしている。どうしてだろうかと考えると、一つの解が出た。おそらく、彼女はこの部が好きなんだろうと思う。だから、貶されているようで悲しんだ顔をしているのだろう。


 俺は一点、修正すべき点を忘れていた。

 それを付け加えるように、一度咳ばらいをしてから口を開いた。 

 

「いや、それは前の話だ。入部した直前の話。今は満たされてるし、楽しい。振り回されるのは少し酷で辛い時もあるが、それを総じてこの部に入れてよかったと思ってる」


 俺がそう言い告げると、甘利はパーッといつものような明るい顔色に変わり、白い歯を見せた。


「そうっすか! それは良かったっす!」


 俺は手を握られぶんぶんと振られる。どうやら、俺の解は間違いではなかったようだ。


「では、改めてよろしくお願いするっすね、平均先輩!」

「はいはい、平均先輩よろしくしちゃう」

「なんっすか、それ」


 笑いながら甘利は俺の手を離し、そのまま真っすぐと駆け足で走っていった。そして、何かを思い立ったようにこちらに振り向いた。


「ここから真っすぐ行って、突き当りを曲がったところに占い店があるっすよ! うちはここの路地裏にオカルト調査があるんで失礼するっすね!」

「あぁ、了解。案内ありがとな」

「っす!」


 甘利はそう返事をすると、路地裏に入っていった。

 俺が歩いてその路地裏を覗いたころには甘利はもういなかった。騒がしく明るい彼女は静かで薄暗い場所へと消えていった。



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