第5話 偶然って、それはないでしょう! 2

 しばらくオカルト真偽を確かめるのはやめて、ボーっとベンチに座り込んでいた。

 空は現状の気分と違って、青く澄んでいる。

 はぁ、全く桜川の奴、あんな恥かく検証させやがって、許さんぞ。いや、許すけど。


「平田君?」


 横から声がしたので振り返ると、笑顔な蒼井さんがいた。


「ありゃ、これはどうも」


 休日に取引先の人とであったような対応して、俺は頭を下げる。


「お隣いいですか?」

「えぇ、もちろん、もちろん」


 俺は出来る限り、右により席を空ける。


「ありがとうございますね」

「いえいえ」


 笑顔で蒼井さんは行儀よく座り込んだ。


「いい天気ですね」

 蒼井さんは言った。


「確かにそうですね。もうすぐ夏が来そうです」

「もう桜も散りましたしねぇ」

「ほんとです」


 いかんな。女子と会話するのは別に不得意と言うわけではないのだが、蒼井さんと話をするとなれば、どうも単調な返答をしてしまう。


「その、いきなりなんだけど平田君?」


 蒼井さんは俺の顔色を覗き込むように、こちらに視線を向ける。


「どうかしましたか?」

「そのですね、私たちって同い年ですよね?」

「えぇ、そうですね。互いに二年生を務めてますね」

「なのに、私のことはさんづけなんですか?」

「様がいいんですか?」

「もう、平田君!」


 口調的には怒っているようには聞こえるが、大抵どんな挙動もかわいく見えて仕方ないので、癒されてしまう。ほんと女神だわ、この人。


「はは、冗談ですよ。しかし、呼び捨てはどうかと思いますけど」

「いえいえ、同い年なんですよ。それに平田君、謳歌ちゃんのことは呼び捨てで呼んでますし、敬語も使ってないじゃないですか」

「いや確かにそうですけど。なんかねぇ、蒼井さんは高尚な存在なんですよ。ほら、例えば、神様のことを神と呼び捨てしたり、参拝する際には命令口調で頼み事したりしないでしょ? それと同じなんですよ」

「もー、そんなことありません! 私も呼び捨てで呼んでください、後敬語も使わないでください!」


 蒼井さんはその不服を立てるべく、俺の腕を軽くつかんで子供のように懇願している。ほんっと、かわいい。


「わかりました、わかりました。えっと、ではよろしくお願いしますね、蒼井…ちゃん?」

「まだ敬語ですし、ちゃん呼びはやめてください!」

「わかった。よろしく、えっと蒼井」


 蒼井と言う名前は苗字のはずなのに、下の名前を呼んでるようで少し恥ずかしい。まだまだ、俺もバキバキの童貞ですね。

 俺がさんをつけないで、名前を呼ぶと蒼井は嬉しそうに目を大きくさせて立ち上がった。

 白いスカートと白い足は、混合した背景に混じり合うことなく独立し、蒼井の魅力をより一層きわ立たせている。


「えへへ、それでいいんですよ」


 あぁ、いかん。まぶしすぎて直視できん。そうか、彼女こそが太陽の権化だったのか…。


「では、私はまだまだ真偽検証が残ってるので行ってきますね」

「あぁ、行ってらっしゃい」

「はい、行ってきます!」


 元気よく返答すると、彼女は向こうへと歩いていった。

 どんどん小さくなっていくその後ろ姿はやがては人込みと建築物によって、姿を消していった。


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