第24話-事件の真実

 傭兵ギルドからの道すがら、ぷーちゃんにヴェルのことを簡単に説明をした。


『アネさん、そりゃ一体何者なんですかい』


「んー……神族じゃないかなーって思っているんだけど、正直良くわからないの」


『あっしが居てたら迷惑じゃぁ』


「多分大丈夫かなって……消し炭にされて魔界に送還されたら、そのときはその時ってことで」


『――!?』



――――――――――――――――――――



 そうこう言っているうちに魔猫屋の前まで到着してしまった。なんだか改めて外から店を眺めると、来客を拒んでいるような扉だなというのが改めて来てみた感想だった。


 ――ギィィ


「お邪魔します……」


 ついつい丁寧な口調になっちゃうのはもう仕方ないと思うんだ。この人のいろいろな噂を知っちゃうと。


(――あれ?留守かな)


 きょろきょろと店内を見回してみるが、誰の気配も感じられない。


(仕方ない。留守なら仕方ない――)


 そう思い帰ろうと振り返ったのだが。


(えっ…扉がない?)


 確かにここにあった。というよりも、ここから店内に入ってきたはずなのに、この場所がただの壁になってしまっている。


「ヨルちゃん、いらっしゃいませっ☆」


 優雅にスカートの裾をもってカテーシーポーズのヴェルがいた。




 壁から半分だけ体を出して。




「えー……」


 その登場ははっきり言って反応に困る。


「で、どうだった?」


「どう……というと?」


「怪しげな団体様と誘拐事件の件、解決できたっぽいじゃない」


「あぁ、えぇ。まぁいろいろありましたけれど」


「そう」と一言だけ言いヴェルはパチンと指を鳴らすと、店内の一角にテーブルセットが現れた。


 促されるままにそこに座ると、少し椅子が高く足がぶらぶらしてしまう。


「そっちのペットちゃんもどう?」


「!?」


 もしかしたらと思ったが、ヴェルはきっちりリュックの中でじっとしているサタナキアのことも認識していた。


『アネさん――』


「出ておいで」


 ぷーちゃんがモゾモゾとリュックから這い出てくる。


「この店は私の空間なの。異物があればすぐに気づくのよ」


『……』


 机の上にちょこんと座り、私を守るかのように陣取るぷーちゃん。だけど顔色があまり良くないのは、多分この空間に漂ってる力のせいだろう。


 はぁ、とため息をつきながらぷーちゃんの頭をポンポンと叩いてから話を切り出す。


「ヴェル――率直に聞いていい? あなたは一体何者なの?」


 街の英雄――魔猫――鬼畜――鬼猫――彼女のことは宿屋のおばちゃんから、冒険者、ギルドマスターまで色々な人が知っていた。




「たぶんヨルちゃんの想像通りかな。私は人間界に降りて隠居してる元神族――神人族っていうのかな最近の人は」


「やっぱりそうなんだ」


「ヨルちゃんは、ヨルズちゃんでしょ?」


「――はい、具体的には違うけれど、ヨルズは私の前々世。記憶は完全じゃないんだけど」


「だよねーだから初め確信が持てなかったんだよね。でもその悪魔を見て確信したわ」




 それから私は、この間ぷーちゃんに説明したのと同じような内容を覚えている範囲で説明した。何があって、今ここに居るのかを、ざっくりと伝える。


「なるほどねー。ちなみにヨルズちゃんなら私のこと知ってるはずなんだけど」



「――え?」



 そういわれても、彼女のようなロリ神の知り合いがいた記憶はない。だけれど名前の響きと、この若干うざいテンションには思い当たる節がある。


「ヴェル――……ヴォル……もしかしてゲイラヴォル?」


「ぴんぽーん☆」


『ゲイラヴォルの姉さん!?』


 キャピっと両手でピースをする彼女。当ててもらえて心底嬉しそうで椅子から飛び降りてクルクルと回り出した。

 ぷーちゃんは昔、私のストーカーと化していたとき、彼女に何度も半殺しにされた記憶が蘇ったのか、小さい体をガタガタと震わせている。




 [ゲイラヴォル]

 ヴァルキュリア(ワルキューレ)という戦いの女神の一人。

 性格は温厚そうに見えるが、非常に狡猾で好戦的。

 世話好きな一面もあり、ヴァルキュリアの中では情報収集が主な役割。





「ゲイラヴォル……あの」


 呼び方に悩むが、聞いてしまったからには真名のほうかなと思ってそう切り出したんだけど。


「今まで通りヴェルでいいよ〜」


 あっさりと拒否された。


「じゃあヴェル、私のこともヨルと。それでどうしてそんなロリ巨乳に……?」


「ぇぇぇっっ! このタイミングで飛んでくる質問がそれ!? ほんとに!?」


 机をバンバン叩きながら頬を膨らまし猛抗議するヴェル。ぷーちゃんは叩かれた机の振動で床に落ちたので、足で引っ掛けて拾い上げる。


「いや、気になって」


 たしか、一緒に肩を並べて戦っていた時の彼女はもっとこうモデルのような、とても良い体付きだったと記憶している。


「ただの低燃費モードよ」


「低燃費」


 そんな単語はこの世界には無いはずだが、様々な世界に繋がることができる神なら知っているんだろう。一旦スルーしよう。


「昔、ノート様から、あなたの事を探してと頼まれててね」



 

「――――はぁっ!?」


 私はたっぷり数秒ほど言葉の意味を考えて、口から出た言葉がそれだった。




 [ノート]

 夜を司る女神。大地神ヨルズの母親と伝えられている女神。

 性格はかなり温厚だが……。




「ほら、あのアホが暴走しちゃってヨルちゃんが被害を受けたでしょ?」


「え、えぇまぁ」


 あのアホとはきっと兄の昼神ダグのことだ。


「それでノート様がお怒りになって、昼神ダグを封印追放しちゃったの。そこから数百年この世界に朝がこなかったんだけど」


「ちょっ、ちょっと待って!」


 私を嵌めて殺した兄を、母が怒って封印した。そしてこの世界から昼が失われたと。


 (――今明るいよ?)



「あのアホの役目は、ヨルちゃんのもう一人のお兄ちゃんアウズ様が手伝わされてる」


「な、なるほど」


「それで、ノート様はヨルズちゃんの捜索を私に依頼してきたのよ」


「それがどうしてこの街に?」


「この街は昔、。ヨルズちゃんの魂が最後に飛ばされたのがこっちの方向だったから、拠点代わりにね」


 あの程度で神族としての魂まで消滅するとは思っていなかったらしく、どこかの誰かに転生し、人かセリアンスロープか、なんらかの生き物に私の魂が宿っていると考えて捜索を続けていたそうだ。



――――――――――――――――――――



「それにしても、見つかんないなーと思っていたけれど、まさか違う世界に飛ばされていたとはねー」


 そう言いながら、今更思い出したかのようにヴェルはティーカップにお茶を注いでくれる。それを一口飲み、二人してふぅと一息つく。


「そしてこれが、あのぷーちゃんことプートサタナキアか。――ふふっ、何度しばき倒しても諦めずヨルズちゃんに言い寄り続けて――くふふっ、根負けしたヨルズちゃんの従僕になった大悪魔が――あはははっ、こんなことに」


『説明ありがとよ、ゲイラヴォルの姉さん』


 その瞬間、ぷーちゃんの頭がガシッと掴まれる。


でしょ?」


『あっ、ありがとうございます』


「……」


 何だかこのやりとり、とても懐かしい――。





「ヨルちゃん神気お漏らししてるよ」


「なっ……っ!?」


 言ってることは判るけど、言い方!


「私に神気なんてあるわけないよ。セリアンスロープだよ? 魔法だって満足に使えないのに」


『出てますぜアネさん!』


「出てるねぇ。だってヨルちゃんセリアンスロープのくせに、魂があの頃のまんまだもん。そりゃ人が使う魔法なんて行使出来ないよ」


「――!?」


 つまり魂が浄化されたために、神法が行使できる……?


「でも神法は使えないかな……神力が圧倒的に足らないね」


 ということは、魔力を使う魔法は、神力が邪魔して使えない。でも、神法は神力が少な過ぎて使いない?


「詰んでる……けど、今まで通りだし、別にいいっか」



――――――――――――――――――――



 それからお互いの情報交換をしつつ、途中何回かぷーちゃんが死にかけることもあったが、概ね知りたいことは知れた。


「それで? ヨルちゃんはこれからどうするの?」


「あはは、あのアホを見つけてしばき回すよ」


 ヴェルだけでなく、ノートやアウズ兄にまで迷惑をかけたダグはやっぱり一発殴らないと気が済まない。


「たぶんヨルちゃんと同じように、人間かセリアンスロープあたりに転生させられていると思うんだよね〜」


「昔の記憶が残っていたらばしばきます。無かったら思い出させてからしばきます」


「相変わらずヨルちゃんは普段温厚なのに、怒ったら怖いね。さすが大地神」


「殴ったら満足するつもりだけれどね」


 さいくら兄が諸悪の根元だったとしても、例えば人に転生していた場合、彼にも今の生活があるだろう。

 そこまで奪うのは流石に申し訳ない。

 


「ヴェルはこれからどうするの?」


「んーヨルちゃんは見つかったからね。店はこのままにして、ちょっと報告しに帰ろうかとー」


「そっか」


 何でも本気で探せば、この地上にいればヨルが何処に居ても大体探し出せるらしい。さすが神族。

――私も昔はそういう事をしてたはずなんだけど、どうも思い出せない。


「あ、ひとつお願いがあるんだけど」


「なぁにっ? なんでも言ってみてっ?」


 椅子からぽんっと降りて、ピースをするヴェル。振動に合わせてヴェルの身体の一部もぽよんと揺れる。


「この部屋、別の空間なんだよね」


この部屋が今ある場所は神界に近い場所にあるヴェルのプライベート空間らしい。ここにいつでもアクセスできるようなアイテムを作れないかと思ったのだ。手だけ突っ込めれば十分だった。


「それでアイテムを入れて保管する袋とか作れたらいいなーって」


「んん――出来ないこともないけど、小さいポーチぐらいのサイズになるかな」


「ほんと? じゃあ報酬払うからお願いしたいんだけれど」


「報酬はいいよ、装備品だってあげたじゃない」


「でも貰いっぱなしなのは……」


「いいの! 私がピンチの時に助けてくれれば!」


「あ、じゃあアイテム袋要らない」


「えええっっ、まって! ひどいわっ!」


 まるで捨てられる子供のように涙目ですがりついてくるヴェル。


 結局、アイテム袋は作ってもらえることになり、ヘルプの件も私の気が乗ればということで手を打つこととなった。




――――――――――――――――――――


次回から新章です


人物紹介

■ヨル・ノトー / ヨルズ

種族:セリアンスロープ

桃色の髪でショートカット。猫耳としっぽがチャームポイント。

尻尾の先には父にもらったリボンを結んでいる。すぐ手が出る。

前々世では当時の勇者と兄ダグに罠にはめられ消滅。

 ・武器 [ヴェントゥス・グローブ]

 ・防具[春を感じる苺のイヤリング]

 ・防具[にゃんこのチョーカー]

 ・防具[ピンクブロッサム・ベルト(黒)]

 ・防具[進む道を見つめるモノ]

 ・防具[ブーツ/鹵獲品]


■プート・サタナキア / ぷーちゃん

種族:悪魔

バフォメットとも呼ばれ崇拝されている神であり悪魔。

山羊のような頭部に、筋肉質の体躯で背には黒い皮の翼を持っている。

はるか昔、地上に顕現し暴れていたところを大地神ヨルズにより討伐され、あろうことかヨルズに一目惚れ。

ヨルズがこの世から消えたのち深い眠りについていたのだが、ヨルと運命的な再開を果たす。


■アルフォズル・オールディン

種族:人間(貴族?)

ヨルがエルツ大樹海で出会った傭兵ギルドのメンバー。

それなりに実力はあるが、活躍の機会はまだ無い。

気づけば人の背後に立っている。

脳にプリンが詰まっているとヨルに言われている。


■アドルフ・フォン・ウォルター

種族:人間(貴族)

ガラムの傭兵ギルドマスター。

白髪交じりのおっちゃんだが、身体はムキムキ。

ヨルの村のことを知っているようだったが詳しくは話したがらない。

若い頃ヴェルにしごかれたらしい。


■エイブラムさん

種族:人間

ガラムの冒険者ギルドサブマスター。

インテリ系メガネ。

昔はカリスの担当職員だったらしい。

若い頃ヴェルにしごかれてトラウマを抱えている。


■エンポロスさん

種族:人間

行商人の老商人。盗賊の連行を手伝ってくれたとてもいい人。

王都に店を構えているらしい。


■モルフェ亭(宿屋)の女将さん

(母は「みーちゃん」)

種族:人間

ブラウンの髪を三編みにして肩から前に垂らし、エプロンを付けた優しそうな女性


■ヴェル・メイフラワー / ゲイラヴォル

種族:神族

魔猫屋の店主。十歳ぐらいの少女だが巨乳。

猫かぶりが酷く、街の人達からは「街の英雄」「魔猫」「鬼畜」「鬼猫」と呼ばれている。

その正体はヴァルキュリア(ワルキューレ)という戦いの女神の一人。

ヨルズを探すためガラムの街を作った。


■カリス・ガメイラ

種族:人間

冒険者ギルドの魔法使いの女の子。ヨルが助けてしまった少女で、二度もピンチから助けてくれたヨルに心の底から惚れている。

サタナキアのぷーちゃんとはヨルを巡って激しい争いののち、分かりあえているようだ。

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