第23話-大金持ちになった
ヨルは随分と世話になった商人のエンポロスさんを探しにロビーまで上がってきたのだが、ちょど二階から降りてきたエンポロスさんと出くわした。
彼はギルドマスターと今回の件について情報交換を行い、終わったばかりだとヨルに説明する。
回収してきた盗品の説明などをお願いできないかヨルが尋ねると、気前よく品定めに付き合ってくると優しい微笑みを浮かべて了承する。
――――――――――――――――――――
「なぁに、仕事のほとんどは弟子に任せており、暇なのですよ」
倉庫に戻ってきたヨルはカリスに商人のエンポロスさんを紹介すると、にっこりと笑いながら老商人は一つずつ品の説明を始めてくれた。
「まずこれらの美術品は必要ないかと思いますので、こちらで買い取らせていただこうと思います」
ヨルは問題ないと伝えるとエンポロスさんは説明を続けても良いかと言う視線をヨルに向ける。
「あ、その前にカリスは何か欲しいもの見つかった?」
「はい!よろしければこの杖が欲しいです!」
そう言ってカリスが手に取ったのは、硬そうな木を掘ったような杖で、頂点に赤いルビーのようなもの、恐らく
「そちらの杖ですが、なんらかの魔法が付与されているのですが、詳細は我々の鑑定ではわからなかったものです」
「カリスがいいのならそれで。でも効果が判明するまでは付与されている刻印に魔力とか通しちゃダメよ? 危ないと思うから」
「はい! お姉様ありがとうございます」
杖をぎゅっと握りしめて――抱きしめるように胸元に抱いたまま大きく礼をするカリス。
「あ、エンポロスさん、この中で"アイテム袋"的な物って有ったりします?」
ヨルの乏しい前の世界での知識でも、物語などでそういった効果のある箱や袋が度々登場していた。この世界にはそんな便利なものがあった記憶は無かったのだが、もしかしたらと尋ねてみたのだが。
「アイテム袋……ですか。それはどう言った効果の道具かお分かりですか?」
ヨルはこの世界に実在しているであろう魔法の効果を織り交ぜながら説明していく。
「残念ですが聞いたことはありませんな……ですが、そのお話はとても興味深いです」
確かに行商人にとっては垂涎のアイテムだろう。この世界で空間魔法と呼ばれている魔法は無い。だが、神や悪魔はこの空間とは別のところ――神なら神界にその本体が存在している。つまり別空間が存在しており、それを渡るための術も存在する。
その術をただのアイテムに施して効果が得られるかどうかはわからないが、気が向いたら調べてみるのも面白そうだとヨルは考える。
「じゃあもし有益な情報とか掴んだらお教えしますね」
「ありがとうございます」
カリスは相変わらず杖に頬をすりすりしているので、エンポロスさんから他のアイテムの説明を聞く。
「こちらの指輪は魔道具の製作に関わるものだと思われます」
「あ、それください」
魔道具製作用と聞いて、ヨルは一応ヴェルにお礼を兼ねて渡そうと確保する。それ以外にいくつかの戦いとかに役立ちそうなアイテムを引き取り、残りは全てエンポロスさんが換金してくれることとなった。
多少安く買い叩かれても、ヨルはそこまでお金に執着しておらず、散々手間をかけたのでそれでもいいと考えていた。
むしろお礼も込めて全額渡すと伝えたがエンポロスは首を縦に振ってくれず、結局は通常査定の八割で手を打つ形になった。
ヨルは鑑定で効果が判明したアイテムを数点と、鑑定が弾かれ効果が解らないアイテムを貰った。
効果不明のアイテムはそのうち、骨董商など鑑定のプロに頼もうと念の為に手に入れておいたのだった。
[ブーツ]
ヨルの足のサイズにピッタリ。
新品だった。
どうやら足先に刃を仕込めるようだ。
[短剣]
新品。
ヨルにも使いやすそうなサイズ。
料理の時に便利そうだった。
[ネックレス]
二個セットで、対になっている。
なにかの魔法が付与されている魔道具。
[メガネ]
[魔導書]
何らかの魔法が付与されている本。
魔力を流せばその魔法が使えるらしいけれどなにが起こるかわからないのでうかつに使えない。
[革のブレスレット]
ぷーちゃんの首輪代わり。
サイズも丁度良さそうだった。
[チェーンウィップ]
水魔法の「
ぷーちゃんの首輪にも繋げられそうだった。
[魔石]
細かいものをまとめて袋に入れた。
「では、買い取り金額はこちらの手形でお支払いいたします」
「ありがとうございま……す? ちょっと金額がおかしいですよ」
「これでもかなり少なく見積もった結果です」
その手形にはエンポロスの名前とヨルの名前。それと金額欄の頭に三七、残りはゼロが並んでいた。
「さんぜんななひゃく……?」
プルプルと震える手つきで手形を受け取ったヨルは一瞬「このお金で家を買って隠居しようかな」と頭に過ぎったのだった。
何しろ質素な生活なら年に金貨二十枚から三十枚。普通に王都で借家に一人暮らしするなら年に金貨百枚ぐらいと聞いたことがある。
三千七百枚ということは慎ましく過ごせば、王都で三十年以上も暮らせる計算になる。
カリスも流石の金額を耳にして、よくわからない顔になっている。ヨルに対して、妙な方向への押しの強さを差し引けばこの娘は真面目なタイプのようなので、たかったり言いふらしたりはしないだろうと考える。
「いくつか掘り出し物の骨董品と美術品がございまして、そちらの買取金額が大部分となっております」
「あ、ありがとうございました」
ヨルはまだ足元がふわふわした感じでエンポロスさんに礼を言い、王都に立ち寄った際は店に顔を出すと約束をして別れたのだった。
――――――――――――――――――――
「こちらが盗賊団討伐の報奨金となっております」
「…………」
傭兵ギルドのカウンターに立ち寄ったヨルの目の前に金貨千枚が積み上げられていた。
「四名、賞金付きで指名手配されていた者がいました。それとギルドからの討伐報奨金。それにギルドマスターより追加報酬が出されまして、この金額になっております」
「かっ、カードに登録しておいてください」
ヨルはプルプルした手付きで胸ポケットからギルドメンバー証を取り出しカウンターに置く。
「現物はお持ちにならなくていいですか?」
「……前の金貨がまだ半分以上残ってまして」
ギルド職員はカードに金貨千枚を登録してくれる。これで合計、金貨千百枚が登録されていることになる。
(あと手形が金貨三千七百枚……合計で金貨が五千枚近く……持ち歩きたくない!)
ヨルの中で、盗難防止もかねてアイテム袋的な魔道具の開発が最優先事項となった。
「お姉様は本当に凄いですね! 私なんて装備品を満足に買い揃えられるようになるまで二年ぐらいかかりました」
しみじみと昔を思い出すようなカリス。
「でも、あの時お姉様に助けられて本当に光栄でした! こうして高価な杖も頂きましたし!」
「まぁ、いろいろあったけど無事でよかったよ」
「これからお姉様はどこかに旅立たれるのですか?」
「まだ村を出て一つめの街だしね。少なくともこの大陸は色々と旅したいと思ってる」
「……あのっ、パーティーに入っているのでお姉様と一緒に行くことは出来ないのですが、お見かけした時は声をかけてもいいですか?」
「もちろん」
カリスは基本、パーティーメンバーから頼りにされており、とても真面目な人物なのである。ヨルが絡むと途端に暴走するだけなのだ。
(そのただ一点が辛いんだけど)
「まだしばらくは街にいるから、見かけたら声かけて」
「はっ、はいぃ〜ぜぇったいぎゅっーってしに行きますぅ〜うぇぇ〜」
今生の別れのように泣きじゃくるカリスの頭をポンポンと叩き、人目がないことを確認してリュックからサタナキアを出す。
『カリス、アネさんのお世話はあっしに任せとくんだな』
ヨルの手の上でぴょこっと立ち上がり、偉そうに言うサタナキア。
「ぷーちゃん……私が居ないときのお姉様の護衛、お任せします!」
また言い合いが始まると思ってたヨルだったが、何故か熱い友情を確かめ合うようなシーンになっていた。
「……仲良いね」
「そんなことないです」
『そんなことありやせん』
「……じゃ、私はとりあえず行くね。また見かけたら声かけて」
「ふぁ、はいぃ〜お元気でぇ〜!」
カリスは大粒の涙を流してぶんぶん手を振っているが、ヨルはまだまだしばらくこの街にいる予定だったし、泊まっている宿屋も教えてあるのでギルドからなら徒歩数十分で会える距離である。
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