第21話-種明かし

「ヨルさん! ご無事でしたか!」


 一行は傭兵ギルド前でばったり商人のエンポロスさんと御者をしていた男性に出くわした。昨日連行した盗賊と盗品の数々を手渡したのだが、時間も遅く当事者のヨルも居なかったため翌日改めてと言うことになっていたそうだ。


「えぇ、今朝早くに無事に戻ってきました。色々とその、突然のお願いを聞いてもらってありがとうございました」


 申し訳なさそうに言うヨルだが、エンポロスは昨日言っていたように全く迷惑だとは考えていなかった。


「いやいや、奴隷たちを連行した報酬を頂きましたし、馬車の通行量も全額免除していただけまして」


 かなりの人数の盗賊を捕縛し連行してきたため、門を守る衛兵の判断で街に貢献したとの判断で免除されたとのことだ。


「そう言ってもらって助かります。これからギルドに?』


「はい、盗賊の取り調べ状況や、盗品のリスト確認などで来て欲しいと言われておりまして」


「私も一緒に行きたいんですが、先に彼女の件を報告してからでいいですか?」


 ヨルがそう言いながら昨日あれから見つけて助けてきたと説明し、カリスを紹介する。


「私どもは後で構いませんので、時間ができましたら傭兵ギルドまでお越し下さい。お忙しそうでしたら明日でも時間を取りますので」


 そう言ってエンポロスさんは冒険者ギルドの向かいにある傭兵ギルドの建物へと消えて行った。それを見送ったヨルはカリスと共に冒険者ギルドへ向かう。



 ――――――――――――――――――――



(適当に説明して納得してくれるかな)


 カリスのことをどう説明しようか未だに悩んでいた。何しろ誘拐実行犯は死体ごと綺麗になくなってしまっている。それを喰った張本人はヨミのリュックから顔だけ出してぬいぐるみ状態なのだ。幸いなことにカリスが宿屋で寝ていたところを拐われ、犯人のことを見ていないことだ。

 そんなことを考えていると、個室に呼ばれカリスと二人は部屋の真ん中に置かれたソファーに座らされる。


「とりあえず説明は私に任せてもらってもいい?」


「はい、もちろんです!」


 ――コンコン


 扉がノックされ二人の男性が入室してきた。


「アドルフさん?」


 部屋に入ってきたうちの一人は筋肉隆々の傭兵ギルドマスターのアドルフさんだった。

 もうひとりはアドルフさんとは釣り合いの取れなさそうな細身の男性で、エイブラムさんというらしい。眼鏡をかけておりインテリのような雰囲気だが冒険ギルドのサブマスターで、カリスが新人の時に担当をしてくれた人らしい。


「あぁ、俺も何がどうなっているのか知りたくてな。同席させてもらう」


「何かありましたっけ?」


「行商人のエンポロス殿が三十人を超える盗賊を連行、大量の盗品を持ち帰ってきたのはヨルの指示だと聞いたが?」


「あー……そうですね」


 話す内容が増えて面倒だなと一瞬思ったが、まとめて話をできるなら、後々めんどくさくなくていいかと思い、ヨルは事の起こりから話し始める。もちろんかなり端折りつつ、脚色しつつ――。


「街でこのカリスが絡まれていたのを助けたのが始まりなの」


「あぁ、カリスが露店通りで絡まれているところを王子様に助けられたと言っていたが、君だったのか」


「王子さまっ!?」


 ギギギと油の足らない機械のような動きで隣に座っているカリスに目を向けるヨル。ヨルと目があったカリスは顔を真っ赤にして俯く。


(――お花畑……)


 もはや手に負えないと言う感じでヨルは話を続ける。




「この辺りで魔法使いの子が何人か行方不明になっていると言う話を聞いたんです」


「それで盗賊団を探しに行ったと? 依頼でも無いのに?」


「依頼書は確認しましたけれど見当たらなくて、一旦は下見程度で散歩でもしようかなと」


「散歩……だと?」


 お弁当を持って一人でぶらぶらと歩くのはヨル的には立派な散歩だったが、どうやらその表現はサブマスターにはお気に召さなかったようだ。


「エイブラムくん、彼女はおそらくうちの精鋭の誰よりも強い」


「先ほども伺いましたが――にわかには信じられません」


 眼鏡をくいっと上げつつ、胡散臭いものを見るような目でヨルのことを見やる。その視線を受け、ヨルはこのまま帰ろうかとも思ったが後々もっと面倒くさいことになりそうだったので、ぐっと我慢する。


「エイブラムさん! お姉様は誰よりもお強いです!」


 バァーンッ!と卓を叩きつけ力説するカリスの勢いにたじろぐサブマスターのエイブラムさん。


(こいつ今しれっと「わたしの」って言った)


「ヨルの強さは盗賊団スネークタイガーを一網打尽にした件からも分かるだろう」


(何その変な名前)


「確かに……イエローラビット盗賊団もいたとの事ですが……それでも一人でどうやって」


 二人の会話に、この世界のネーミングセンスは普通だと思っていたヨルは考えを改める。アドルフさんとエイブラムさんの反応からして、名前は致命的だが有名な盗賊だったのだなと考えるヨル。


「……気にはなるが、方法は詮索するわけにはいかんだろう。色々とマナーの問題もある」


 そういう他の冒険者の能力についての詮索は禁止されているわけではないが、マナーではあるらしい。ヨルは細かい詮索をされるのは好きではなかったが、説明が面倒になりそうだったので、一つ種明かしをしようと決めた。


「普段はっていうフォームですが、今回はコレです。あまり近寄りたくなかったので」


「……近づいて殴る?」


 別の所に引っかかるエイブラムさんだったが、サクッと無視をして話を続けるヨル。そしてリュックから余っていた鉄弾入りの皮袋を一つ取り出して見せた。


「これは、スリングショットの?」


「これを殴って撃ちました」


「「はっ?」」


(ハモった)




 どうやら"殴って撃った"という言葉だけだと理解しづらいと察したヨルは袋から一つ弾をとり出す。


「……壊れてもいい木盾とかありますか?」


 流石にそれなりに豪華な応接室のような部屋に置いてある調度品に、いきなり鉄弾をぶっ放すわけにもいかず、サブマスターに尋ねる。


「あぁ、ならあの壁にかけてある盾なら処分するつもりだからかまわないが……」


 目算で三メートル程度だろうか。石造りの壁に立派な盾が飾られている。カリスは隣で興味津々といった感じでヨルの手元を凝視している。

 ヨルは(魔法使い的に他人の遠距離攻撃とか興味あるのかしら)などと考えつつ、距離を測り弾を小さく山なりに放り上あげる。


「これをですね――こうするんですっ!」 


 ヨルの拳に循環された強化魔法により、高速で弾かれた鉄弾はパァーンという心地よい音を立て、一瞬のうちに盾を軽く通り抜け、壁に突き刺さった。



 というかめり込んだ。




 そこにはまるで銃で撃たれたような穴が開いていたのだった。


「……」


「…………まさか、ミスリルの盾に」


「いま……全然見えなかったが……どうやったんだ」


「普通に鉄弾を殴って放ちました。これを袋のままやると、だいたい倒せます」


「死ぬわ!」


「さすがに加減はします」


 連行した奴ら生きていたでしょう?と言うと、とりあえず方法については二人とも納得したようだった。


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