第20話-大団円?

 ミニマムサイズに変化した"ぷーちゃん"こと、悪魔サタナキアを見て興味深々という魔法使いの女の子カリス。色々とめんどくさいと思いつつも、ヨルは適当な言い訳が思いつかなかった。


「こ、こいつ私のペットなの……」


『――!!』


 苦し紛れに言い放ったセリフに、サタナキアは大粒の涙を流しながらパタパタと飛びながらヨルの周りをくるくると回り出した。


『うぉぉぉぉ!! あっしは一生アネさんに全てを捧げます! ペットです! 踏んでくだせぇ!』


「変態すぎる……」


「わっ、私もお姉様のペットです!」


「私はノーマルだから」


「いつか振り向いてもらいます!」


「――!?」




 その後も言い合いを続ける二人を一旦宥め、状況の整理をする。


「つまりカリスは突然寝ているところを拐われたと」


「はい……」


 ということは、カリスが泊まっている宿屋の人間もグルという可能性が出てくる。


「でも、無事でよかったわ」


「少し魔力枯渇の症状がありますが、あとは元気です!」





 それで?と今度はカリスに聞こえないようにこっそりサタナキアに話を振る。


「ぷーちゃんは、それ成功したの?」


『へぇ、力はほぼ押さえ込んでいるんですが、そのうち溢れるかも知れやせん。が、そこはなんとかしてみやす』


 とはいうものの、あれだけ身体から溢れ出ていた黒い魔力――魔神力を見事に押さえ込んでいた。高濃度の神力や魔神力は人間や生き物には毒になってしまう。だが、今のサタナキアはちょっと変わった形の獣にしか見えないぐらいになっていた。


(見た目で魔獣だと思われて刺されそうだけど)


「じゃあ、一度街まで戻ろうか」


「はいっ! お姉様!」


『へい! 承知していたしやした!』


「ぷーちゃんもついてくる気なんだね」


『当然でさぁ! アネさんを護るのがあっしの務めですから!』 


「お姉様をお護りするのは私の役目です!」


『いいや、こればかりは譲れん!』


「二人ともわかったからもう少し静かに喋るように」


『へい……』


「はい……」



――――――――――――――――――――



 洞窟から外に出るとすでに東の空が白み始めていた。少し肌寒い空気を感じながら、一人と一匹を連れ、街道を歩き街を目指すヨル。


雷槍サンダースピア!」


 一度だけ狼のような魔獣が出たが、カリスが魔法で沈めていた。


「ぷーちゃんは、その姿で戦ったりできるの?」


 ふと今更気になったことをサタナキアにこっそり尋ねるヨル。


『へい、大魔法は無理ですが補助系と牽制代わりのものなら問題ありやせん』


「さすが、そんな格好になっても悪魔なのね」


『お褒めに預かり光栄です! 殴ってくだせ――ぐぼっ』


 ヨルは言い終わる前にぬいぐるみを殴り飛ばすようにサタナキアの腹に拳を沈める。側から見るとかなり鬼畜だと思われそうだが、本人の希望だし問題ないと思い遠慮をしないヨル。


『ぜはぁ〜この身体だとアネさんの力を全身で感じられます! 幸せでさぁ!』


(この先、この変態の扱いどうしよう……)


 めんどくさい道連れに頭を悩ませるヨルだったが、考えるのが面倒になったのか、考えるのをやめた。


「カリスは戻ったらどうするの?」


「そうですね、まずは冒険者ギルドに連絡してからパーティーメンバーに会いに行こうかと」


 宿屋からいきなり行方知れずになっていたのだ、パーティメンバーもさぞ心配しているだろう。


――――――――――――――――――――



「お姉様!街が見えましたよー!」


「なんだか、一晩だけだったのに久しぶりな気がするわ」


 北門の衛兵に身分証を見せて街に入る受付をする。


「おっ、お姉様って傭兵ギルドメンバーだったのですか!凄いです!さすがです!」


 ヨルの出す身分証を目にしててカリスのテンションが高い。


「貴方はもしかしてカリスさん? ギルドから捜索依頼が出てましたよ!」


「あっ、はい!ご心配をおかけしました。よくわからない集団に拐われたのですが、この通り無事です!ヨルお姉様に助けて頂きました!」


「無事で何よりです!ではもしパーティメンバーの方を見かけましたら私の方からもお伝えしておきます」


「ところで、ヨル様……でしたね、そちらの、その、魔獣……ですか? それは一体?」


「あっ、こいつは――そのっ、使い魔です」


 ヨルの肩に座り、時たまパタパタと飛んでいるサタナキアには極力人前では喋らないように言いつけてある。


「従魔ですか。ではこちらの従魔のプレートをお渡ししますので、見えるように結んでおいていただけますか?」


 事前にカリスに聞いてそういう職業の冒険者がたまにいると聞いていたため、ヨルは不本意ながらも使い魔と言うことで押し通した。使い魔や獣を使役し戦わせるテイマーやサモナーは他の大陸ではたまに見かけることができるとのこと。


 衛兵に挨拶をし、北門を通り抜けて朝日を浴びる大通りを宿屋の方に向かって歩く。ヨルがカリスに泊まっている宿屋の情報を教え、改めて会う約束をして、その場は一旦解散となった。



――――――――――――――――――――


「ふぁ〜……よく寝た……ような?」


『アネさん、おはようございやす』


「おはよう。ぷーちゃん、私が寝ている間とか暇じゃない?」


 悪魔は基本的に睡眠が必要ない。契約主からの魔力や生命力の供給が続く限り活動ができる。


『へい、問題ありやせん!アネさんの枕元でご尊顔を拝見しつつ、敵が襲ってきても返り討ちにすべく見張りをしておりました!』


「今夜からは机の上でよろしく」


『!?』


 ヨルが宿で目を覚ましたのはお昼に近い時間だった。窓から差し込む陽気のせいでもう一眠りしたかったが、カリスとの約束と、昨日盗賊団の連行をお願いしていた商人のエンポロスさんのこともあったのでモソモソと準備を始めた。


「ぷーちゃん、着替えるから出て行って」


『えっ』


「……」


 ヨルは無言で拳を握りサタナキアに迫る。


『へい! 失礼しやす』


 素早い動きでドアに向かいパタパタと飛んでいくサタナキアは、そのまま器用に扉を開けて出て行った。


――――――――――――――――――――


「あら、ヨルさんおはようございます。何かお食事にされますか?」


「えっと、じゃあ軽い目のものをお願いします」


 食堂に降りてきたヨルを迎えてくれた女将さんは、既に朝食の時間も終わり、お昼の用意が忙しそうにも関わらず食事を作ってくれた。なおサタナキアはぬいぐるみのようにリュックから顔だけを出している。


「いただきます」


 パンとスープにサラダと言うシンプルなものだったが、昨日からなにも食べていないヨルにしてみればちょうど良いものだった。お昼の用意の邪魔にならないように、サッと食べ終わったヨルは傭兵ギルドに向かうため宿を出た。




「お姉様おはようございます!」


 宿の前で数時間前に別れたばかりのカリスに元気な声をかけられ、一瞬ビクッとするヨル。


「あれからギルドに顔を出したのですが、私のパーティメンバーが既に街から出発してたんです」


「置いていかれたってこと?」


「えっと、私の捜索を兼ねて商隊の護衛依頼を受けて隣町まで向かったみたいです。一応伝言はお願いしてあるので大丈夫だ思います!」


「そういうことね」


 結局彼女の捜索依頼は取り下げられたのだが、冒険者ギルドから当事者のヨルに話を聞きたいと言われ、こうして待っていたそうだ。


「たとえ用がなくてもお待ちしてました」


 頬に手を当て真っ赤な顔をしながらヨルに迫るカリス。一瞬カリスの腹目掛けて手が出そうになったが、彼女は被害者でしかも二度もヨルが助けてしまったため無碍にもできなかった。


「じゃ、じゃあ、とりあえず一緒に行こうか」


「はい! あ、ぷーちゃんもおはよう!」


 初めはぎゃあぎゃあと口喧嘩していた二人だが、街に戻ってくる頃は何やら理解しあったらしく、妙にフレンドリーになっていた。何かしら通じるものがあったらしい。


(捕食者と被捕食者なんだけどな……)


 ヨルは、その辺りの事情についてはサタナキアには言わないように言ってあるし、カリスも知ったところで益はないだろうと放置することにしてた。昼下がりの喧騒の中、二人と一匹は大通りをギルドに向かった。

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