第2話-旅に出てみようか
この世界の大陸を作ったとされている[大地神ヨルズ]が姿を見せなくなったのは二五○○年ほど昔だと歴史書には記されている。
今から二五〇〇年前[大断絶]と呼ばれる地殻変動が起き、その時より[大地神ヨルズ]が人々の前に現れることが無くなったとされている。四つに割れた中央大陸の残骸は人が住めるような環境ではなくなり、二五○○年たった今でもごく少数の民族が住んでいるだけである。
歴史学者達は、地中に溜まった魔力溜まりが暴走して大規模爆発を起こした結果、大陸崩壊へとつながる地殻変動が起きたと認識していた。
「これ多分、私が割った大地だ……」
ヨルがふと手にとった部屋にあった歴史書を広げながらポツリとこぼす。あの日、ヨルは兄により罠にはめられ、一時的にその兄を返り討ちにした。
その時にその場に居た勇者と魔王ごと、大陸を崩壊させた記憶があったのだ。
「その辺りで記憶が途切れてるから、そこで死んだんだろうな……」
大地神ヨルズの血肉を使い、最強の武器を作ると言っていたことも思い出してしまった。
ヨルの兄である[
相談があると兄に呼び出されたヨルはノコノコと出ていって、巨大な呪詛型魔法陣に捕縛されたのだった。
そこで初めて罠にはめられたことを知り、怒りのまま攻撃を放ったのだった。
巻き込まれた勇者の仲間たちは、その攻撃で哀れ天に召されてしまったようだが、その騒ぎに地上を侵略しようとしていた魔王が顕現。
それを勇者とセットでボコボコにし、魔法陣をぶっ壊して全員正座させて、そのまま一人ずつ鉄拳制裁をしたのだった。
しかし、もう一枚用意されていた呪詛型魔法陣により滅ぼされたのだった。
「……今のわたしはヨル。十七歳。ただのセリアンスロープで旅人志望」
神力などは欠片も残っておらず、ただのセリアンスロープとなったヨルには、関係のない過去だった。
「でも――……修行の旅って考えてたけれど、目的が一つできたと思えばいいかー」
ヨルは開いた歴史書をパタンと閉じて本棚に戻し、もう一度ベッドにゴロンと寝転んだ。
――――――――――――――――――――
ヨルはベッドの上でゴロゴロとしながら、思い出してしまったいろんな事と、これからのことを頭の中で纏めるように考える。
ヨルの今の種族[セリアンスロープ]は人間の技術特性と魔獣の魔法特性を併せ持っている。良い言い方をすれば万能系。悪い言い方をすれば器用貧乏な種族である。
しかしヨルの戦闘スタイルは単純明快であった。
即ち
補助魔術で自らを強化してインファイトに持ち込むガチガチの近接スタイルである。剣も魔法も昔から何度練習しても上達せず、子供心に出した結論が「殴ったほうが早い」だったのだ。桃色の可愛らしい髪色と、くりくりした目から想像されるほわっとしたイメージの真逆を突き進んでいた。
それでも少しでも強くなって、父親や村のみんなの役に立ちたいと考えていたヨルは一年ほど前から村を出て修行の度に出ようと準備を続けていたのだった。
ヨルが前世で、誰かの意思に従うように命を絶ったのは本当に呪いの影響なのだろう。何度も輪廻転生させ、不幸による魂の摩耗で私の魂を完全に消滅させようとしたに違いないと考える。
彼らにもその時の理由があったのだろうが、何も知らない自分を呪い殺したことに対する説明と詫びは聞かないとヨルとしては気が済まなかった。
あのときの勇者はもう生きてないだろう。
でも、神族の兄はまだ存在しているはずだとヨルは考える。
「昔はよく神族が人間に混じって生活していたんだけどな。今もいるのかな」
「今は神の力なんて使えないけれど、隣の家のおっちゃんに戦いは教えてもらってるし、魔獣を狩りながら修行の旅をすれば、私はまだまだ強くなれるはず……」
ヨルは自分の小さな手をランプにかざし、ギュッと握りしめる。
「修行の旅ついでに兄を探して、もし会えたら一発殴ろう。ボコろう」
突如"自分"の過去を思い出してしまったヨルは、本気で旅に出ることを心に決めたのだった。
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