第3話
「あ!中に出しちょった…どうしよう」
女は避妊器具をしていたので妊娠するわけがなかった。けど少年の狼狽える姿がどうしても愛おしくて、からかってしまいたい気持ちで
「そうだね、私が妊娠したら、お嫁さんにしてくれる?」
女は悪戯に困った顔をした。
「し、します!じゃなくて、させて下さい!…でもなくて…あの、あの、なって下さい!」
少年は真っ赤な顔で息が詰まったように正座をして叫んだ。あまりのピュアさに、女はからかったつもりだけなのに、思わず涙がこぼれ落ちた。
「なんで泣いてるんですか!やっぱ、嫌ですか…」
しょぼんという音が聞こえそうなくらい、少年は落ち込んだ顔をした。女はフフっと笑い、涙を拭いた。
「やーね、嬉しくてに決まってるでしょ?」
「え!本当ですか!…やったぁー!」
みるみる元気を取り戻し、はしゃぐ少年に、女は本当に、弟のようね…と見つめていた。
「あ、そうだ、もうこんな時間だけど家に帰らなくて大丈夫なの?」
「あー、へーきですよ。ウチ両親居なくて、15歳離れた兄貴と暮らしてるんです。でも兄貴も出張ばっかりで帰ってこないんですよ」
「へぇ〜、15歳って、凄いね」
「いや、ほんとクソですよ、アイツ。誰のおかげで暮らせてると思ってるんだ!とか言って立場無くて…俺だってアルバイトしんどいのに罵声ばっか浴びせられてさ」
「大変ね…え、て言うかアルバイトしてるの?部活入ってるのに?」
「あー、俺帰宅部なんですよ。でも野球が好きで、このバットは貯金して今日ようやく買えたんです…」
女は固まった。そのバットで…知らない女のために人を殺めてしまったのか…と。
「いや、俺はお姉さんを助けれた方が嬉しいです!無事でよかった!」
そう言い切る前に、女はまた少年に抱きついた。
「ねぇ、やっぱ、結婚しよ…」
貧乏神 @koyoyo-we
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