第2話

父親のお通夜の時、特に話したことのない父親の弟、つまり叔父に女は話しかけられた。「君、芸能は興味ないの?」

と。あれから水商売で成功するためにあたって、まずは自分の容姿をどうにかしようと思い女は整形を繰り返した。確かに、今の女は誰がみても絶世の美女だった。まだ18歳弱冠で、有名女優になれるんじゃないかと浅はかな考えで、男の話に乗った。話を聞くと、叔父はどうやら小さな芸能人事務所の幹部で、人材を集めていたそうだ。女は渡された事務所の書類をよく見もせずに契約し、早速オーディションを受けまくった。最初の半年は全く仕事が決まらず、エキストラの仕事ばっかりだった。ある日、なんとなく避けていたアダルトビデオのオーディションを受けた所、あっさりと主演を合格し、女はなんとも言えない気持ちで仕事に挑んだ。台本に書いてあるものを一生懸命読んで、覚えて、本番ですごく張り切って演技をした。ようやくできた作品は自分が見てもとても良い物で、給料も水商売の頃より条件が良かったので、女は何本もアダルトビデオにだけ出演した。ある日、女は仕事仲間と飲み潰れ、タクシーに乗って帰ろうとした時、財布が盗まれたことに気付いた女は焦って赤信号の停車中にタクシーを降りようとした。が、だいぶ酔いが回っていた女は人気の少ないところで転んでしまいタクシーの運転手に捕まえられてしまった。

「誰だと思ったら、AV女優さんじゃねぇか、名前なんだっけな」

と、男は女に覆いかぶさった。女は自分の運命が憎かった。こんなにも、神様は自分の味方をしないんだと…。目を瞑っていた女は、服を千切られ、もういっその事舌を噛みちぎって死んでやろうかと思い立ったその時、鈍い金属音が肉塊にぶつかる音がした。恐る恐る目を開けると、隣には頭から血を流し、白目を剥いて気絶した運転手が自分の上に仰向けになっていた。

「や…、やってしまった…」

と、震えた声のする方を向くと、野球バットを持った自分より3つか4つ年下そうな少年が立っていた。

「君、助けてくれたの…?」

女は問うた。少年は女の服のはだけた女の姿を出来る限り見ないようにして、うんと応えた。大丈夫ですか?と聞く前に少年は女に抱きつかれた。

「ありがとう!君が居なかったら、私…辛くて死のうと思ってた…」

と、ヒールだと少し背の低くなる少年を居もしない弟かのように愛でてた。その少年は女のタイプだった。


それから女は、私たちが裁かれる理由はないわ、正当防衛よ、となど適当にドラマで聞いたセリフを言い、運転手の死体を近くの空き家の庭の中に埋め込んだ。

「あぁ…!でも俺、人殺しちゃったんだ…どうしよう、俺…!」

狼狽える少年に、女は慰めるように抱きしめ、そっと触れるキスをした。少年はゆっくり目を開け、女を見つめた。女が愛おしそうに此方を見るので、少年はドキッとした。テレビで見た好きな女優さんがセクシーだった時と、同じ気持ちだ。先程の運転手とは違い、ゆっくり優しく押し倒した。居間の中で、2人は日付が変わるまで交わり続けた。

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