第11話

どうだい今度こそ満足したか? それともウンザリしちまったか? まあどっちでもいい、お陰でこっちゃ喉が痛ぇぜ。


 あん? これのどこが後悔する話かって? いやホラ、延々自慢話聞かされたって面白くも何ともねぇだろ。俺だったら途中で帰るか寝てるかしてるぜ。最後まで付き合えるお前さんの神経を疑うよ。


 ……あぁほら見ろ、バカ話してたせいでずいぶん時間に遅れちまった。こりゃ相当お仕置きされるぜ、ったくよぉ。


 んでどこに向かってるのかだって? 決まってんだろ家だよ家。新築で買ったっつーのに上の連中がこぞってハードワーク押し付けるせいでもう二年も帰れてねぇ。功労者にどんな罰ゲームだよマジで。


 俺はくたくたの身体を引きずり門の前にたどり着く。瀟洒な庭、窓から漏れ出るほのかな灯り。この先に処刑人パニッシャーが待っている。俺は庭を横切りドアの前でぼっ立ちしてさあどうすんべかと頭を捻ってたら我が家のドアが内側からドカンと開いてスカート履いたすんばらしー美脚がドアごと俺をなぎ倒す。俺はドングリコロコロ地べたをペロペロ味見しちゃう。ンで扉の方はギーコギーコ。この感じ懐かしいし嫌いじゃないけどお願いやめて僕んち風通しよくなっちゃうよう。


「遅い。帰還の報せから丸二時間も経っているぞ」

「……今日中には間に合ったろ? 大目に見てやってくれよ、ベイブ」


 俺は床ペロやめて立ち上がり、扉から出てきた美脚の主に歩み寄る。


 ほの灯りでも眩い金髪、透き通った青い瞳。逆光になっていてさえ、眩いばかりの美貌とスタイル。

 その肢体を慎ましげなニットとマキシスカートに包んでいるが、その下はえげつない感じのマイクロビキニな事を俺はよく知っている。


 つう訳で改めて紹介するぜ。婚約者のリリスだ。御年28歳、軍属を引退しても今も変わらず美しく、むしろますます綺麗になってて実によき──今はご機嫌斜めの真っ盛りだが、そんな冷たい態度も興奮するので大歓迎でございますだよ。


 いやもうさ、コイツと一緒になんのはホンッッッッットに苦労したんだぜ?

 グルグリ倒して傷を治して都に帰ってエラおじとキングに報告出向いたらいきなりベイブが『結婚する』って言いだして聞かねぇし帰り道で色々シたことある事ある事ゲロっちゃうから俺もキングも大慌てのブチ切れよ。

 んで尋問やら裁判やら何やら色々ごちゃごちゃめんどくせー事てんこ盛りをどうにかジミケンに切り抜けてみたらエラおじから「せめてもう少し出世しろ」とか言われて前線送りの憂き目にあうわレディー・ヨガやら魔王with四天王やら襲ってくるわでそいつら〆ろってキングどもがうるせーわ……。これ二年で終わらせたんだぞ? もうちょっと優しくされてもバチあたんなくねぇ?

 まあいい、どれもこれも終わったことだし今日ようやくキングも折れた。説得すんのにちぃっと時間はかかったがな。


 仕事に家、それにベイブ。後はここにファミリーが出来りゃマスターピースは完成だ。出来たら出来たでどうせまたひと悶着あるんだろうがそこはそれ、地味に堅実に時々イキって切り抜けりゃいい。


 俺はジミケンの果てに手に入れたフィアンセの身体を抱き寄せる。甘いのに爽やかな香り。いかにも食べごろって感じの感触。俺は彼女のとりわけ甘くて美味しそうな場所に──おっぱいじゃなくて唇な──にそっと口づける。


「……貴官は何かあるとすぐそれだ。そう何度も騙されてやるほど私もちょろくないぞ」

「つれねえなぁ。久しぶりに帰ったんだぜ? そろそろ『ご主人』って呼んでくれよ」

「嫌だ。時間を守れない奴など貴官で十分だろう」

「それはそれで出会った頃を思い出して甘酸っぱかったりするけどな?」

「……ばか。もういいから中へ入れ。料理が冷めてしまうぞ」


 はい若干のデレをいただきました。俺の嫁(仮)ちょろくてかわいい。俺はウキウキしながら久しぶりにリリスの背中と尻を追いかける。


 もう分ったか? これが魂まで燃える罰だ。俺はもうすぐ結婚し、墓場までコイツの愛で燃やされる。こんな罰は地上のどこにも見当たらねえよああ怖い怖い(棒)。


 おっ、ようやくウンザリしたな? 結構結構。だから後悔するっつったろ? んでもってもうマジで帰りやがれ。こっから先はお楽しみの時間なんだよ具体的には全身くまなくチュッチュしてされてあんな事言いな出来たらいいながカムトゥルーよ。そういやあのエロ軍服まだあったよな、今日はアレ着せてンホォらめぇと洒落込むか。なぁいいだろハニー?


「フフ、仕方のないご主人だな。今夜は寝かせてくれるなよ?」


 だってよ。

 そろそろおあともよろしいだろ? 帰る? 帰るかよしよしそれがよかろう。また逢う日が来るかは知らねーが、お前さんにも幸運が訪れる事を祈ってやるよ。クールに生きろよ、keep it realだ。you know what i'm saying?



 ◆



 ゲイリー・スクワット。辺境生まれのガラの悪い一兵卒は、王族となった後も祖国の危難を何度も単身で打ち払い、しゃがみ過ぎでエコノミー症候群を患うまで生涯無敗であり続けた。

 そんな彼に敗れたものが強さの秘訣を尋ねると、彼は笑ってこう答えたと言う。


 ──国に帰るがいい。お前にも家族ベイブがいるだろう。 

 ──え? いないの? ぼっちなの? サーセンww サーセンwww

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しゃがんだだけで世界最強 機動戦士ガンジス @MS_Ganges

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