第7話
「ンアーッ」
悲鳴なんだか喜んでんだかわっかんねー声が早朝の山奥にンアーッンアーッンアーッて何度も何度もリフレインする。俺はそれを聞きながら久々に突っ込みから解放されて『目覚めたな』『ああ……』ってネルフの偉い人ごっこしながら糸目作って遠い空眺めて元砦の今道場んの庭ン中を歩いてく。
その先っちょもといちょっと先では大佐殿プレゼンツ人類M性感計画の真っ最中──砦から庭から炊事場から宿舎からドシフン一丁の野郎どもがどやさどやさと現れては、蹴られて踏まれて寄せては返す波のように喜びと苦痛の中で散華していく。しかしどっからこんだけ沸いてくんだよ何で全員ふんどしだよ岸和田かよココは。そんなだんじり真っ盛りのトコに痴態丸出しのパツキンベイブがいきなり出てきてガッツンガッツン蹴たぐってくんだからそりゃフェスにもなるわな。娯楽なさそーだもんよココ。終いにゃドシフンどもは襲い掛かるのをやめて仲良くケツ並べて一列んなって大佐殿にキックオフされんのをブリブリしながら待っている。おいなんか趣旨変わってんぞそういうイベントじゃねーからコレ。でも大佐殿はお優しいからいちいち律儀に蹴ってスパァーンてやたらいい音鳴らしてまたンアーッ。ンアーッ。
やがてあらかた制圧っつうか性圧すると大佐殿は一仕事終えたっつう風情で額の汗をさわやかに拭う。柔軟剤のCMみてえな雰囲気だが足元見るとひっでぇぞホント。
「フフ、他愛のない。父上でももう10発は耐えて果てるぞ」
「親子そろって何してんだよ。似たもの好きもの同士かよ」
「まあ肩叩きのようなものだ。それに国王自らフリーダムだからこそ、我が国の気風は自由に満ち溢れているのだぞ」
そんな真実知りたくなかった尻だけに。がっくり来る俺を差し置き大佐殿は
「構わん。レディファーストと言う奴だ」
「知るかよ。露払いぐらいさせろっての」
俺は余裕たっぷり一戦かましてつやつやしてる大佐殿を押しのけ砦の扉をくぐっていく。右よし左よし真っすぐよし、罠も控えのM男もナシ。俺が合図すると大佐殿も中に入り、凛々しくやらしく肩を並べる。相変わらず盛りのついたサキュバスみてえな雰囲気で何考えてんだかわからねーが、疲れた様子は見受けられない。しかも大佐殿は俺の見立てじゃまだ魔法を使ってねぇ。それであの強さっつうなら近衛兵団最強もタダのホラって訳じゃなさそうだ。
だからって気ィ抜く訳にゃあいかないんだが、今ここで働いてもらわにゃ俺の苦労が水の泡だ。キチンと完勝頼みまっせとこんな時だけ神おじに祈る。そう言やアイツは娘の彼ぴっぴ殺れたのかねぇなんて考えてたらいつの間にやらどん詰まりだ。分厚い壁、どでかい鉄扉。
「フフ……どうやらここが本丸かな?」
「だろうな。今までとは空気がちげぇわ」
具体的には匂いと湿気と熱気とが扉の奥からムンムン漂いそこはかとなくオラついたオーラっつうか
「フフ。心配無用だ。むしろ私は絶好調、暖気も済んでコートの下もムレムレだ。貴官も少し触ってみるか?」
「いーよバカ、ホカホカしてろ。真面目にやんねぇと帰るぞ俺は」
「それはダメなのだ。貴官は最後まで見届けるのだ。じゃないと私は拗ねてやるのだ」
「分かった、わぁーったから汗拭いてお水飲んで身だしなみチェキしてちゃんとキリッとしつつエロっとする!」
俺は殺っとこハム太郎と化した大佐殿にタオルだし鏡出し水を出し、晴れ舞台を控えた大佐殿をかーちゃんよろしく世話を焼く。焼いてるそばから俺の脳裏に
だから俺は大佐の肩に両手を置いて正面を向かせて目線を合わせる。エロツヤしていた大佐はキョトンとしてから急にもじもじ。
「な、なんだいきなり。貴官の真顔は不敬だぞ」
「失礼なやっちゃな。気合入れてやるだけだよ」
チューすると思った? 残念ただの激励でした。
「Yo Say! 絶対グルグリに負けたりなんかしない!」
「しない!」
「万一負けてもくっ殺せって言わない!」
「言わない!」
「悔しい……!でも感じない!」
「感じない!」
「よし、ラストバトル頑張っといで!」
「フフ、了解!!」
激励したのがよかったのか、大佐はご機嫌マックスハートでノック代わりに前蹴り一発、クソ重たそうな鉄の扉がバチコンとド派手に開いてギーコギーコ。そうしないと部屋入れないのアンタって思うけどまいーやこういうのは景気が大事、筋肉ランド開園だよーわぁい^^って二人そろって乗り込んだ。
「こ……これは……!!」
◆
例えるならその場所は、男たちの聖域だった。
快適とは言えない温度、清浄とは言えない空気。しかし確かに聖域なのだ。
白く四角く何もなく、ただただ簡素なその空間には無数の男がひしめいている。老いも若きもみな筋骨隆々の逞しい者ばかり、荒ぶる戦士の面構え。飛び散る汗と返り血と、野太く荒い唸り声。まるで野獣の巣の中のごとき濃密すぎるオスの体臭。これらの要素一つ一つが密に絡まり、この場の空気を静かに熱く煮え立たせている。そしてその中心では、彼らにとっての聖なる儀式が行われていた。
即ち闘争──血と汗と涙を対価におのが肉体を鋼と変えて、より強く、より早く、より高みに上るため彼らは戦う。戦い続ける。俺と大佐がガツンとカチコミかましても、奴らはそいつに夢中だった。
部屋の中央では熊みてえな野郎どもが軋むマットの上ガチムチ持ちより「んぬぁッ」とか「ふぬっ」とか太く短く息を荒げて取っ組み合っては殴り合いの真っ最中──それもガシッボカッとかスイーツな感じじゃなくてゴチュッとかミヂィッとか生音ハンパねえのをノーガードで繰り出しあっては避けもしねえで身体で受け止め、鼻血出ようが歯がおれようがお構いなしでしばきあう。ンで太鼓がなったら一息入れて『ナイスガッツ!』『お前もな』みたいにムキムキ白い歯見せてまた太鼓がドーン。それを合図に相手を変えてリピート放送みたいに肉弾再開。バチコーンゴスゴスセイヤコイヤ死ねゴラァってな感じで肉肉弾弾肉弾弾。
はいこれガチ。ごくごく普通にガチンコですわ。俺ぁてっきりもっとこうふんどしどもが尻太鼓ドンドコ叩いて肉と肉がはじけて混ざってねるねるねるねみたいんなってると思ってたのにこんなクソ真面目に鍛錬されたら俺ら完璧浮くやんけ。外の連中は何だったのかと遺憾の意を表明したいがあて先不明で帰ってくるでしょ遺憾でしょ。あーあーもうこんなところにエロ痴女一人放り込んでも場違いすぎて申し訳なくなるだけだっつーのに大佐殿はお構いなしにモデルウォークでキビキビのしのし歩いてっちゃう。ノーフィアーすぎんだろ。
まず最初に気づいたのは太鼓係のふんどしだった。
「んな、何者だ貴様ぁッ! ユーは何しにきておるかぁっ!?」
気づいたそいつは大佐を見るなりきゃっと裸体を抱きしめて、シズカ・ミナモトみてえにもじもじテレテレ恥じらった。良かったちゃんと人の心あったわ。むしろ童貞丸出しだわ。他の奴らも大半が似たようなもんで、キメ顔作って一見平然と眺めちゃいるが微妙に川越シェフみたいな顔になってて分かりみを覚えちゃったりする。けど結局は『ちょっと男子、うちの大将を性的な目で見ないでよね』って委員長になっちゃうから不思議だね!
大佐は肉壁の前まで行くと童貞には凶器にしかなんねえパイオツの下で両手を組んで並み居る野郎を見上げてんのに見下すみたいなポーズで言った。
「お初にお目にかかる。私はファイトランド大王国第14王位継承者にして近衛兵団情報部大佐、リリス・チャイブス・クィックフォール・ド・ファイトランド。剛腕のグルグリエフ殿はどなたかな?」
「某だ」
いかめしく応じたのは、連中の中でもひときわいかつい偉丈夫だった。身長は2メートルを優に超え、体重はおそらく130㎏近くある。全身これ鋼の筋肉、無数の傷に濃い体毛。挙句にぶっといタイヤみてえなモヒカン頭とくりゃ知性/ZEROってのが相場だが、このおっさんは野生の中にどこかインテリじみた雰囲気がある。ポケモンで言うとぶじんタイプって奴だな。知らんけど。
「ほう、貴殿か。聞きしに勝る偉丈夫だな。お目にかかれて光栄だ」
「恐れ入る。して、王国の美姫がこのようなむさくるしい場所へいかなる御用か」
「フフ、道場やぶりと言う奴だ。貴殿と私で尋常に立ち会い、私が勝てばはこの砦の一切合切もらい受ける。貴殿の身柄含めてな」
「これは随分直截だな。して、某が勝った暁には?」
「陛下とかけあい、貴殿にこの砦を正式に進呈する。不足であれば領地も爵位もつけるが、如何?」
「大盤振る舞いであるな。約束を守れる保証は?」
「フフ、我が名と神と国の威信にかけて。父や大臣どもが何を言おうと私が尻を蹴飛ばすと誓おう」
「承知した。今すぐ支度にとりかかろう」
おーおーなんだか猛者同士の会話って感じだねぇ。話が早くて助かるわって鼻ホジしてたらすげえでっけえの取れて感動してるところに
太鼓係以下暑苦しいの二名から「ちょっと待ったぁッ!!」って間男みてーな怒号がかかる。うるせぇよ距離ちけえから聞こえてんだよ何いきなり張り切ってんだこの男祭りどもは。
「この地は元々、我ら国境警備隊の管轄! それをグルグリエフ殿が力づくで勝ち取ったもの! つまりこの地は彼の物、彼こそがこの地の王よ!」
「左様! 姫君とはいえ情報部ごときがしゃしゃり出る幕ではないわ! 王自らがこの地に出向き、伏して赦しを乞うがいい!!」
「それでもなお不服と言うなら!!」
「我らを倒していくがよい!!」
もーそやってモブ風情がおこンなって駄々こねるー。ぷりぷりすんのはケツだけにしろってんだ鼻くそ食わすぞクソたわけが。とか思ってたらこっち見たからごめんねごめんねってテレパスしながら鼻くそ自分にくらわしちゃう。ンまい!(テーレッテレー
「という訳だが、いかがなされる? 日を改め、手勢を増やしても構わんぞ。その若者だけでは足りなかろう」
「いや結構。敗れた相手に尻尾を振る駄犬どもなど、物の数ではないからな。一つ私が躾けてやろう」
大佐殿は余裕たっぷり冷笑かましてヘイカマーンてちょいちょい挑発。したらモブども顔真っ赤っすよ。やだ、アンタらの沸点低すぎ?
「うぬぬ! 姫様とはいえ何たる言いざま、武人に向かって失礼千万! 是非とも夜にお願いしたい!」
「むしろこちらが躾けてくれよう!」
「フフ、下種どもめ。自国の姫相手にこうも露骨に欲情するとは」
「黙りませい! 貴様こそそのチャラい連れはなんだ! そのペットと道中しっぽり楽しんだのであろう!?」
「その通り。彼はすごいぞ、朝から晩まで姫様姫様と私にひっつき、手料理で私を手なずけお野菜嫌いをきちんと直し、眠れぬ夜には思いもよらぬ美声で子守歌を歌い頭をよしよししてくれた。まるでダメなお姉ちゃんを案ずる弟のようにだ」
あっおいバカ、いらん事言うんじゃないよタゲがこっちにくるでしょが。俺が大佐にめってすると大佐はてへっ☆って頭コツンとする。いいから大佐殿そこを見て? 嫉妬に狂った童貞がいるよ?
「お、おのれイチャイチャと!!」
「濃厚なリア充の予感!! こっちは毎日オッスオッスなのに!」
「ええい許せん、当道場の夜のアクティビティにしてくれる!! 我らの汗を呑むがよい!」
「フフ、断る。代わりに私の腋汗を馳走しよう」
いやそれご褒美なんじゃねって思ったときには戦いはすでに始まっていた。
昔兵隊今マッチョは機を揃えて散開し、開いた両手を卑猥な感じにワキワキさせては虎視眈々とフリーハグのチャンスをうかがう。大佐殿はチラと一瞥、不敵な微笑を浮かべたままパイオツ強調ポーズをやめない。ここに魅惑の果実があるぞと誘いをかけてやがるのだ。
その様を見てモブ筋どもが固唾をのみのみじりじり迫る。徐々に間合いが詰まっていく。前から右から左から──おさわりまんがこっち来る!!
「チィエェストォォォーッ!!」
納得と王道のルート選択。まあ触るんならまず
残った二匹はどうかと言えば、仲間の事なぞ綺麗さっぱり忘れてひたすら乳、いや戦いに集中している。成程こいつらそれなりに猛者だ。戦士的にも性戦士的にも。二人は素早く陣形を変え、今度は前後から挟み込む。
後ろ、と言うか尻はやばいぞ大佐の属性的に考えて。高貴で強気でプライドが高いと来ればそりゃもう真名バレたサーヴァントみたいなもの、だったらそこを責めるに限る。おーい大佐、後ろ後ろー!
とか言ってたら二人が同時に突っ込んで行く。大佐はまたもや迎え撃とうと腰を落とすが今度はモブも頑張った。
「せいっ!!」
掛け声上げて筋肉ころりん転がって、モブ兵Bが大佐の蹴りをかいくぐる。モブ兵Cは好機を逃さずバックをゲッツ、おおっとどよめくエロ外野の皆さん。二人そろって獲ったどーヤったるでぇとハッスルタイムと思いきや、大佐のフォローは早かった。コートに手をかけ身をひねり、駒のようにぎゅばッと回る。たちまち解けるモブの拘束、宙を舞うハレンチコート。突如として逆巻く颶風とともに、高貴な肢体が宙を舞う。
「──
鞭打つような
それはそうと大佐殿ったら涼しい顔してまたポーズ。露わになった改造軍服、薄桃色に染まった肌が妖しく麗しく艶めかしい。ほんのり蕩けた女豹の目つきが蔑み色を浮かべていた。
「フフ、へなちょこナッツには私の蹴りはいささか強烈すぎたかな? 踏まれなかっただけありがたく思えよ」
(;゜д゜)ゴクリ…。エッチだビッチだと思っちゃいたがすまん、これは正直こ う ふ ん する。
モブ外野の皆さんもなんだか微妙に前かがみんなって、冷たい視線に打たれるままだ。
「さて、他に腕に覚えのあるものはいるか? まだ私は
ふむ、つまり最後はやはりマッパか。でもブーツとグローブは残して欲しいなと一同ひそかに願う中、一人の漢が進み出る……いや、この場合は引きずりだされたと言うべきか。剛腕のグルグリエフ。この地を統べる力の王。強くて太くてお堅いそいつは、大佐のジッパイにもこゆるぎもせず、ただただ低く重く呻いた。
「……私が行こう。他に相手は務まるまい」
「フフ、ようやくオーラスだな。精々もっと火照らせてくれよ」
「そちらこそ。某は同胞のようには誑かされぬぞ」
「だといいがな。剛腕のグルグリエフ、我が美技と肢体に酔いしれるがいい!!」
大佐が再び跳躍したのを合図に、決戦が始まった。
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