第6話

その後の道中もだいぶ難儀した。


 主要な街道を外れたっつうのもあるがなんせ連れの格好が格好だ。ちょいと一息入れるたんびに山賊から魔物から種付けおじまで次から次へとドスケベ誘蛾灯に引っ掛かりその都度美人局みてえな真似してお陰で懐ホクホクやったぜゲイリー。ってんなわけあるかすげぇ疲れた(疲れた)。

 んで姫様はっつうとトラブルなんぞどこ吹く風で川を見れば泳ぎたいと駄々をこね眠れないと言っては子守唄をせがみそして今は襲ってきた触手を勝手に焼いて食って腹壊して寝込んでやがる。おう誰だこのポンコツ大佐にしたの生産者出てこいってキングだよクソが(ksg)。


 俺はやり場のない苛立ちと姫様をまとめて担いで山に分け入り、ちょうどよさげな洞窟を見つけたんでそこでキャンプ張る事にした。姫さんおろして毛布あてがって火ィ起こして水汲んでってやったらもう夜だよああ疲れたもぅ無理まぢしんどぃ……。


「フフ、ごめんなさい」

さい・・が付いたってこたぁガチ反省か? 全くだよこん畜生。俺じゃなかったらこんなビッグウェーブ凌げてねぇぞ」

「だろうな。貴官は噂通り優秀だ」

「褒めても薬しか出ませんよっと。ホラ飲め、白湯も用意したから。それとも飲むのもお手伝いちまちゅか?」


 俺がバブバブ煽ってやると大佐殿はくるまってた毛布から手を伸ばして薬とコップを受け取った。むぅっとほおが膨らんでいる。猫舌なのか白湯をフーフーしながら頑張って苦い薬を飲み込む姿は大佐っつうよりおちびの姫で何でこんなのにほっこりさせられにゃならんのだ俺は。


「あまり私を馬鹿にするなよ。これでも近衛兵団最強なのだぞ」

「あーあーはいはい。分かったからちゃんと飲んで早く寝る。もうすぐ現場着くんだからよ、本番でもそんな調子じゃクッコロさんになるのがオチだぜ」

「……?? クッコロさんとはなんだ?」

「あー、まぁ、虜囚の辱めを受ける奴って意味だ」

「……構わん。武人同士が正々堂々戦い敗れたのなら、報いを受けるのは当然だろう」

「受けんなバカ。迷惑だよ」

「バカとはなんだバカとは。貴官は上官への敬意が足りんぞ」

「バカだからバカっつったの。お偉方はそうやって潔いーのがカッコイーとか思ってんのか? 戦争なんてのは勝ってなんぼ生き延びてなんぼ、家に帰るまでが戦争ですってキチンと下っ端に教えねえから捕虜んなって帰ってこねえし犬死も増える」

「フフ、耳の痛いお話だな」

「分かったら余計なフラグ経ててんじゃねぇ。アンタにゃ何が何でも無事でいてもらわにゃ困るんだからよ」

「父上が怒るから?」

「キングがブチ切れようが知ったこっちゃねぇよ。これは、あー、仕事はきちんとこなしてえってだけだ。そやって生きるって誓ってんだよ」


 何かチョイ語りすぎて恥ずかしくなった俺は焚火をちょいちょい弄る振りして視線を外す。微妙な間。大佐殿は何が楽しんだか、愛いものを見たっつー目でこっちを見やがる。やめなさいよそういうの。アンタもっとエッチキャラだろ?


「フフ……貴官はあれだな、口は悪いが誠実なのだな」

「そうでもねぇぞ? さっきだってパイオツガッツリ触ったしな。お陰で後で捗りそうだわ」

「フフ、ではもう一回触っておくか?」

「バカ、さっきのは役得だ役得。建前無しにいじくりまわしたら不敬だろうが」


 本音じゃマジかよラッキーって思ったけど今やったらぜってー捏ねたりつまんだり挟ましたりしそうで、そこまで行ったらじゃあ食うわって流れンなるしキングをお義父さんって呼んで陳謝してもうるせえよくもチン射したなってブチ切れられるハメになるよね何それヤダあたい怖い(怖い)。


 んでもう寝るぞっつって二人分寝袋出しておトイレあっちって指さして火ィ消して、マーラが去りそうな妄想百物語のプロット練ってる途中で寝ちまった。翌朝起きると姫様はすっかりこってり心を入れ替えキビキビ動ける大佐殿になっててすげえ行軍捗った。


 最  初  か  ら  や  れ。



 ◆



 そっから三日ばかし山ン中歩いてったらそこはもう国境沿いだよホンマ長かったで工藤。

 もうその辺の砂持って帰って校歌歌うかって気分だけど本番はこっから、前も言ったように家に帰るまでが戦争だ。俺は眼下に見下ろす朝もやけぶる峡谷のはざまに、素麺なみに細い街道と岩見てぇな元砦の威容を見つける。それを大佐殿に指し示すと手庇作って眺めて満足げに頷いた。


「ここまで世話をかけたな。貴官の働きに感謝する」

「まだはえーッつの。そんでどうすんだ、忍び込んで寝首かくか? それとも火でもつけて炙り出すか? 命令くれりゃなんだってするぞ俺は」

「いや、何もするな。正面から堂々と行く。コレは国の威信をかけた戦いなのだ、卑劣な真似は許されない」


 やめれーここに来て(キリッとしたまんまとかマジやめれー。フラグが聳え立って軌道エレベーターになっちゃうだろ。オマケに『貴官はここで待て』とか言い出したら乳揉むどころじゃ済まさねえぞって構えてたが流石にそこまで愚かちゃんじゃなかったらしくついて来いっつって傾斜をズザザって滑り降りてく。俺もその後を追って滑り降りると街道に躍り出て、先行く大佐の尻を追う。


「俺もついてっていいんだな?」

「当然だ。むしろ貴官には私が勝つところをいの一番に味わわせてやりたいからな」


 ヤダCCO様かよかっこいいけどこれはこれでフラグだよな? 俺は詳しいんだ。なんかもう見てるこっちのドキがムネムネしすぎて俺は気を紛らわせるためエアおっぱいをムニムニしちまう。俺が空気を下からそっと持ち上げる様に支えてると大佐殿は振り返り、困った奴だとでも言いたげに肩を竦めた。


「そんなに心配ならウォームアップに付き合ってくれ。貴官ロープはまだ持っているな?」

「あぁ? 持ってるけどなんに使うよ? 縄跳びでもすんのか?」

「いいから寄こせ。あとは自分でやる」


 大佐殿はロープを奪うといつだかのように3メートルほどでぶった切って先っちょを何度かしごいて輪っか作って首輪にした。

 ンでやっぱりご満悦。目を潤ませ頬を赤らめおもむろに四つん這いんなってコートん中からはみ出たプリケツふりふり進んでいく。


「フフ。やはりこうすると身体が火照るな……」


 よし、エロキャラに戻ってんな。アンタはそうやって部下困らすのがお似合いなんだよ頼むから殊勝な態度で最強軍人気取るのやめろ。勝ったらいっぱい褒めちゃるからよぅとか言ってたら砦の門が見えてきた。以前は淑女レディのよーにぴったり閉ざされていたはずのその門は誰でもウェルカムなビッチのよーにガバガバな塩梅で中からはセイヤソイヤバッチコイヤと野太い掛け声と汗のスメルが範囲攻撃みてえに響いてくる。早朝の山ン中だっつうのに暑苦しい。


 俺はお散歩スタイルの大佐殿連れて門脇に備えられた撥と銅鑼をジャーンジャーンと打ち鳴らす。したら奥から二人ばっかしふんどし姿のいかつい野郎が飛び出てきてげぇっ痴女! っておったまげる一部始終を分かり手になって見ていた。


「な、何だ貴様ら! こんな山奥までお散歩か!? うらやまいいご身分だなおい!」

「神聖な道場の前で何しておるか! ナニか!? ナニをするんだな!? おまわりさんこっちです!」

「フフ、残念ながら我々がソレだ。ファイトランド王国軍、近衛兵団情報部のリリス・チャイブス・クイックフォール」

「同じくゲイリー・スクワットだ。お前らにゃ用はねぇ。親玉出しなよ肉達磨ども。さもなきゃこのエロマシーンがランペイジしてお前ら全員こんな感じのペットになんぜ?」

「こ、断る! 貴様らのような不埒エッチを道場に入れるわけにはいかん! 我らの風紀が乱れる!!」

「そうだそうだ! 当道場はプレイルームではないのだぞ! 我らの聖地でのべつまくなしギシギシされてはたまらんわ!!」

「フフ、ならば無理やり押し通るまで。いやよいやよも好きのうちってな」

「く、くそう! グルグリエフ殿の貞操が危ない!」

「かくなる上は我らをまず穢すがよい!!」


 おーおー本音駄々洩れてんなって思った瞬間、大佐は疾風-KAZE-ンなっていた。獣じみた四つん這いからバネを利かせて飛び膝二発──達磨AのいかにもオラM男ですってツラにガツンとヒットし目玉と体がグルンと回ってぶっ飛んでく。大佐は飛び上がった勢いを殺さず宙で体を高速回転、プルシェンコでも無理だろっつうなんたらアクセル豪快に決めて着地の刹那に体重×筋力×遠心力=破壊力マシマシバックスピンキックで達磨Bのこめかみを打ち抜く。あまりの速さと威力にロープを握った俺までもが引きずられて度肝を抜かれる。何だよコイツマジで強ぇでやんの。しかも動きが洗練されてて無駄がねぇ。軍人たるものかくあるべしって制圧劇に、俺はここに来てようやくこの姫痴女大佐を上官として認識した。なのに大佐は性常運転続行中──またもやワンワンスタイルんなって俺を見上げる。


「どうだ、見てくれたかご主人」

「ご主人じゃねえしそういうのやめろよちょっと乗りたくなっちゃうから! さっさと立って首輪取る! おらとっとと中行くぞ!!」

「中に行く……フフ、エッチな響きだ」

「よし、いい具合にあったまってんな(頭が)! その調子で頑張って!!」


 俺が言うと大佐殿はワンと鳴き、首輪を外して道場の敷地へ突っ込んでいった。遠くの方から悲鳴が聞こえる。解き放たれた淫獣がナニかしでかしてやがるんだろう。俺はもう知らねえって思いながら頼もしくいやらしい上官殿の暴れる様を見に小走りで追いかけて行った。

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