第5話

っつーわけで俺は近衛兵団の情報部に所属(仮)する事になった。その初任務が改めて何をどう考えてもフランクマーティンとイーサンハントでチーム組まねえと無理じゃねって難易度なのだがまあそれはさておき姫大佐殿が一旦旅支度するってんでその日は別れてパグおじんとこ行って事の次第をねっとりみっちり報告した。


「やったなゲイリー大出世じゃないか(棒)」

「ふざけろオイラー。アンタがおくちカスタネットにしてウタったせいでタゲがこっちに来たんだろうがよ」

「知らんがな。儂もまさかお前みたいな悪ガキ本気で近衛に取り立てるなんて思っとりゃせんかったわい」


 パグおじバレラはしどろもどろンなって言い、でもまあとりあえず祝おうぜってんでパグおじの部屋っつうか所長室に上がり込んでやったら高そうなボトルを空けた。んだよ結構なご身分じゃねえか。俺はブルジョワおじと呑みかわしつつ気になっていたことを訪ねた。


「なぁ……マジな話あの姫さん強いのか? グルグリエフっつったらお隣の国で敵なしだろ? ワンチャン見込みあんのかよ?」

「優秀だとは聞いているが、詳しい事は知らん。なにせ秘密主義の情報部だからな」

「んーの割にゃどえらい恰好で練り歩いてたぜ? あれで何を秘密にすんだ? スリーサイズも隠せてねぇぞ」

「アレは敵の気を惹き、不意を衝くための武器なんだそうだ。あの美貌とあのカリスマで破廉恥してたら誰だってビビるだろ?」

「なるほど? 単なる痴女って訳じゃねんだな」

「いや、殿下の趣味とも聞いた。あの格好見て恥じらう将兵をいじって楽しむのが日課だそうだぞ」

「圧倒的圧政じゃねぇかあのビッチ!! どうして誰も訴えねえんだ!!」

「エロいからじゃないかなあ」

「それな」


 俺は真顔で圧倒的わかり手となってぐぬぬと唸る。瞼を閉じればあの高貴でふしだらで光の悪の女幹部姿が目に浮かんだ。気高くもどこか奔放で、無駄が無いのに肉感的。奴の存在感はしなやかな女豹のそれだ。少なくとも夜の戦闘力がクッソ高い事は認めざるを得ない。だがそれでもゴリマッチョとやれるかっつうと甚だ疑問だ。


「そんならお前さんが手合わせして試したらどうだ?」

「それも考えたよ。でもダメだ。あんな猥褻物しゃがんでローアングルで眺めてたら頭ン中フットーしちまう」


 それに俺が勝っちまったら姫さんの面目丸つぶれだ。大体あーいう気の強そうなベイブは中途半端に手加減したら絶対根に持つ。何ならすぐにリベンジだっつって毎日毎日夜討ち朝駆けしてくるタイプだしそうなったら俺もさすがに手加減なんかしてらんねえから昼夜問わずのあらゆるテクを駆使して心身ともに屈服させざるを得ないしむしろさせたいしアレの口から『HOTもっと!』って言わせるまでやめられない止まらない。くそう。キングんとこのお嬢さんじゃなきゃとっくにそうしてるところだぜ。


「だからまぁ、精々ちゃんと実力だせるように俺がフォローしてやんなきゃな」

「わっかりやすいデレじゃのう。何だかんだ言いつつかなり夢中になってるじゃないか」

「ああ? ちげーよバカ、俺の好みはもっとこう家庭的で俺一筋の甘え上手で破廉恥なのは夜だけの守護りがいのある奴なんだよ。あんなん身体だけだろうが」

「でもワンチャン掴んだらお前さんも王族だぞ? メチャクチャ昇進するし家族にも楽させられる」

「んな都合のいい話あるかよ。それに俺はジミケンでやりてーの。分を弁えて襟を正してつつましく生きてたいの! つつましくないのはベイブのおっぱいだけで十分なの!」

「いやいやお前、つつましいのはつつましいので楽しみ方は無限大なんだぞ? ことの大小で差別しちゃいかん」

「ほーぅ? ならどんなプレイがあるんだよパイセン?」


 俺もパグおじも薄々コレが別れの席っつうのを理解していてたもんだからガッツリ飲んでハメが外れてこの後メチャクチャねっとりした。



 ◆



 んで目が覚めたときゃ俺は半裸でおじも半裸で寝汗とアルコールの饐えた匂いで部屋中惨憺たるありさまだった。頭いてぇわ全身臭ぇわでマジで最悪な気分だわ。ちなみに半裸なのは女装プレイがアリかナシかで喧嘩ンなって相撲したからでうっかり仲良しした訳じゃねえからそこんとこ誤解されると俺は泣くって思った所で所長室の扉がバチコンって開いて姫騎士殿がデジャヴ溢れるコマンタレ・ヴごきげんいかが?


「おはようゲイリー。昨日はお楽しみだったかな?」

「ちげえよコレはそんなんじゃねえよ! っつかなんで部屋の鍵持ってんだ!?」

「フフ、情報部だからな。軍関係の合鍵はすべて私の手元にある」

「イリーガルすぎるわたわけ!! 早いとこおんも出なさいココお目汚し一杯あるんだから!!」

「ふむ? 例えば君のその弾込めされた野戦砲とかかな?」

「分かってんならジロジロ見るなし少しは恥じらえ! あとこれ詰まってるの尿! 尿だから! 勘違いしないでよね!」

「フフ。これで弱みを握れたかな?」


 あーもうコイツ今すぐ泣かせてえ。マジでやったらキングから断種斬首エボリューションされちゃうから我慢するけどよ。

 俺はパグおじのケツを蹴り飛ばして起こすと大佐殿に外で待てって伝えて速攻シャワーやら荷造りやらしてダッシュ。したら大佐の周りに五人ばかりなんかいた。


「一応聞くけどなんスかこいつら?」

「フフ。従者だ。コックにメイドに子守歌のばあやにあやとりの先生とペット兼愚痴聞き係のアロエリーナだ」

「ハウス! 全員ハウス! 極秘作戦つってただろ!?」

「これでも厳選したのだぞ。せめてアロエリーナだけでも」

「アロエリーナちゃん葉っぱでしょ!? これから行くとこ沢山あるから! ばあやさん早く引き取って!」


 俺は鉢植えをもぎ取り心配顔のばあやにおしつけ俺と姫様二人分の荷物もってじゃあまたっつって先に行く。そのすぐ後ろをニーハイブーツをコツコツ鳴らして手ぶらの姫様がついてくる。手ブラじゃない。安心。


「フフ。力持ちだな。それに意外と紳士的だ」

「そりゃどーも。それよりそのカッコ何とかしてくださいよ。それともお着替えもお手伝いした方がおよろしいんスか?」

「案ずるな。着替えぐらいは一人で出来るぞ」

「じゃあ今すぐ着替えてくださいよ! 往来でンなカッコしてたら襲ってくれって言ってるようなもんでしょ主に性的に!」

「その時は貴官が守護ってくれるのだろう?」

「守護るよ!? 守護りますとも守護ろう守護れば守護る時!! だからあんたも俺のゲシュタルト守護る努力をしてね!?」

「フフ、迅速に対処する」


 大佐殿は余裕たっぷりジッパーの中のおっぱい略してジッパイに手を伸ばして中から情報部のハーフコートを取り出した。それを颯爽と翻して袖を通して前襟合わせてベルトを締めるとどや顔作って胸を張る。


「どうだ、淑女になっただろう?」


 いやそれスケベ度あんま変わんねえよ。生足出てるし裾たりてなくてチラチラしてるし何ならそっちの方が職質受けるよ。危機には近寄らないのが護身だっつーのに寄せてどうすんだ。とか言ってたら早速周りがジロジロ見てきて落ち着かねえったらありゃしねぇ。こりゃ絡まれんのも時間の問題、街道でたらさっさとルート変えちまうかって考えてたら路地裏からガキンチョが飛び出しおもっくそ大佐殿にぶつかった。


「あっ、ごめんなさ……え、え!?」


 元気いっぱいのチワワって感じのガキはぶつかった相手のナリ見て瞬時に固まりテンパった。気持ちは分かるぜ少年。多感な時期にいきなりコイツはスパイシーってもんじゃねぇ。その辺分かってるんだかねーんだか、大佐殿は膝をかがめて峡谷むき出しキュートボーイに手を差し伸べる。


「フフ、さては君は迷子かな? どれ、お姉さんがいいところに連れてってあげよう」

「うぉぉぉいやめてさしあげろ! 少年の純情弄ぶな! ほら見ろちょっと前かがみじゃねえか! 手ぇ離せじゃないとたけのこがキノコになっちゃうだろ! 持て余したらどう処理すんだ!」

「フフ、いけない事をしている気分だ」

「してんだよ分かってんだろ背徳感を満喫すんなよ少年もさっさと消える! このねーちゃんに食われる前に!!」


 少年はコクコク頷いて離れるがまだ前かがみでボヤッとしている。こらあかん。確実になんかねじ曲がった。強く生きろよ少年、あと今夜はおねしょに気をつけろと祈りつつ先を急ぐ。


「無闇に人に絡むなっつの。そやってガキからかって楽しいのか?」

「ちょっとしたジョークだ。貴官がピリピリしているのでリラックスさせようとした」

「余計ピリピリするからやめろってんだ。頼むから真っすぐ迷わずフォロミしてくれ」

「フフ、了解した」


 ちくしょう自由すぎて目が離せねぇ。ちょっと道行きゃあっちをジロジロこっちでキョロキョロ、これならお供の連中連れてくんだったぜ。コイツさてはほとんど街に出た事ねぇのか? まあお姫さんだししゃーねーかなって思い直してある程度好きにさせてやろうと俺はウンウン唸った挙句荷物からロープを取り出した。んで3メートルぐらいで切って片側を大佐に差し出す。


「それを手首なり腰なりに巻いて縛ってください。このロープの範囲なら好きに動いて構わねぇから」

「フフ、分かった」


 姫さんは嬉しげに頷き縄を受け取りなんか淫靡な手つきでいじくりまわしてわっか作ってそれを手首でも腰でも足首でもなくテメェの首に巻きつけやがった。ンでご満悦。これアレだよ。エロ奴隷とのお散歩にしか見えねえよ。俺はもうすげえ疲れて何も言えねえ。


「フフ、ドキドキするな……」

「もうちっと別の感想ねえのかよ……」


 俺はもうどうでもよくなり姫大佐殿に好きにさせつつ、目的地まで最短でつくためとっとと馬屋に駆け込んだ。



 ……後日王都ではガラの悪ィ軍人が首輪つけた痴女連れて散歩してるっつう根も葉もあるうわさが広がったが、そいつはまた別の話だ。

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