第4話
手紙の内容を要約するとAwesomeでMarvelousでIncredibleでBririantなAgent、略してアミバな奴を捜してるっつー話だった。
世紀末でもねえのに天才募集たぁいかにもヤキが回ってる予感がするがまぁいい、パグおじの顔だけ立ててさっさとお暇するとしよう。
城についてお手紙見せたら入れっつうから案内役にカルガモみてえにくっついて行った。そしたらでけぇ扉があった。案内役はそそくさとどっかに消えちまう。呼吸を止めて一秒俺は真剣な目をしてからノックして
「ゲイリー・スクワット。出頭しました」
サクッと敬礼して視線を走らす。12畳ほどの狭くも広くもない石造りの部屋。調度品はすこぶる高級、床は全面カーペット。俺の入ってきたドアとは反対側もドアがある。窓辺のデスクに一人、将校服着たお偉いお方がお嫌そうに俺を見ていた。ヤレヤレここでも遺憾の意かよ。そんなに俺じゃいかんのか。やっぱりただの手違いじゃなイカ?
俺が早くもゲッソリしてると向こうもやっぱりゲッソリしてた。何だよこの部屋スルメかよ。じわじわくるぜ。
「まあ楽にしたまえ。君の事はバレラ氏から優秀だと聞いている」
「バレラ? それ誰ら?」
「教練所の所長だ。君は教官の名前も忘れるのかね?」
「あ、あー。バレラさん。パグおじの。いやいや忘れておりませんとも」
とか言いつつ俺は目ん玉をオタマジャクシみてえにスイミングさせた。んだよパグおじ、名前あんならちゃんと言えよ。
「話を戻そう。今から君にいくつか質問をするので簡潔に応えたまえ」
「はっ。おなしゃっす
「君はコーナー辺境領の出身だな?」
「はっ。小官はチンケなど田舎出身であります」
「君はあのあたりの地理に詳しい? 街道を使わず目的地にたどり着けるか?」
「はっ。ええまぁそれなりであります。必要とあらば山ン中サバイブしたり川ン中ダイブして出来るであります」
「なるほど。では最後の質問だ。君はそのガッツと技術で国を守護する気概はあるか?」
「はっ。小官は守護キャラであります閣下」
俺はアキネイターと化した偉いおじ、エラおじの質問にラリーみたいに小気味よく答えた。特に最後の質問にはキッパリと力強く愛ちゃんのサーブみたいに。大人になったらあむちゃんと結婚してぇと思ってたのに今じゃマスター・モトベになりたがってる。世の中分かんねえもんだ。
エラおじは俺の返答に満足すると、両手の指を汲んで司令官ぽいポーズを取って頷いた。
「よし、貴官を見込みありとする。今から話す内容は他言無用だ。いいな」
うわフラグだわ。俺はウンザリしつつ拝聴した。
話ってのは要するにこうだ。俺の故郷にほど近い場所、国境沿いのチンケな村に一人に男が現れた。
名はグルグリエフ。剛腕のグルグリエフ。身の丈2メートルの大男でその名の通り怪力の持ち主。熊だろうがヒドラだろうが素手でとっつ構えてぶん投げて殺しちまうっつうSTR極振りのヘラクレス見てえな奴だ。お隣に幼女がついてたらさぞお似合いだろうよ。
んでもって俺はそいつの事をなんとなくだが知っていた。多分、パイセンがたのうわさ話で。
「それって確か、あー、アイツっすよね? お隣の国の剣闘士の」
「そうだ。あのグルグリエフだ」
「それが何でウチのシマに?」
「詳しいことは分からん。亡命か、あるいは隣国の何らかの思惑ゆえか──とにかく奴は国境の砦を
んでそいつらを使って街道を占拠し、国境の砦はどでかい道場になっているのだとかなんとか。で街道通りたきゃ俺を倒せって無茶ぶりして、やって来た名のありそうなタフガイどもを鼻毛のように千切っては投げてスローライフしてるんだそうな。
そのあまりの強さに近隣の住民どもはすっかりブルっちまってたが、当のゴリラは別に暴れまわったり酒と女よこせっつう訳でもなく飯代の代わりに害獣投げたり山賊ども投げたりそいつらもまとめていっしょにトレーニング! したりと何かセーシュンしてるらしい。
「はぁん。まあ思ったよりいい奴っぽいスね」
「どこがだ。街道がふさがれれば隣国との通商も途絶え、我が国の財政は大打撃をこうむる。それをこのまま放置するなど我らの兵が軟弱だと世に喧伝しているようなものではないか」
なるほど、言われて見りゃ確かにそうだ。そんなハルクモドキが相手ってんなら仕方ねえんじゃねえのとも思うが、これで話は見えてきた。
「……つまり小官にゴリラを殺って村と砦を守護れと言う命令でありますか?」
「違う違う、そうじゃない。守護るのはわが国の維新であり尊厳だ。それを優秀とはいえ一兵卒の君に任せるわけにはいかん」
「んんー? じゃあどこのどなたがお殺りになるので?」
「それを今から紹介する。どうぞ、お入りください」
エラおじはそういって立ち上がり、新兵みたいにビッとした直立不動で気持ち斜め上を見上げた。
そっからなんか出てくんのかと思ったら俺が入った逆側のドアがバチコンって開いて横にした赤べこみてぇにギーコギーコ揺れて奥から人影が躍り込んできた。
「やっと出番か。待ちくたびれたぞ少将閣下」
そいつは尊大に歌うように言った。それが不思議なほどサマになっていた。その声は美しく、鈴の音を鳴らすってこういう事かと初めて思った。美しいのは声だけじゃなかった。そいつは見た目もまさに『美』そのものだった。女にしては高い身長、気品あふれる怜悧な美貌、眩いほどのプラチナブロンド。瞳の色は氷晶めいたアイスブルー。裏腹に体の方は何ともホットなボンキュッボン──それをやたらと布地の少ないハイレグ水着みてえな衣装に包み、太ももまであるロングブーツで覆っている。
何っていうか、偉いエロい。おいおいダメだろ真昼間っからンな格好しておんも歩いちゃ。いや一応ここ城ン中か? だからっつってこんなおタイトなドスケベ衣装で練り歩くか普通? と言うか誰? ユーは何しにこの部屋に? 目で尋ねると女は名乗った。
「リリス・チャイブス・クイックフォール。近衛兵団情報部所属、階級は大佐だ。貴官のうわさは聞いているぞ、ミスター・シット」
女はえらく親しげに俺のあだ名を口にし、けど握手なんかはしてやんないとばかりに両腕をその豊満なパイオツの下で組んだ。大きく開いたエロスーツのジッパーから北半球がこぼれかけてる。その姿勢のままじろじろこっちを眺める様は尊大だが堂に入っていて、ムカつくより先に跪きたくなるオーラがある。エラおじにもほぼタメ口のこの俺がだぜ? 幾らぱっと見最高のベイブだからって、初対面でいきなりこれってなぁ流石に驚く。その疑問にゃ斜め上を見上げたまんまのエラおじが答えた。
「当然だ。彼女は情報部の将校であると同時に陛下の27番目のご息女であられる」
おいおいマジかよプリンなのは乳だけじゃねえってか。つか陛下も大概頑張ってんな。どんだけ作れば気が済むんだよ。夜のスタミナもキングですってか?
「父上は早いぞ。お年の割に回数は多いがな」
「生々しいことリークすんなよ可哀そうでしょ!?」
「フフ、情報部らしいところをお見せしたまでだ。私の事はあくまで軍人として扱うように」
プリンプリンセス改めエロリークスの工作員長は恬然と笑い、その長くて美しい髪をかきあげた。なんてこった、底が読めない。主に頭の悪い意味で。しかし俺の都合なんぞ全く完璧に綺麗さっぱり置きざって、エラおじは朗々と命令を読み上げた。
「ゲイリー・スクワット。貴官にリリス大佐の護衛を任せる。万難を排してこれに励み、彼女をグルグリエフのもとへ送り届けろ」
俺は猛烈な頭痛に見舞われた。
いやいやちょいと待ってくれ、
「まあそう思うのも無理はない。貴官は私の強さを知らんからな」
「はぁん? 随分でけぇ口と乳だがどれほどおやりになるんですか?」
「フフ、ひみつだ。情報部から情報を引き出す腕前はまだまだのようだな」
……なんか俺こういうキャラ見た事あるわ。艦これでいたわこういうの。いきなり怖いかとか聞いてくるそのセンス自体がちょっと怖えけどKawaiiって思ったわ。俺はエラおじに近寄り、気になった事を耳打ちしてみる。
「……閣下、この人いくつっすか」
「御年26であらせられる」
年上かよ。王女様で26で独身って何か問題ありなんじゃねえの?(偏見)
「大佐は正義感に満ち溢れ、良く鍛えよく学んだわが国でも有数の戦士である。必ずや蛮族討伐をやり遂げてくれるだろう」
「いやいやいやいや100パーヤリ遂げて終わりっすよこんなん! アンタ自分とこのお姫様なんだと思ってんだよ」
「仕方なかろう。殿下……大佐が是非にと言ってきかんのだ。そろそろ武功の一つでもあげさせんと泣いて暴れて左遷させるぞっておどすんだもん」
「我がままかよ! んなもんキングにまずチクれよ!」
「陛下は大佐のご活躍を期待しておられる(棒)」
「それ絶対面倒なだけだよね!? パパ嫌われたくないだけだよね!?」
「フフ、ひみつだ」
「アンタ割り込んでくんのやめなさいよ男の子が秘密のお話してるでしょ!? エッチトークだったらどうするの!?」
「問題ない。私は情報部だからな。男の子のひみつも暴き立て吹聴し辱める権利がある」
「微妙に権力乱用するなよパパ頑張って名君してんだから邪魔したら可哀そうだろ!!」
「フフ、ごめんな」
「ムカつくなぁなんかもう!」
とうとう俺はヘドバンブンブン地団駄ふみふみエラおじの部屋を公共工事し始めた。いやもうね、守護りたいっつったけどコレきちぃ。だってこれ味方がすでに敵だもんよ。ザクで大気圏突っ込むようなもんだろうがよ。でもコレやんなきゃクビだろうがよ!!
道理でA.M.I.B.A欲しがるわけだよ難易度鬼だよ初期のファミコンでもこんなんねーよ。
俺はあだ名の通りにしゃがみ込んで頭を抱えて「うううっ」って唸った。切れ痔の時にクソするみてえに。そのうち自棄んなってシンゴヤナギサワみてえに裏声使ってウーウーいってエシディシ療法を試みた。エラおじはそいつを止めねぇ止められねぇ。そりゃそうだ、テメェが同じ条件突きつけられたらもっと盛大にハゲ散らかすに決まってんだから文句言われる筋合いはねぇ。
だからブレーキ外れた俺を止められんのは結局やっぱりコイツだけだ。リリス・チャイブス・クィックフォール。そいつはトチ狂った俺にカツカツ近寄りかがんで俺の手を取り握りしめ、プルンップルンの胸元あたりに引き寄せる。んでそのお綺麗な顔をそっと傾け、
「……ダメか?」
なんてしゅんとして言われちゃったら身体があちこち熱くなっちまうだろうがよ。
上等だ。やってやんよ。俺のあだ名はミスター・シット。地味で堅実、クールに勝つのが信条だ。どんなにクソな任務だろうが、ベイブ泣かすよりゃまだマシだってんだ。
媚びろ、媚びろ。俺は天才だ。
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