第14話
「お腹一杯です。」
梨園はお腹をさすっている。
社長の金銭感覚が庶民離れしてるのか、俺の金銭感覚がチープ過ぎるのか渡された封筒の中の食事代にビビった。
一人一万ってどうよ?
夕飯一食一万が普通なら、一ヶ月で三十万かかるぞ?
夕飯だけで俺の給料のほとんどがパタパタと財布から飛んでくぞ?
そりゃー、デートとか気合を入れた日は一万位は飛ぶよ?
でも、アルコール込みだよ。
相手は17歳だよ?未成年だよ。
結局、鰻屋さんに連れてったよ。
客単価が高いからね。
焼肉とかステーキの方が高いんだけど、和食って縛りがあったからね。
はっ?お前が喰いたかっただけだろって?
……そうだよ。
鰻って自分の金で食べようって中々思わないじゃん。
「社長が言ってたけど、梨園の買い物って何?」
「特に無いよ?
すぐに中国に帰るから、ホテルに何泊かするだけだし。」
「そっか、すぐ中国に帰るのか。」
「えっ?もしかして寂しい?」
梨園が俺の顔を覗き込んできた。
目の前に顔が……
おい、理性という鎖がブチッと切れるぞ。
「いや、寂しいも何も一緒にいるのは今日だけだしな。」
「ふーん、そうなんだ。
寂しいと思ってくれないんだ。
私は魅力的じゃないんだ……」
梨園は下を見ながらブツブツ言ってる。
ちっ、どの表情もカワイイな(笑)
「買い物が無いなら、ホテルに行く前に夜景でも見に行くか?
今日限定の恋人なんだろ?」
俺は梨園の頭を撫でて機嫌をとった。
「なんか、はぐらかされた気がする…」
「じゃ、ホテル直行で。」
「待ってよ、行かないって言ってないし!
行くし!エスコートしてくれるんでしょ?」
梨園は腕に絡みついてきた。
「さて、言ってはみたけどどこ行くか…
万世橋からの夜景が秋葉原らしいかな。」
梨園はニコニコしながらしがみついてる。
……夏じゃなくてよかった。
夏だったら、嬉しいより暑苦しいの方が勝ったな。
それより薄着だから当たるんだよね…
俺の理性を壊そうとするアレが…
ま、俺の半分位しかない歳の娘に理性が壊れるとも思いたくないが。
夜の秋葉原はビルのライトアップや看板のネオンできらびやかだ。
表参道や青山通りの様な感じは無いが、俺は好きだ。
梨園としばらくの間夜景を見た。
…正確に言うと、俺は梨園を見ている時間の方が長かったかもしれない(笑)
あと何年かしたら、俺なんかが近寄る事も出来ないような美人になるに違いない。
そんな気持ちで、梨園を見ていた。
…当の本人は、そんな俺の気持ちをアリンコ程も感じないんだろうなぁ。
だって、いまでもベタベタだし。
「そろそろホテルに向かうぞ。」
「えー、もうちょっと。」
「ホテルのラウンジで一緒にコーヒー飲んでやるから。」
「ぶー。」
「じゃ、これにホテルの名前が書いてあるから。
此処で失礼します。」
「……意地悪。」
梨園はほっぺたを膨らました。
俺は指でほっぺたを突っつくと歩き出した。
…ほっぺた柔らかかったな。
頑張れ、俺。
送りオオカミイベントにしては駄目だ。
メモに書かれているホテルは駅から近いビジネスホテルだった。
…なんか、イメージ違うな。
ラウンジなんて物は存在しないな。
仕方ない。
「一度、チェックインするぞ。
それとも、自分で出来るか?」
「中国語通じるかな…」
「外人の多い街だから、話せるかもしれないし最悪アプリを使うんじゃね?」
俺は最初に話しかけた時の状況を思い出し、遠い昔の様に思えた。
「代わりにチェックインして。
そのあと、一緒にコーヒー飲むんでしょ?
どうする?部屋で飲む?」
「アホか!部屋まで行くわけ無いだろ。
すぐ近くにドトールがあるからそこで飲むに決まってんだろ!」
俺はロビーで名前を伝えてチェックインした。
ついでに中国語が通じるか聞いたが、時間によるとの答えだった。
昼間のマネージャーなら少しは話せるという。
その人がいない時はタブレットでのやり取りになると言われた。
カギを受け取ると、梨園に昼間なら通じる人が居ると教えた。
精算とかは事務所のマネージャーか何かがやってくれんだろ。
「コーヒー飲みに行くか。」
「うん。」
梨園はエレベーターの方に向かった。
「ワザとか?」
「えへっ。」
梨園はクスクスと笑いながら、定位置に絡みついてきた。
「梨園は何にするんだ?」
「アイスカフェオレとローストビーフのサンド」
「まだ食うの?」
「食べないよ。
……明日の朝ごはん。」
「パンはパサパサになるし、中はグジュグジュで美味しくないだろ。
朝、コンビニにでも行けよ。」
「怖いからヤダ。
何言ってんだ?って目で見られるのヤダ。」
……あぁ、コンビニで体験したのね。
そりゃ、トラウマになるわな。
「梨園は早起きか?」
「目覚めはいいほうだけど?」
「じゃ、明日の朝ごはん付き合ってやるから今買うのはやめろ。」
「えっ?
明日も会えるの?」
「三十分だけな。」
「なんで?一日じゃ無いの?」
「俺は会社員なんだよ。
平日は仕事しに会社に行くんだよ。」
……コイツは分かってて言ってるな。
はぁー、ため息まじりに答えた。
アイスカフェオレを二つ持ってテラス席に座った。
時間も遅いから人通りも疎らだ。
土地柄、酔っ払いが少ないのは有り難いな。
酔っ払いは見境無く絡んでくるからな。
たまにチラチラ見てく奴もいるが、絡まれないから気にすることも無い。
俺は社長から受け取っていた封筒にインカムの領収書と食事の時の領収書と食事のお釣りを入れた。
インカムの箱が入っている袋に封筒と預かっていたスマホを入れて梨園に渡した。
「明日、社長さんに渡しておいて。
インカムはロビーで渡すよ。」
「明日も会えるなら、明日で良くない?」
「そういうのはキッチリした方がいい。
明日の朝、梨園が持ってくれば問題無い。」
「うん、分かった。」
「朝七時半にホテルの前で待ってる。」
「遅れないようにするね。」
ロビーまで送るとインカムを渡した。
言葉が通じなくなると、今までの出来事が夢であったかのように現実に引き戻される。
俺は手を振り、ホテルをあとにした。
電車に乗り、吊革を掴んでいる自分の姿が窓ガラスに写ってる。
俺、寂しそうな顔をしてるな。
あの楽しかった時間はやっぱり妄想だったんだ。
いや、妄想だったと思おう。
心に決めた次の瞬間。
『ガタン』
電車が揺れた。
隣に立っていた酔っている女の人がフラついて俺の足を踏んだ。
『痛ってー!妄想だと思いたかったけど、
痛覚あるから現実です(泣)』
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