第13話
「梨園、先ずはさっきの店に戻るぞ。
インカムを買い取らないとな。」
俺は手を出したが、やっぱり腕を組んできた。
だいぶ慣れたが、やはり視線が痛いな。
「…佐野さん、インカムなんですが。」
俺はワザと神妙な顔でボブに声をかけた。
「リクさんまさか、壊したんすか?
何してんすか?
腕なんか組んでるからじゃないんすか?」
ボブはしっかり乗ってきた。
隣で梨園が笑うのを堪えてるのがカワイイ。
「すげー言われ様だな。
せっかく売り上げに貢献してやろうと思ったのに。
しかも、最後のは関係なくね?
いいよ、これ返して他の店で買うよ。」
「えっ?えぇ?
壊したんじゃなくて、買ってくれるんすか?」
ボブの狼狽にとうとう梨園が吹き出した。
「じゃ、何で神妙な顔で佐野呼ばわりしたんすか?
俺はイジられキャラじゃ無いっすよ?」
「いや、俺の中ではイジられキャラ確定だから(笑)」
俺は改めて、買い取るよとボブに言った。
「箱入りの新品持ってきますよ。
何色がいいですか?」
ボブは今使ってるのは売り物にしないと言った。
「梨園は何色がいい?」
「えーと、リクのスマホと同じ色。」
「は?何で俺のスマホが出てくんだ?
使うのは俺じゃないぞ?」
「いいの。
リクのスマホの色がいいの。」
「ったく。
言い出したら聞かないと社長も嘆いていたからな……」
「ボブ、アイスシルバーに似た色は有るか?」
「リクさん、そのスマホはメタリックブルーじゃ無いんですか?」
「お前……パソコン屋だよな?
勉強不足じゃ無いのか?
このブランドのアイスって淡いブルーって意味だぞ?」
「初耳っす。
それにしても、リクさんはレアなブランド使ってますね。
流石はオタクっす。」
「……やっぱ、他の店で買うわ。」
俺はハァーとため息をついた。
「ちょっと待ってくださいよ。
いま、似た色の持ってきますから。」
ボブは急いでバックヤードに取りに行った。
「持ってきたっす。」
ボブは箱から出した状態で持ってきた。
「スマホとおんなじ色じゃね?」
俺が本体を受け取って呟くと、ボブは箱の一部を隠して持ってニヤニヤしてる。
「箱よこせよ。」
俺がボブから箱を奪い取るとスマホと同じメーカーだった。
「お前、知ってたな!」
「イジられキャラの反抗っす。」
ボブはケラケラ笑った。
梨園は二人のコントが楽しかったのか、終始笑顔だ。
『笑顔カワイ過ぎだろ……』
レジで二万円払うと、二千円返ってきた。
「さっき、二万って言ってなかったか?」
「リクさん割っす。」
「社長に二万って言っちまったよ。」
俺はボブに二千円を返した。
「じゃ、割引きの代わりにこれをつけるっす。」
ボブはブレスレットを二本よこした。
「なんでパソコン屋にブレスレットが有るんだよ?
しかも、何で二本?」
「それ、静電気除去機能がついてるっす。
お揃いで付ければいい思い出になるっしょ?」
ボブはニヤニヤしている。
「……領収書くれよ。」
鏡がないから分からないが、多分俺はニヤけてるな…。
梨園は『着けて着けて』と腕を出してせがんできた。
俺が梨園にブレスレットをつけている間にボブは中国語の設定をしていた。
「リクさん、今更なんですけど何で梨園さんが一緒に居るんすか?
事務所に送り届けてきたんじゃ無いんすか?」
「宿泊先のホテルまでボディーガードを頼まれたんだよ。」
「…リクさん、送りオオカミイベントっすか?」
「声をかけた時点でフラグは立っていたかもしれんが、送りオオカミイベントじゃないぞ。
そんな気は毛頭無い。」
「そこまではっきり言うと、後ろでシュンとしてる娘が可哀想っすよ?」
「は?」
俺は慌てて後ろを向いた。
梨園はシュンとして下を向いている。
「何だよ?
社長の言葉を聞いてなかったのか?
社長は俺と梨園は住む世界が違うから、ちゃんと線引きしろって釘を刺してたぞ?」
「そんな事言ってなかったよ。」
梨園は泣きそうな顔をしている。
「梨園はどうしたいんだよ?」
「私はリクと仲良くしたい。
ホテルまででいいから、恋人ごっこがしたい。」
梨園は突拍子もない事を言い出した。
『……はぁ、吊り橋効果か。』
「リクさん……イチャイチャは外でやってください。」
ボブは設定が終わったと、アイスシルバーのインカムを渡した。
「箱と保証書、あと領収書は袋に入れておきましたから。」
ボブは黒いインカムを受け取ると、閉店の準備があるんで失礼しますと店の奥に消えてった。
「ボブさん、怒ってる?」
「怒ってないよ、多分羨ましかったんだよ。」
「私の方が羨ましいよ?」
梨園はキョトンとした顔で俺を見た。
「腹減らないか?」
「お腹空いた!」
「何か食べに行くか。」
「うん、和食が食べたい!」
「よし、和食を食べに行こう。」
二人は食べ物屋を探す為に歩き出した。
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