第15話
ホテルの前で梨園が手を振ってる。
オフショルにミニスカート……かなり目立ってるな。
朝の七時過ぎにナンパする勤勉な奴が居なくてよかったよ。
「今日もカワイイな。」
俺はインカムを受け取る前に声をかけた。
だって、ハズいじゃん。
ほらね、梨園はなんて言ってるか分からないからただ微笑んでる。
梨園からインカムを受け取ると電源を入れた。
「おはよ」
俺は梨園の頭をクシャクシャといじりながら挨拶をする。
「リクおはよ。
インカムつける前、何て言ったの?」
「気にするな、大した事は言ってない。」
「気になるよ。」
「早く食べに行かないと俺は仕事に行っちまうぞ?」
「それはイヤ。
何を食べに行くの?」
「駅前にある立ち食い蕎麦屋だよ。」
「立ち食い蕎麦って、どんな蕎麦なの?」
「それは行ってのお楽しみだ。」
俺は梨園の手を繋いで駅に向かって歩き出した。
…よし、成功だ。
昨日寝る前に考えたんだよ、どうすれば腕を組まれないか。
いや、組むのが嫌なんじゃないぞ?
むしろ嬉しいが、理性がな。
一般人ならこんな事考えなかっただろうな。
梨園は手を繋いでるから、腕を組むことが出来ずジタバタしてる。
俺は繋いでいた手を離すと、ここぞとばかりに腕を組んできて私の勝ちとドヤ顔をした。
「着いたぞ、店の中で腕を組んでたら食べにくいだろ?」
俺は梨園に負けたわけじゃなく店に着いたから手を離したんだ(笑)
「入るぞ。」
むくれてる梨園の手を引いて中に入った。
「ここの蕎麦は自分で食べたい物を選んで乗せてもらうんだ。
立って食べるから立ち食い蕎麦なんだ。」
「ふーん、ねぇーリク?
これは何が入ってるの?」
「これは竹輪の天ぷらだ、中には何も入ってないぞ。」
「お肉の天ぷらもあるのね。」
「あぁ、とり天だ。
旨いぞ。
俺はとり天とかき揚げにするけど。
梨園は決まったか?」
「えっとねー、リクと同じのにする。」
券売機でチケットを買って店員さんに渡した。
店はまだ早い時間だから客は疎らだ。
おかげで白い目で見られなくて済んだ。
混んでる時にこのやり取りは迷惑でしか無い。
カウンターで待っていると、丼を置いた店員さんが話しかけてきた。
「兄さん達面白いな。
兄さんは日本語で、彼女は中国語を喋ってるよな?
何で話しが通じてるんだ?」
「耳に付けてるのが自動通訳機なんですよ。
勝手に通訳して伝えてくれるんです。
便利ですよ。」
「そりゃ便利だろうなぁ。
ここは駅前だから色んな外国のお客さんが来るんだけどよ、何言ってるか分かんねぇから注文取るのも大変なんだよ。
でも、一対一じゃ何個あっても足りねぇな。」
店員さんは豪快に笑った。
梨園はとり天が気に入ったみたいで、ムシャムシャ食べてる。
店員さんがカワイイ彼女にプレゼントだと、とり天を丼に入れてくれた。
梨園はキョトンとしているから、俺が説明した。
そのまま伝えたのは失敗だったが……
梨園は店員さんに笑顔で中国語でお礼を言っていた。
店員さんは中国語が分からないみたいだが、礼を言われてるのは雰囲気で分かるらしい。
『混む前に食べな』と伝えてくれと俺に言ってきた。
……店員さん、顔がだらしないですよ?
梨園の笑顔にヤラれましたね。
食べ終わると店から出る時に梨園は店員さんに手を振っていた。
…これを機に少しはトラウマが抜けるといいんだけど。
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