いってらっしゃい

校舎裏、二人だけの秘密の場所で、俺らは二人だけの話をした。


「夏樹。遅れてごめんね。」

「いや、いいんだけど‥‥どうかしたの?

その‥なんて言うか‥‥」

美空は泣いていた。

ポタポタと涙を零し、まっすぐに俺を見つめていた。

その目は、力強かった。

その目力に俺でさえ負けそうだった。

「夏樹。私、新潟に戻る。」

「えっ‥‥‥」

「また、お父さんの転勤で‥‥」

「そ‥‥そうなんだ。へぇ。」

俺の顔は暗かっただろう。真っ暗だったはず。

新潟に帰る。

美空は、怖かったと思う。

だから、あの時みたいに精一杯のがんばれを込めて


「お前は‥‥強くなったろ?」


美空が新潟でも頑張れるように。

俺が居なくても泣かないように‥‥


でも本当は、本音は、美空にとって、俺が必要の無い人間になるのが嫌だった。

だから‥‥


「困っても‥‥いいんだぞ…。俺に頼ればいいじゃ

ん‥‥?」


美空が笑って、俺は泣いて。

最高の最後の時間だった。

幸せ。これまでで一番‥‥


そして、最後に

「いってらっしゃい」

って‥‥

美空がいつか

「ただいま」

って言ってくれるように。

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