4話 チュートリアル

「どうやら草食動物が肉食動物に捕食されたら、別の動物に変わるっていうシステムらしいな」

 若澤の声がイヤホンからきこえてくる。

「そうみたいね」

「どこにもそんな説明は書いてなかったけど」

「やってるうちにわかってくるっしょ」

 道原はどんな状況でも受けて立つといった声だった。

「まぁ、たしかにそうだよな。最初からライオンとかトラになったら、そいつらが最後まで生き残るもんな」

「でもこれって、生き残りゲームなのかしら」

「言われてみると違うと思うけど、どうなのかな」

「だよね。ただ動物になってみて楽しむゲームだと思う。ていうか、そうであってほしい。いずれにしてもクロウサギとはね。スキル自体はかなり弱くなったね。毛色も目立つし」

「頼むぜ、師匠。俺はなんにもできねぇ。しゃべるくらいしか、な」

「しゃべりすぎて私の集中力を乱さないでね。あまり有利な状況とは言えないけどこの俊敏さで最後まで生き残るわよ」

 ようやく見つけた穴の中に隠れているからか、視界はだいぶ暗い。その時イヤホンからブーンブーンと警告音が鳴り今度は視界が赤くなった。

「な、なに? まさかハンターが来たの?」

 だとしたら袋のネズミだったが、いくら警戒して息を潜めて待っていてもハンターは現れなかった。

「もしかして…これはいわゆる空腹アラームなんじゃない?」

 道原が言うと即座に若澤の声が返ってくる。

「そうだ。そうにちがいない」

 このままじっと穴にこもっていたら最後まで生き残れるかもしれないが、それではゲームとしてつまらない。早くここから出ろってことだろう。そして一定時間経過するとたぶんゲームオーバーになる。

「クロウサギの主食というとやっぱり草花だろう 昆虫も食べるんだったっけ? …辺りを警戒しながら食べないといけないな」

 クロウサギの天敵といえば、猛禽とかキツネとかヘビだろう。

「空と地上の両方を注意しないといけないなんて! ウサギってタイヘン。佑介、あんた空の方を警戒頼むわよ」

「オッケー」

「じゃあ、いっせーので、出るわよ! いっせー、の」

「で!」

 クロウサギは穴から飛び出した。巨大な鳥が上空に旋回している。

「めっちゃやばい! 逃げろ! あれタカじゃん!」

 若澤が叫ぶと道原は鼻をピクピクさせた。

 チュートリアルを呼び出した。

 ハゲワシとは、簡単に言うと腐肉食動物スカベンジャーという腐肉専門の大型の鳥のようだ。

「なるほど…。でもさ、たとえ腐肉専門だろうが、空腹を感じたらこんなちっぽけなウサギを襲おうこともあるんじゃないか?」

「そういうこともありそう」

「だろ?」

 自然界では空腹になったら何が起きるかわからないだろう。生息圧や環境変化によって臨機応変にニッチを変え食料もかぶらないようにすることで進化してきた種もいるようだ。

「だから早く逃げよう」と言う若澤に対して道原は落ち着いている。

「それは自然界の話でしょ。これはゲームだからね。ちゃんとハゲワシのデフォルトは忠実に生態を再現されていると思うんだけど」

 ほら見て、と道原は言う。「さっきからぐるぐる回っているだけで降りてこない」

「じゃあ、クロウサちゃん、生死を賭けた冒険の旅に出よう」

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