2話 入場

 どうやら想像していたものと違ったらしいと若澤は思った。

図鑑動物園ビブルズーというから、各国から集めた希少種を飼育しているのかと思ったけど…」

「まさか自分たちがVRで動物になって楽しむテーマパークだとはね」道原は肩に鷹でも止まらせたかのように肩を持ち上げるオーバーアクションをした。「でもちょっと面白そうじゃん」

 受付でどの動物になりたいか問われた。

 なることのできる動物一覧が提示された。かなりの種類がある。道原の話ではほとんどが絶滅した種のようだ。

「ねぇねぇ、麻衣まい〜あたしこのホッキョクグマっていうのがいいんだけど〜カラダが大きくて一番強そうだしぃ〜大物感スゲェ」

「一番強そうというなら、トラでしょ。王者感がハンパねぇ」もう一人の女の子が答える。どうやら高校生同士の友達のようだ。どこかで見たことのある制服だ。若澤自身が通っていた高校だった。

「王者と大物どっちにする〜?」

「王者よ。ほら、見なさい、一木かずき。この縞模様、どっからどう見ても威圧的じゃん」

「じゃあ、そのトラにする〜?」

「いや、やっぱよそう。トラはちょっと強すぎてNGな気がする。格ゲーでパラメ最強キャラ使って強くても、ズルいっしょ」

「じゃあ、このライオンは?」

「模様がないだけで、トラとほぼ一緒じゃん。ダメだよ〜」

「タイリクオオカミは?」

「タイリクオオカミはいいね。バランスが良さそう」

「じゃあタイリクオオカミにしよう。決定」

 若澤たちと道原の番がきた。

「どうする?」若澤が聞いた。

「私は、モチ、ライオン」

「ライオンはズルいって彼女たちが言っていたぞ? いいのか? しかも、ライオンはライオンでもホラアナライオンってのもいるぞ?」

 図鑑チュートリアルにはこのように書かれてあった。

 『更新世のヨーロッパ大陸のあちこちにおり、たてがみはなかったと言われている。しかしその後、ホラアナを住処としていたことから、現生人類やネアンデルタール人と住居や獲物をめぐって競争関係にあり、競争圧力に負けて絶滅したとのこと。その後は亜種のライオンが生き残ったが、それもちょうど情報革命後の地球の第一次気候変動による生息域の縮小や密猟者の介入によって亜種のライオンもまた絶滅したらしい』

「私はライオンにする。ライオンになってみたい。かつて百獣の王と呼ばれていたって書いてあるわ」

「お姉ちゃん、動物に詳しいね」後ろから少年が話しかけてきた。

「一応、大学生ですから」道原は胸をドンと叩いた。

「ぼく長田理ながたおさむっていうんですけど、そろそろ前へ進んでくれませんか?」

「ああ、ゴメンね」

「いえ」

「君はどんな動物にするの?」

「ぼくはシマウマですね」

「え! マジ! 小学生なのに地味なところ持ってくるね〜マジ、サイコーていうか、私ライオンになるつもりだから、食っちゃうぞ〜」

 道原は、少年の頭をバレーボールみたいに掴むと「ガオー」と大きく口を開けるアクションをした。

「そういうのやめて下さい」

 ガチでイヤがられたので、道原は両手を合わせて謝った。

「ゴメンね」

 長田理は結局、迷った末、同じ縞模様でもトラの方がカッコイイとのことでトラを選んでいた。

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