第一章 十年くらいは元気で過ごす

 子猫の時にうちへとやってきたタロは、注射器にゴム管を取り付けた哺乳瓶で母が授乳してスクスクと育ち、体格も立派で大柄な成猫へと成長しました。

 ちょっと太り気味とはいえ、体重が六キロ以上あり、頭や脚など、体全体が平均よりも大きな牡の三毛猫でした。

 顔立ちはなかなかハンサムだと、親バカで感じておりました。

 成猫になったら猫らしくクールになり、自分が撫でられたいとき以外は、呼んでも耳だけ向けるような、そんな性格。

 子猫の頃は、タンスの上に乗ったら自慢げに鳴いたり、折った紙をヒラヒラ落とすと頑張って捕まえようとしたり、胡坐の足に乗せてあげると気持ちよさそうに眠ったりと、遊び好きだったのに。

 うちに来て三年ほどたった時に、同じ母猫から生まれたらしい弟猫、コタローがきました。

 今まで自分の天下だった家に、見知らぬ新猫がやってきた事を、タロなりにどう受け止めていたのか。

 コタローは人懐っこい性格で、人に甘えるのも上手な猫です。

 コタローが甘えると、家族は撫でたりしていたので、タロも見習って、甘えるようになった気がします。

 と言うか、むしろコタローが来たことで、タロは「どうやら自分は猫らしい」と気付いた感じさえしました。

 まあ、目が見えるよりも前に我が家へと来たので、猫そのものを認識してなかった可能性もあると思ってます。

 とにかく、コタローが来た事もあり、大人になってもクールなまま、撫でて欲しいときは甘えに来る、そういう猫になりました。

 遊んでほしいコタローが近寄ると、タロは怒りながらも、自分が場所を譲るという、なかなか優しい性格でもありました。

 数年間は、タロの方があまり一緒にいたがらなかったのですが、老猫になるに従い、コタローと一緒にいる事を拒まなくなりました。

 最初の頃は、コタローが近づくと逃げていたりしたのですが、晩年は同じソファの上で寝たり、父のベッドの上で離れて寝たりと、それなりに仲良くなっていったようです。

 いわゆる家でも、三回ほど成功してました。

 外にお気に入りの白い牝猫がいて、よく家の中から、外の白猫と見つめ合っていました。

 二度目までの脱走は近所だったので、心配した家族みんなで探して、見つけて連れ帰りました。

 三回目の脱走では行方不明となり、母も「帰ってこなかったら諦めなきゃ」と、気が気でない様子でした。

 三日ほどして帰ってきたのですが、かなり汚くなっていて、更にご飯も水も摂れなかったのか、帰ってくるなり餌のお皿に直行して、食べて飲んでで満足げ。

 母がお風呂で洗って、家中を走って迷惑をかけて。

 その家出で、食べられない飲めないを経験したからか、それ以降は玄関から外を見る事はあっても、家出はしなくなりました。

 タロに関する唯一の失敗は、去勢手術が遅れた事です。

 いつ手術しようかと考えていて、去勢そのものがなんだか可哀そうな感じだ。などと、なぜかタロに限って家族で話していたら、私の靴にマーキングをされてしまいました。

 去勢手術をするとマーキングをしないと聞いていたのですが、それはマーキングをする前に手術をした場合のようで、タロの場合は後の祭り。

 手術をしても、すでにマーキングを体験した後では体が覚えているようで、後々、家の中のあちこちでマーキングをするタロには、ずいぶんと悩まされました。

 長い思い出話になりましたが、そんなタロが糖尿病になったというお話です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る