第3話 連戦

第3章  「連戦」



夜中から、外は雨のようだった。


シャワーを浴びベッドに入ったミクオだったが、今の状況やこれからの事を考えると、なかなか寝付けないでいた。



だが、眠れない一番の原因は、ずっとひとりソファに座り酒を飲んでいる美咲の存在だった。



明け方、ようやくウトウトとしかけた時、部屋の中で人が動く気配でミクオはまた目を覚ました。


目を開けると、美咲がこちらに背を向け、テーブルの空き瓶等を片付けているのが見えた。


ミクオがおぼろげな意識で眺めていると、片づけを終えた美咲がおもむろにバスローブを脱いだ。


バスローブの下には美咲は何も身につけていない。


いけないとは思いながらも、ミクオは目が離せなかった。


美咲の後姿は、背中から足元まで本当に綺麗だった。


突如、美咲が身体の向きを変え、ミクオが起きていることに気づく。



美咲「あら、おはよう」



ミクオ「わ、隠せよ!」



見たいのは山々だが、ここはそう言うしか無い。



美咲「あら、遠慮しなくていいのに♡」



そして、見えないように顔を背けているミクオに向かい、



美咲「ミクオも起きて。顔洗ってきて」



ミクオ「?」



美咲「雨やんだみたい。行くわよ」



ミクオ「あ・・・わかった」



ミクオは言われた通りベッドから身を起こし、洗面所に向かった。


ミクオが戻ると、すっかり身支度を終えた美咲が近寄ってくる。



美咲「顔洗った?」



ミクオ「? ・・・うん」



美咲「そ」



そう言うと、美咲が目を閉じ、顔を近づけてくる。



ミクオ「へ?」



美咲「へ?じゃないわよ(笑  朝ごはん♡」



ミクオ「??? あ、補給か・・・」



ドキドキしながらも、ミクオは美咲に軽く唇を合わせた。


その途端、強引に美咲が舌を絡ませて来る。



ミクオ「っ・・・」



気のせいか、ミクオは少し脱力感を覚えた。


唇が離れる。



美咲「ごちそうさま♡ さ、着替えて!行きましょ」



ホテルのロビーに降りると、美咲が案内パネルを見て騒ぐ。



美咲「あら、ねぇねぇ、803合室のほうが良かったかも。今夜はそっちにしようか」



ミクオ「どこでもいいよ(笑」



早く外の空気を吸いたかったミクオは、美咲を置いて入り口に向かうと、自動ドアを開けホテルの外に出た。



美咲「あっ、ダメっ!ミクオっ!」



美咲が慌てて制止する。


その声を遮るかのように、一発の銃声が響いた。



やがて、道玄坂の路地が再び静寂に包まれる。



雨に濡れた地面のせいで背中が冷たい。


それが余計に胸の辺りの熱を感じさせる。


その暖かく赤い液体はどんどん溢れ、地面に残る雨と混じりあって行く。



ミクオ「・・・えっ・・・」



ようやく状況を把握できたミクオが、自分の上に覆いかぶさっている者の肩に手をかける。



ミクオ「美咲っ!おい、美咲っ、しっかりしろ」



力なく顔を上げた美咲は、



美咲「ミクオ・・・良かった・・・怪我は無い?」



ミクオ「俺は大丈夫、美咲・・・お前、俺を庇って・・・」



美咲の胸は真っ赤に染まっていた。


銃弾は美咲の右胸を貫通していたようだ。


どうやら胸ポケットに入れていた携帯電話のおかげで、ミクオは幸いにも怪我をせずに済んだようだが、美咲が庇って無ければ、携帯ごと撃ち抜かれていたかも知れない。



その様子を、少し離れた坂の上から二人の男が伺っていた。



雪代「ちっ、しぶといっすね・・・マスターを狙ったのにサーヴァントを倒せて、ラッキー!って思ったのに」



そう言って悔しがっているのは、パーカー姿の若い男だった。



その隣には古風な銃を携えた男が立っている。



男「・・・あれで死なないとはな」



見事胸元を撃ちぬいたとゆうのに消滅しない相手に対し、驚きと称賛の声を発していた。




雪代「トモさん、何してんすか、トドメを!」



トモ「・・・だな」



トモと呼ばれた男が再び銃を構える。



その殺気に美咲も気づく。



美咲「くっ・・・アーチャー・・・」



美咲はよろよろと、それでもミクオを庇うように立ち上がった。



トモ「マスターごときと、手加減したのが失敗だったか。仕方ない・・・」



辺りの空気が変わってゆく。



遠くに落ちた稲光が、トモの顔を照らす。



トモ「真名解放・・・」



稲光が消えると、トモの衣服は、戦国風の陣羽織と鉢金、とゆう出で立ちに変わっていた。



トモ「・・・紀州雑賀衆が頭目・・・鈴木孫市、推参」



(孫市・・・? 雑賀孫市かよ・・)



先程よりもさらに大きく見える鉄砲を構え、美咲に狙いを定めている者の名乗りを聞き、ミクオは狼狽した。


対する美咲は、いつの間にか取り出した薙刀を構えてはいるが、肩で息をしながら立っているのがやっとの様子だ。



ミクオ「美咲・・・」



美咲「・・・大丈夫よミクオ、弓矢でなく鉄砲使いなのがキツイけど、一発かわせば・・・」



そう言うと美咲は、力なくミクオに微笑んで見せた。



狙いを定めたまま、孫市が尋ねる。



孫市「ライダーとバーサーカーは死んだ。セイバーでも無さそうだな・・・お主・・・ランサーか?」



美咲「・・・そうね。今回はそんな感じ」



孫市「ち、厄介な・・」



ランサー、それはトップクラスの白兵戦能力と、最高の俊敏性を持つと言われるクラス。



対する孫市のクラスはアーチャー。弓で名を馳せた英霊が多いクラスだが、稀に今回の孫市のように、銃火器での逸話を持つ者が出現する場合もあった。



そしておそらく知名度において雑賀孫市は、日本における鉄砲使いの英霊としては最高位と言えるだろう。


だが、孫市の武器は火縄銃であり連射ができない。


撃ちそびれ、詰め寄られる事を恐れてか、孫市は軽はずみに撃とうとはしない。


張り詰めた空気が場を支配する。



(何か・・俺に出来る事は無いのか・・)



自分の為に傷を負い足元もおぼつかない状態で、なお強敵と不利な条件で闘おうとしている美咲。



なんとか自分も役立てる事は無いのか?そう思うとミクオは頭がおかしくなりそうだった。


ミクオはふと、ベルトに刺してある短刀に気づく。


孫市のマスターである男は、美咲と孫市の中間あたり、ミクオから20メートル程の位置に立ち、闘いの様子を見守っている。



(俺があいつを倒せば・・・)



が、短刀に手を掛けてみたものの、その後の行動が取れない。


動けば孫市は自分を撃つだろう。おそらく即死だ。美咲がまた庇おうと無茶をするかも知れない。


何度目かの稲光が辺りを照らす。どうやら落雷の位置はこちらに近づいているようだ。


両者睨み合ったままかなりの時間が経つ。


どうする事もできず、叫びだしそうになる自分を必死に抑えていた時、ミクオの左手に水滴が落ちた。



(・・・雨?)



やがてそれらの水滴は、大きさ、そして数を増していった。



孫市「ちっ・・・」



雪代「トモさん?」



孫市「火縄が濡れた・・・退るぞ!」



雪代「あ・・・、くそっ、もう少しだったのに!」



じりじりと後退していく敵の姿が見えなくなった頃、美咲は地面に膝をついた。



ミクオ「美咲っ!」



駆け寄ったミクオが美咲の身体を支えた。



美咲「雨に助けられた・・・ついてたね・・・ラッキ?・・・」



ミクオ「美咲っ」



美咲「ごめんミクオ、限界かも、休ませて・・・」



ミクオ「わかった・・・」



抱き抱えた美咲を、ミクオはホテルに運び込んだ。



部屋に入り、ミクオは美咲をベッドに寝かせる。



躊躇われはしたが、今はそんな事に構ってられない、とミクオは、赤く染まってしまっている美咲の衣服を脱がせた。



ミクオ「美咲、痛かったら言って」



ミクオは慎重に、濡らしたタオルで美咲の胸にできた傷の辺りを拭っていく。


固まっていた血を拭うと、驚くことに傷はまだ浅く残っているものの、弾丸でできた穴自体は既に塞がっており、出血も止まっている。



ミクオ「美咲・・・ごめんな、俺のせいで・・・」



美咲「ん、なーに? マスターを守るのは当然よ、気にしない」



ミクオ「やっぱり、痛かったよな・・・」



美咲「そうね、笑えるくらい痛かったかも(笑」



ミクオ「だよな・・・」



身体を拭く手を止めたミクオが黙ってうなだれる。



美咲「ミクオ・・・?」



ミクオ「美咲・・・」



美咲「ん?」



ミクオ「・・・棄権しよう」



美咲「え?」



ミクオ「俺もうやだよ・・・目の前で美咲があんな目に合うの・・・」



美咲「ミクオ・・・」



困ったように、でも少し嬉しそうに、美咲はミクオの頬を撫でた。



美咲「今やめちゃったら・・・願い叶わないわよ」



ミクオ「いいさ、俺の願いなんてたいした事ない・・・」



美咲「そっかなぁ」



ミクオ「あ、でも」



美咲「ん?」



ミクオ「前にも聞いたけど、美咲の・・・願いって何なんだ?」



美咲「・・・」



ミクオ「やっぱり、言えない?」



美咲「うーん、そうね」



しばらくの沈黙の後、静かに美咲が話し出した。



美咲「昔・・・現世でね、私はずっと、主の隣りで戦ってたの」



ミクオ「うん」



美咲「何度かの戦いを終え、目的は成就して、主は都に覇を唱えたわ」



ミクオ「・・・凄いな」



美咲「でも、ある者の裏切りにあって、私達は都を追われたわ。そして落ちのびて行く途中で、私は主とはぐれてしまったの・・・」



ミクオ「うん・・・」



美咲「そして、主は討たれ、私は生き残ってしまった・・・」



ミクオ「・・・そうか」



美咲「私の願い・・・悲願はね」



ミクオ「うん」



美咲「最後まで主を守りたい・・・そして願わくば、主の仇を討ちたい。それだけよ」



ミクオ「・・・そうか、わかった」



美咲「ミクオ?」



ミクオ「ごめんな、弱音吐いて」



美咲「ううん、棄権しなくていいの?」



ミクオ「うん。叶うといいな、美咲の夢」



美咲「・・・うん」



ミクオ「俺、役に立たなくて・・・ごめん」



美咲「ううん、そんなことないわ。今日もヒントをくれたし」



ミクオ「ヒント?」



美咲「うん」



何の事かは答えず、美咲は微笑んでいる。



ミクオ「・・・なにか、して欲しい事ないか?欲しいものとか、薬・・・は効かないんだっけ・・・」



美咲「そうね、欲しい物は、ミクオの携帯かな」



ミクオ「携帯? どうせ使えないし、それはいいけど・・・」



さっきの戦いで壊れてしまった携帯電話。そもそもこの世界ではなんの役にも立たない。



美咲「あと、して欲しい事なら、もちろんあるわよ・・・」



ミクオ「ん?」



美咲「さすがにダメージが大きくて、回復する為に、魔力使い果たしちゃったの」



ミクオ「あ・・・」



美咲「そうゆう事♡」



ミクオ「・・・でも・・・カラダ、大丈夫なの?」



美咲「そうね、ミクオがあんまり激しくしなければ平気よ(笑」



ミクオ「・・・って言われても」



美咲「お願い♡」



その身を覆っていた最後の衣服を脱ぎ捨てると、美咲はミクオの体を引き寄せた。





不思議な感覚だった。


恋人でもない、ましてや相手は人間でもない。


初めは魔力を与える為、とミクオは自分自身に理由づけをしていた。


だが途中から込み上げてくる美咲への愛しさに意識を奪われ、余計な事など何も考えられなくなった。


人間の恋人同士となんら変わらない行為を終え、訪れた蕩けるような心地よさに、いつしかミクオは眠りに落ちていた。




やがて目を覚ますと、美咲がこちらを見つめ、嬉しそうに微笑んでいる。



美咲「おはよう」



ミクオ「あ、うん・・・ごめん寝てた」



美咲「疲れてたのよ、ヨシヨシ♪」



ミクオ「・・・」



照れくささで隠れてしまいたい。



ミクオ「具合はどう?」



美咲「おかげでバッチリよ」



ミクオ「そうか、良かった」



美咲「ねえ、このほうが効率いいでしょ?」



ミクオ「あ・・・」



確かに、キスで無理矢理生命力を奪われるより、ミクオへの負担は少ない。



美咲「これで令呪も完全に繋がったし」



美咲は手の甲をミクオに見せた。言われて見ると、手に浮かんだ紋章が今までよりもハッキリと見える。



美咲「ありがとうねミクオ」



ミクオ「いえ・・・こっちこそ?」



なんと言えば良いのか・・・



と、美咲が突然ミクオの頬にキスをした。



ミクオ「ん?」



美咲「ミクオ・・・最高だったわ♡」









ベッドから出た2人はそれぞれ身支度を整える。


先程さりげなく見た美咲の胸からは、嘘のように傷も消えていた。


どうやら美咲の肉体は魔力で形成されているらしく、魔力の備蓄がある限りコンディションを維持できるようだ。


故に、実は身体を洗う必要も無く、メイクも崩れないとゆうある意味便利なものであった。



美咲「んー、まだ濡れてるなぁ」



だが、衣服までは復元できないのか、ミクオが眠っている間に洗ったらしいワンピースには、穴が空いたままだ。



そして、ミクオが眠っている間に、今度はアサシンのサーヴァントが消滅したらしい事を聞かされた。


これで残る敵は、セイバー、アーチャー、キャスターの3体となった。



ミクオ「回復したのは良かったけど、どれを狙うの?」



回復したどころか、今の美咲は出会って以来でも一番に元気そうであり、そして上機嫌だった。



美咲「もちろん、アーチャーよ」



一度やられているのに?とミクオが不安な表情を浮かべる。



美咲「大丈夫よ。今の私絶好調だし♡ それに、アーチャーの手の内なら心得てるから」



ミクオ「へぇ」



ミクオには美咲の意図はよくわからなかった。



美咲「あ、携帯もらっていい?」



ミクオが携帯を渡すと、美咲はそれをバーキンのバッグに仕舞った。



同じ失敗をしないよう、警戒しながらホテルを出ると、美咲は坂道に向かってミクオの前を歩いて行く。



美咲「居るわ・・・そこの角で止まってね。ミクオはそこから出ないでおいて」



ミクオ「・・・わかった」



役に立てないのなら、せめて足でまといにはなるまい、そう決めたミクオは、美咲の言う通り足を止めた。


ミクオを残し、美咲は平然と通りに出た。


言われた通り、ミクオは建物の陰から様子を伺う。



居た。


雪代と孫市だ。



坂の上に陣取り、どうやらこちらを待ち構えていたらしい。



雪代「へぇ、懲りずに来たんだ」



美咲「昨日はどーも。お見苦しい所を見せちゃったわね」



孫市「昨日は雨のおかげで命拾いしたな。今日はそうはいかぬぞ」



言われた通り今日は快晴、雨の降る気配は無い。


既に孫市は銃を構えている。




美咲「あら、一発撃てばそれで終わりでしょ?外したらそれまで。急所を外せばそっちに私の薙刀が届いちゃうわよ?」



孫市「ふん、見くびるなよ? 如何にランサーが俊敏だろうが、この距離があれば、近づく前に二発目を撃つのはたやすい」



孫市と美咲との距離は60メートルくらいだろうか。



美咲「それは失礼。でも火縄銃って撃つのに時間かかるんでしょ?」



雪代「なめんなよ、ほーれ」



見ると、雪代が替えの銃を携えていた。どうやら一発目を撃った孫市に手渡し、即座に二発目を撃たせるつもりのようだ。



美咲「なるほどねー。でもズルーい!二人がかりだなんて」



孫市「ふん、そちらもマスターと二人がかりで構わんのだぞ」



孫市が嘲るように笑う。



それを聞いてミクオは憤った。


カッとなり飛び出しかけるのを、美咲が右手を広げ、来るなとばかりに制す。



美咲「そうねぇ・・・マスターは大切にしないとだから、違うヘルプさん呼んじゃうわね」



雪代「え?」



そう言うと美咲は、ミクオに向けていた右手を、今度は高々と頭上に突き上げた。



美咲「・・・おいで、春風」



美咲が呟いた後、突如近くの地面がゆらゆらと歪んだかと思うと、生じた歪みから一頭の白馬が現れた。



立派な鞍をつけた美しい馬である。



美咲は現れた白馬に歩み寄ると、愛おしそうに馬の首を撫で、あぶみに足を掛けた。



美咲「じゃ、いきまーす」



鞍に跨った美咲が、鐙を当てて馬に走れと合図を出す。


そしていつの間にか美咲は、自分の背丈もあろうかという長弓を構え、矢をつがえていた。



美咲「届きなさい・・・!」



美咲が矢を放った。


けたたましい音が辺りに響き渡る。


鏑矢かぶらやだ。



孫市「ふん、騎射でそう易々と当たるものかよ」



孫市からすれば、確かに見当違いな方向に矢は飛んだ。



だが、



雪代「うぎゃっ・・・」



見れば、鏃が二股になった鏑矢で、手首を建物の壁に射止められた雪代が苦悶の声を漏らしている。



孫市「おのれっ」



これにはたじろいだ孫市だったが、咄嗟に構えた銃を美咲に向ける。


馬の首が邪魔だったが、なんとか射線が通りそうだ。


流石の手並みで美咲に照準を合わせると、すぐに引き金を引く。



銃声が響き、一発の弾丸が美咲の心臓目掛けて撃ち放たれた。




狙いは確かだった。



撃った瞬間、仕留めた、と孫市は確信した。



だが、撃たれた美咲は仰け反る事も、上手から地に落ちることも無く、そのままこちらに向かってくる。



孫市「馬鹿な!」



美咲が倒れない理由に孫市はすぐに気づいた。



孫市が引き金を引く瞬間、美咲は左手に提げたバッグで、狙われるで有ろう左胸を防いでいたのだ。



美咲「流石ね!狙いが正確過ぎて、防ぐの楽だったわ♡」



次の矢をつがえながら、挑発するかのように美咲が言った。



孫市「ちっ・・・」



急いで孫市は、雪代が地面に落とした鉄砲を取ろうとする。


が、



美咲「貫きなさい・・・!」



孫市が視線を外した瞬間を逃さず美咲が矢を放つ。


放たれたのは、貫通させる用途の鋭い鏃だ。



孫市「がはっ・・・」



矢は、身体を横に向けていた孫市の右胸から左胸まで刺し通していた。


致命傷だ。



やがて音も立てずに、孫市と雪代の姿は掻き消えていった。



見届けたミクオが美咲の元に駆け寄る。



ミクオ「やったな・・・美咲!」



美咲「うん、ありがとう。実は私、弓の方が得意だったり。いつもはたいていアーチャーで召喚されるのよ」



ミクオ「そうなんだ」



そう聞いて部屋での美咲の発言に得心がいったものの、ミクオにはまた新しい疑問が生じる。



(一体、美咲は・・・誰の英霊なんだ?)



その時、微笑んでいた美咲の顔が突如険しくなる。



美咲「ミクオっ!さがって」



と、ミクオを庇うように馬を前に出す。



ミクオ「え?」



驚くミクオに、意外な音が聞こえてきた。



パチパチパチ・・・!



大袈裟な拍手の音に、ミクオは振り返る。


彼方に、華奢な若い女性と、その隣に若い男性が立っていた。



女「いやー、お見事だわ!アーチャーに遠距離戦を仕掛けるとか凄いわね」



女性は嫌味ではなく本心で言っている風である。



美咲「あんたたち・・・」



チャオ、ヒロ、トモ・・・


今回、敵のサーヴァントはすべて、美咲の顔見知りだった。


向こうには美咲についての記憶が無さそうなのが救いだったが、今回のゲームマスターは趣味が悪い。



なので予想はしていたが、実際に目の前にして、やはり驚きは隠せない。


語りかけてくる女性、その顔かたちはどう見ても、かつて「wakuwaku」で一緒に過ごしたコマであり、隣に立つ男はコマの客だったゼロリスだ。



コマ「久しぶりね美咲。あなたと当たるとか想定外だったわ」


どうやらコマだけは美咲の事を覚えているらしい。



美咲「コマ・・・あんたマスターだったのね」



コマ「ええそうよ。もう何回目かしら?」



美咲「何度も・・? 一体なんの目的で?」



コマ「言う必要は無いわね。さて、こちらもさっきキャスターを倒したんで、これが最後の闘いになる感じね」



自ずと、隣に立つゼロリスはセイバーのサーヴァントだと言うことになる。



話の途中、能力の解放を始めたのか、男の姿が変わっていく。



古風ではあるが豪華な鎧に煌びやかな兜の前立て。


さぞや高名な武将に違いない。



美咲「ミクオ、下がっていて」



美咲は弓を薙刀に持ち替えている。



ミクオ「・・・ああ・・わかった」



ただの人間であるミクオにでもわかる。



このサーヴァントは格が違う。



コマ「あ、真名を伝えないとだね、こちらの方は・・・」



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